日本の中小企業は「CFO」を育られるのか?財務・経営企画・グローバルなスキル~「会社の番頭」の選び方・育て方[第6回]

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ひと昔前、会社の役職といえば、会長、社長、部長などと、日本語で統一されていましたが、近年はすっかり横文字の役職名も定着しました。

最もわかりやすい例が、CEO(Chief Executive Officer)です。日本語に訳すと最高経営責任者で、旧来の役職名の中では代表取締役が最も近いでしょう。日本では、代表取締役と社長職(President)を兼任していることが多いため、CEOと社長がよく混同されています。そしてここ数年、新たに認知され始めているのがCFO(Chief Financial Officer)です。

本連載では、これまでCFOの職務内容などについて解説してきました。今回は中小企業におけるCFOの育成について考えていきましょう。

中小企業内でCFOを育成することは可能か

まず結論から言ってしまうと、国内の中小企業内でCFO育成するのは、かなり難しくなります。その理由を考える意味で、以下にCFOに必要とされる能力について、おさらいしていきましょう。

【CFOに求められる能力】
1 財務能力
2 経営企画能力
3 その他のスキル(マネジメント、コミュニケーション、国際対応力、オペレーション管理、人事管理能力など)

まず1の財務能力です。CFOは企業内のキャッシュフローを把握し「数値を根拠にしながら、今後の経営について意見を述べていく」立場です。このため財務はもちろん、経理や税務についても豊かな経験知識が必要とされます。中小企業での経理や税務経験は、CFO育成に役立ちます。社員数が多く、なかなか要職へ就けない大企業とは異なり、多彩な業務を一通り担当できるからです。しかし財務については話が異なります。大企業は中小企業に比べ、日常的に動かす金額が多額です。特に「定期的な多額の資金調達」は、CFOを目指す人材にとって非常に貴重な実績なのです。

次に、2の経営企画能力です。CFOはCEOと共に、経営企画の立案に携わるポジションです。業界を取り巻く環境の変化をいち早く察知し分析したうえで、企業価値の検証にも気を配りながら、計画を立てていかなくてはなりません。またそれらの内容をまとめたマネジメントレポートの作成も、CFOの重要な任務のひとつとなっています。しかし中小企業内で財務を担当しながら、これらのスキルを同時に磨くのは、至難の業。経営企画面においてCFOに適しているのは「戦略系コンサルティングファームの就業経験者」と言われているほどですから、無理もありません。

最後に、3のその他スキルです。マネジメントやコミュニケーション能力は、人材の適性により中小企業でもブラッシュアップさせていくことが、充分に可能。オペレーションや人事管理も、部署替えを経ながらさまざまな業務を経験してもらうことが、CFOの育成に繋がります。しかしCFOは海外発で、職務の在り方自体に国際的な感覚が根付いている役職です。言語能力も含め、こうした感覚を自分のものにしている人材の確保は、採用難と言われる現代において、困難を極めるでしょう。特に中小企業にとって、そのハードルは高いと言わざるを得ません。

それでも国内の中小企業でCFOを育成するには?

ここまでの内容を一読して「やはり中小企業であるウチの社内で、CFO育成は難しそうだ。あきらめよう」と考えた経営者がいるかもしれません。

しかし少子高齢化で労働力が減少し、経済が停滞している日本企業再興のために、CFOの存在は必要不可欠とも言われています。ですから限られた人材の中でCFOを育成していくにはどうすれば良いのか、前向きに考える姿勢を持つことが大切なのです。以下でその方法論を模索していきましょう。

■中小企業が求めるCFO像をしっかり理解する

まず経営者が率先してCFOの価値を理解し、受け入れ環境を整えていくことが大切です。これまで「就業する企業の規模により、CFOが発揮すべきスキルには強弱が生じる」と、繰り返し述べてきました。そこで、いま一度、中小企業内で求められるCFO像を見ていきましょう。

まず中小企業は経営がそれほど多角化していないことから、経営計画や戦略についての発案が、ベンチャー企業や再生企業ほど切実に必要とされていません。そこでCFOは財務をしっかりと把握しつつ、日本企業でおろそかにされがちな企業価値検証業務を遂行し、CEOの役割を補佐していきます。もちろん将来的に、経営企画にも参画してもらう可能性はあります。

「とは言え、実際にCFOを雇用してみないと、その真価がわからない」という経営者は、「CFO業務を提供する中小企業向けの外部サービス」をテスト的に利用してみると、良いかもしれません。彼らとやり取りしていく中で「こんな場面でCFOを頼りたい」というイメージ像が、より明確に見えてくるはずです。

■CFO候補を具体的に絞り込む

CFOとして活躍できるポテンシャルを秘めた人材が成熟するまでには「大学卒業後から最低でも15~25年程度の時間と、経験が必要」と言われています。経営陣の一角にあたるため、決して経験の浅い人材に務まるポジションではありません。では中小企業の経営者は、具体的にどのような人材をCFO候補と目し、育成にあたるべきなのでしょうか。

まず家族経営を行い「将来、身内からCFOを輩出したい」と考える経営者は、財務に適性を持つ人材に目を付け、育成を始めます。

【財務適性の高い身内を育成する際のモデルケース】
1 学生時代に留学や海外渡航を経験し、語学能力や国際的感覚を身に着ける
2 大学卒業後に大企業の就職を果たし、財務経験を10年程度積む
3 中小企業への転職を果たし、経理税務の実務やマネジメント能力を5年程度学ぶ
4 コンサル会社への転職を果たし、企画経営能力を3年程度学ぶ
5 自社に転職し、CFOに就任する

身内からCFOを輩出するためには、上記のように周到な計画が必要となってくるのです。

しかし長い年月の間には、予期せぬ出来事が起きる可能性もあります。また身内とは言え、意志を持つひとりの人間を思うように歩ませていくためには、経営者自身も並々ならぬ苦労を強いられることになるでしょう。

そこで中途採用を考えることになります。選考の際には、上記のモデルコースになるべく近い経験を積んできた人物に、注目していきます。中でも重要なのは、2の「大企業における財務経験」と、4の「コンサル会社における企画経営能力研鑽」となります。事業展開の範囲に限度がある中小企業での就労では、習得が難しい知識経験だからです。

もし「条件を完全に満たしてはいないのだが、非常に有望だ」と思える人材と巡り会った場合は「取引先企業に交換実務研修を提案できないか」と考えてみるのも、一案です。その過程で中小企業での就労からは習得できない知識経験を、会得させられるからです。こうした経営者のたゆまぬ努力こそ、優秀な人材を社内に根付かせる基盤となっていくのではないでしょうか。

混迷を極める世界経済。その中で生き残っていくために、国際的なビジネススタイルを背景に持つCFOの存在は、ますます重要となっていくはずです。中小企業もじっくりと腰を据え、CFOの育成・受け入れ態勢を積極的に整えていきましょう。

著者

株式会社ボルテックス 100年企業戦略研究所

1社でも多くの100年企業を創出するために。
ボルテックスのシンクタンク『100年企業戦略研究所』は、長寿企業の事業継続性に関する調査・分析をはじめ、「東京」の強みやその将来性について独自の研究を続けています。

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