国際競争力向上が期待できる「外国人採用」のポイントとは?~中小企業経営者のためのダイバーシティ講座<第3回>
目次
日本は2007年に、65歳以上の高齢者の人口割合が全体の21%以上を占める、超高齢化社会へ突入しました。
2025年には高齢者の人口割合が30%の大台に乗りますから、現在より労働力不足が深刻になることは明らかです。これまで、新卒か中途の日本人のみを正社員として採用してきた中小企業も、本格的に方針転換しなくてはなりません。
本連載では「これまで被雇用者として、企業内で重視されてこなかった層」や「社会的なマイノリティとして、企業内でポテンシャルを発揮する機会が与えられてこなかった層」までの価値を再認識し、組織づくりの参考にしていきます。今回は「外国人」を取り上げます。
外国人を採用するメリット
厚生労働省が発表した『外国人雇用状況』によると、2019年10月末時点で、日本に就労目的で滞在している外国人は約166万人。この数値は前年に比べ13.6%上昇、また7年連続で過去最高値を更新し続けています。
また外国人労働者を雇用する事業所数は24万以上にも及び、こちらも前年に比べ12.1%の増加、過去最高値を更新しました。
最も多いのは中国人で約39万人。次に多いのはベトナム人で約30万人。その合計が全体の半数を占めているという状況です。
外国人は、労働力不足を補う貴重な戦力になってくれるというメリットがあります。ほかにも、外国人雇用が企業にどのようなメリットがもたらすのか、具体的に見ていきましょう。
[図表1]国籍別外国人労働者数
■海外進出のパートナーに
少子高齢化に伴う人口減が直接的な原因となり、国内市場は縮小を避けられない見通しです。中小企業でも国内市場に頼るだけでなく、国際的な展開を目指し、競争力を高めなくてはならない時代がすぐそこまで来ているのです。
その意味で外国人採用は、有効な先行投資にもなりえます。海外進出の際、重要なサポートができる人材への成長が期待できるからです。取引における通訳に始まり「現地法人の設立を任せる」「彼らが帰国後に現地で起業して、パートナー企業となってもらう」など、可能性はさまざまに広がります。
■既存スタッフに与える良い影響
日本労働組合総連合会が発表した『外国人労働者の受入れに関する意識調査2018』によると、外国人労働者が増えることを肯定的に捉えている人の数は、全体の半数以上(55%)に及びました。特に20代の若い世代には肯定者が多く、全体の65.5%が外国人とともに働く環境を歓迎しています。
肯定派があげる理由の中には「外国人労働者が増え、多様な考えに触れることで新しいアイディアが生まれる」「国際競争力の維持に欠かせない」など、ポジティブな意見が多く含まれます。外国人労働者は、社内へ少なからず新風を吹き込む貴重な存在なのです。
[図表2]外国人労働者が増えることについて、どのように思うか
助成制度にも注目を
外国人を雇用することで企業にもたらされる助成制度がいくつか存在していますので、一例を紹介しましょう。
・トライアル雇用助成金
ハローワークなど職業紹介事業者を介し、一定期間試験雇用した場合、1人あたり最大で月4万円が3カ月間支給される。
・人材確保等支援助成金
外国人を正規社員として雇用し、雇用管理改善計画に1年以上取り組んだ実績に対し、労働者1人あたり最大60万円が支給される(10名まで)。対象は特定技能1号・2号の在留資格を有する外国人。
助成金の多くは厚生労働省の管轄なので、必要に応じて問い合わせを行い、知識を深めておきましょう。
外国人を雇用する際に気をつけたいこと
ここまで外国人採用について、メリットを紹介してきました。しかし、注意しなくてはならない点もあります。以下に紹介していきましょう。
■在留資格には注意とサポートが必要
外国人が日本で就労するにあたっては、必ず「在留資格証明書」が必要となります。
在留資格には外交、宗教、介護、技術・人文知識・国際業務など多彩な種類があります。その発行を受けるためには「就労する業種に適した教育受けた」「すでに本国で同業種の就労経験がある」などの実績が必要。また外交の在留資格を得て入国した外国人が、途中で技術などの職種に転職することや、副業は認められていません。
国内の企業が外国人を雇用する際は、外国人雇用に特化した職業紹介事業者や人材派遣会社の仲介を受けることが多いため、こうした問題は事前にクリアされているケースが多くなっています。
しかし「すでに雇用した外国人スタッフから紹介を受ける」などの場合は、在留資格をきちんと確認しなくてはなりません。もし問題があった場合、本人は服役を含む罰を受け、のちに強制送還されてしまいます。もちろん事業者も責任を問われ、実刑や罰金が課せられることになるでしょう。
また外国人を雇用する際は「日本人と同待遇で迎えること」が大前提となっています。外国人だからといって給与などに差をつける雇用は、入国管理局が認可しません。もし強行した場合は、同様に罪に問われることとなりますので注意しましょう。
なお「海外から人材を招聘する」「卒業予定の留学生を新卒採用する」というケースでは、企業自らが入国管理局とやり取りし、必要な在留資格の取得をサポートすることとなります。在留資格には有効期限があり、更新する場合は所定の手続きが必要ですから、企業も率先して、外国人スタッフの在留資格情報を管理しておかなくてはなりません。
■在留資格の間口を広げた「特定技能」
政府は外国人労働者の受け入れを推進するため、2018年末の臨時国会において、在留資格「特定技能」の新設を可決しました。特定技能は1号と2号に分かれ、これまでの在留資格にはなかった分野(業種)も、数多く含まれるようになっています。「技能実習を修了する」、または「技能と日本語の各試験に合格する」という課題さえ通過すれば、日本で長期的に就労できるようになったのです。
特定技能は2019年4月から運用開始されましたが、2020年2月末の時点で、利用者は約3,000人。政府は「5年間で30万人以上が利用」と見込んでいただけに、かなり低い数値で推移しています。その理由はいくつか考えられますが「外国人労働者の本国でのルール整備が追いついていない」という現状が気になります。たとえばベトナムでは「ブローカーが仲介に入り、高額の手数料を要求する」という慣例を、きちんと制御できていないようです。
さらに新型コロナウイルス感染症の拡大で、各国が渡航を制限したこともあり、現在は期待されていた外国人労働力の流入が鈍化傾向にあります。
■国民性を理解し、定着を高める努力を
外国人労働者は、企業の将来にさまざまな可能性を与えてくれる貴重な戦力です。しかし雇用が叶っても、定着を実現できなくては、意味がありません。
出身国により違いはありますが、外国人は日本人と異なる国民性を持っています。特に中国人や欧米人は個人のキャリアアップを重視する傾向が強く、終身雇用制に馴染まないと言われています。特定技能を取得している優秀な人材は「このままここで働いていても、意味がない」と判断した場合、離職してしまうこともあるでしょう。
外国人の労働力に期待をかける場合、企業側にも相応の努力が必要となってきます。日本特有の「年功序列や協調性を偏重する仕事の進め方」は徐々に排除し、成果の正当な評価や、数値や書面を基にした情報共有を習慣にしていくことで、企業内部の国際化を推進していきましょう。
また日本人と比べ、外国人のなかには自身が信仰する宗教を重んじる人物が多数存在します。特に敬虔なイスラム教徒は、就業時間内にも祈りの時間を必要としているのです。こうしたニーズを理解し、社内に礼拝室を新設した国内の大企業もありますが、中小企業の場合は対応力にも限界があります。採用後に問題が生じないよう、生活習慣については事前の確認を怠らないようにしてください。
上記で紹介した以外にも、外国人を雇用した際にはさまざまな問題が浮上するものです。外国人は「仕事とプライベートをはっきり分ける」という傾向も強いので、スタッフの間で感情的な衝突が起きる可能性もあるでしょう。
しかし、異文化交流は実際の人間同士による飽くことのないやり取りの中で洗練されていくもの。国内の少子高齢化が深刻化する前にノウハウを蓄積しておけば、必ず企業や管理/人事スタッフの対応力向上につながります。
多様化する社会の波に乗り遅れず、国際的な競争力を高めていくためにも、外国人採用を積極的に検討していきましょう。
著者
株式会社ボルテックス 100年企業戦略研究所
1社でも多くの100年企業を創出するために。
ボルテックスのシンクタンク『100年企業戦略研究所』は、長寿企業の事業継続性に関する調査・分析をはじめ、「東京」の強みやその将来性について独自の研究を続けています。