地域に根づく人材を育てる都市再生事業
〜人と地域を結びつける学びの場「ふくまち大学」の挑戦〜

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目次

全国各地で地方創生の取り組みが進められています。これといった「解」がない中、多様な人が集まる中心部の都市性に着目し、人と人とが出会う場や学びの機会を提供しているのがふくまち大学です。福井に新たな価値を付加しようと同校を立ち上げた、まちづくり福井の会長をつとめる岩崎正夫氏と福井県立大学地域経済研究所准教授の高野翔氏に話を聞きました。

「ひらく。つながる。できる。」を掲げる「ひらかれた学びの場」

県外への人口流出や中心市街地の衰退、地域経済の低迷。地方はさまざまな問題を抱えています。2年ごとに発表される「全47都道府県幸福度ランキング」の2022年版で5回連続総合1位の座に輝いている福井県も例外ではありません。

全国学力テストでは常に上位にランクインしながら、若い世代は大学や就職先を求めて県外に出てしまいます。伝統工芸品などモノのづくりは盛んでも、魅力的な雇用には結びついていません。

福井に新しい付加価値を創出したい。まちの再生を図り、若い世代が魅力を感じる都市を目指したい。そうした思いが結実し誕生したのが、福井市中心部をキャンパスに見立てた学びの場であるふくまち大学です。

2024年春の北陸新幹線の延伸開業を前に、福井県や福井市、福井商工会議所などで構成される県都にぎわい創生協議会は、2040年頃を目標に長期構想「県都グランドデザイン」を検討していました。その具体的な行動の一環として2022年に先行スタートしたのがふくまち大学。「ひらく。つながる。できる。」を校訓に、まちのさまざまな場所で授業やゼミ、部活動やサークル活動を行い、「ひらかれた学びの場」をつくっています。

「まちの学長」として全体のプロデュースをつとめる高野翔氏は言います。

「福井は車社会で、遊ぶ、働く、住むといった機能が郊外に移っています。しかし、中心部にはさまざまな価値観や多彩な人々と出会える都市性があります。それを活かし、福井中心部を何か新しい行動に結びつける場にしたいと考えました。客観的な幸福度ランキングは高いものの、市民があまり幸せを実感できていないという側面があります。一人ひとりが自分らしくいられたり、自己表現できる場を整えることで主観的にウェルビーイングを感じてほしいという狙いもあります」

市民を対象にしたひらかれた学びの場の創出は、国内にいくつか事例があります。しかし、ふくまち大学はそれらとは異なる点があります。

「ふくまち大学は、まちじゅうがキャンパスなのです。その真ん中になる福井市の中心部では今、再開発事業が進んでいますが、ふくまち大学はまちへの関わりをつくりだす都市再生事業の一つなのですね。高校生から高齢者まで多世代が参加しているのも特徴的です。ファミリーでの参加者も多く、先生が子連れで授業をすることもあります(笑)」(岩崎正夫氏)

人との出会いを後押しする実践型のプログラム

ふくまち大学を運営するのは20〜30代の6名。それぞれが各授業のマネージャーやエディター、アートディレクターをつとめ、ふくまち大学の活動を支えています。

参加に条件はありません。必要なのは、福井のまちを舞台に何か学びを得たい、まちをもっと知りたいという好奇心と、ちょっとした行動力だけ。福井市内だけでなく近隣の市からの参加者も少なくないそうです。

授業を企画する先生も募集しています。企画する授業の条件としては、まちなかの場を使うこと。それぞれの先生が好きなことや得意とすることを伝えること。そして、参加者の自主性を高め、参加者同士や参加者とまちとの関係性を育み、参加者が有能感を感じられる内容であること。単に講師が話をして終わるのではなく、人との出会いを後押しする実践型のプログラムが用意されています。

準備期間の22年度は「まちの未来を想像する学科」「まちの文化学部 野外映画上映学科」「まちの珈琲部」「まちの学び場をつくろうゼミ」「まちの健康学部 コミュニティナース学科」など13のプログラムが開催され、延べ387人が足を運びました。

なかでも好評を博したのが、世界の打楽器を使って即興演奏を楽しむ「まちのドラムサークル」です。

「参加者のみなさんと音を響き合わせる参加型の音楽ワークショップで、福井県庁の屋上で開催しました。県庁の屋上はこれまで県民にひらかれた場ではありませんでしたが、ふくまち大学の講座開催を機に活用することができました。今では県民が憩えるオープンな場所に変わってきています。変化のきっかけの一つとなってくれたようであれば嬉しいですね。」(高野氏)

その影響は予想外の動きを見せました。2023年7月には、全国に支店網を展開している大手企業から、ある依頼が寄せられたのです。

「福井支社に配属になった社員の新人研修として1年間、ふくまち大学のすべての授業に参加させてほしいという依頼でした。そういうことにも活用いただけるのかと驚き、ありがたく申し出を受けました。楽しく効率よく福井を知ることができ、福井のキーマンに会える場所というのが新人研修として選ばれた理由だと思います。最初の頃は、市民のみなさんにも、ふくまち大学を生涯学習センターやカルチャーセンターと混同されることがありましたが、今は補足説明する必要もなくなり、徐々に認知が広がってきていることを感じています」(岩崎氏) 

まちづくりに必要なのはビルや施設、派手なイベントだけではありません。年齢、性別、属性など関係なく、多彩な人々が交流し共創する「場」こそが、まちに魅力を付加する。このことが着実に市民の間に根づいてきているようです。

授業から波及効果が生まれている

「まちのきものサークル」「まちを綴る学科」「まちのモビリティ学科」など新たな授業も加わって、23年度の授業もスタートしました。今後について高野氏はこう話します。

「一つひとつの授業がどれも面白いので、もっと多くの人に届いてほしいと思います。運営メンバーは主にSNSやnoteを通じて告知活動を行っていますが、いかに授業の魅力を伝え集客に結びつけていくか。それが今後の課題ですね」

まちなかのどこかにふくまち大学の拠点を作りたいと話すのは岩崎氏です。

「まち全体をキャンパスとしていますが、授業の申込みや相談できる場があると今以上に広がりをつくりやすくなるはず。今年中になんとかそうした場をつくりたいと考えています」

課題はありますが、ポジティブな波状効果も生まれています。コミュニティナース(地域の人の暮らしの身近な存在として地域の人の力を引き出し、自由で多様なケアを実践する人材)について学ぶ「まちの健康学部コミュニティナース学科」では、近隣の市からの参加者が授業内容に触発されて、当人が地元でのイベント開催を決意しました。コミュニティナースという新しい言葉や生き方に関心を持ち、授業に参加した人が、次は自分の地元に新たな価値を与えようと主体的に行動を起こしたのです。

ふくまち大学の講座への参加を契機に、まちの楽しみ方を広げる先生役を担う参加者も現れました。

「新幹線の駅や駅前再開発などと違って物理的に光景が変わるわけではないので、ふくまち大学の効果はわかりづらいという側面もありますが、まちと人の関わる土台ができたことで、まちを楽しむ日常や仲間、そして多様なつながりが生まれつつあるように思います」(高野氏)

ふくまち大学の最終的な目標は福井の未来を担う人材が生まれる基盤づくり。回を重ねるごとに厚みを増していく土台から少しずつ、そして確実に、福井の未来を担う新芽が芽吹き始めているようです。

お話を聞いた方

岩崎 正夫 氏(いわさき まさお)

まちづくり福井 会長

1987年明治大学商学部商学科卒業。同年福井商工会議所に入所。主に観光振興、国際交流など関連する事業に取り組む。2007年と2016年にまちづくり福井に出向。2016年6月にまちづくり福井の代表取締役社長に就任。2023年7月より現職。ふくまち大学理事長兼任。

お話を聞いた方

高野 翔 氏(たかの しょう)

福井県立大学地域経済研究所 准教授

1983年福井県生まれ。英国シューマッハカレッジ卒(Master of Arts)。2009〜2020年、JICA(独立行政法人国際協力機構)にて、アジア・アフリカ地域の約20カ国で持続可能な国づくり・地域づくりプロジェクトを担当。2014〜2017年、ブータン王国にて人々の幸せを国是とするGNH(国民総幸福量)を軸とした国づくりに協力。2020年より現職。

[編集] 一般社団法人100年企業戦略研究所
[企画・制作協力]東洋経済新報社ブランドスタジオ

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