広がる働き方の多様性…健康経営という視点も~中小企業経営者のためのダイバーシティ講座<第5回>
目次
日本は2007年に、65歳以上の高齢者の人口割合が全体の21%以上を占める、超高齢化社会へ突入しました。
2025年には高齢者の人口割合が30%の大台に乗りますから、現在より労働力不足が深刻になることは明らかです。これまで、新卒か中途の日本人のみを正社員として採用してきた中小企業も、本格的に方針転換しなくてはなりません。
本連載では「これまで被雇用者として、企業内で重視されてこなかった層」や「社会的なマイノリティとして、企業内でポテンシャルを発揮する機会が与えられてこなかった層」までの価値を再認識し、組織づくりの参考にしていきます。今回はダイバーシティの意義と必要性を総括します。
働き方改革の背景を見直す
第4次安倍内閣下の2018年4月に、労働基準法や労働安全衛生法など、8本の労働法改正を主眼とした「働き方改革関連法案」が国会に提出され、成立しました。2019年4月からは順次施行が始まっています。
一連の政策は「少子高齢化による労働力減少への対策」という側面を強く持っています。しかし「改革による生産性向上とともに、就業機会拡大、意欲や能力を存分に発揮できる環境作りも重要な課題」という、厚生労働省の方針にも注目しなくてはなりません。
1980年代、アメリカに次ぐ世界第2位の経済大国になった日本では「働けば働くほど儲かる」という通念がありました。週休二日制が導入されたのもこの頃ですが、焼け石に水。日本人の平均労働時間は欧米の2~3倍となり、長時間労働や過労死問題が表面化しました。
一方バブル崩壊後の1990年代には、一転してリストラが問題化します。企業は「最小限の人数で仕事をこなす」という方針を選択せざるを得なくなり、その結果としてまた、過労によるうつや自殺などの問題が表面化していきます。
その後2000年代、2010年代に「労働時間の短縮化を推進する法律」が何度も施行・改正されましたが、充分な効果はでませんでした。過酷な長時間労働に苦しんだり、過労死する人が跡を絶たないという状況が続いたのです。働き方改革はこうした問題の抜本的な解決を目指し、推進されることになりました。
多様性の受容にもはや待ったなし
働き方改革を推進するうえで必要不可欠なのは、これまで活躍の機会を充分に与えられてこなかった人たちの登用です。「高齢者と呼ばれる年齢になったが、まだ働く能力と意欲がある」、「子育てと並行しながら、柔軟に働きたい」、「障がいを持っているが、一定の業務には対応可能」という人たち、そして外国人に業務へ参加してもらうことで労働力に厚みが増し、既存従業員の生産性にも好影響が及ぶからです。
2020年4月からは中小企業も働き方改革関連法案の対象となり、スタッフに過度な残業を強いることはできなくなりました。違反すると罰則として、実刑や数十万円の罰金が課せられます。スタッフを「健康な20~50代の日本人」という属性だけに限定することは、もはや難しいのです。
ダイバーシティの一端を担うLGBT
多様な人材が就労する企業では、ディスカッションの中で斬新なアイディアが生まれ、業務の効率化も推進されていきます。ダイバーシティの持つこうしたメリットに気づいた時、新たに注目したいのは「LGBT」という属性を持つ人たちです。
【LGBTとは】
L(レズビアン)…女性同性愛者
G(ゲイ)…男性同性愛者
B(バイセクシュアル)…両性愛者
T(トランスジェンダー)…性自認と身体性が一致していない人
※上記のどれにも当てはまらない、或いは自分自身を限定したくないという人のためにQ(クエスチョン)を加え、LGBTQと紹介されることもあります。
LGBTは人々が生活の中で知らず知らずのうちに要求されているジェンダー(性的役割)へ、懐疑的な視線を投げかける存在です。異性愛を常識と考え、その枠組みだけに向けて開発されてきた商品やサービスに、新風を吹き込む活躍が期待されているのです。
優秀な人材が自身のセクシュアリティを隠すことなく、能力を存分に発揮できる職場環境には、豊かな多様性が必ず花開くはずです。
求められる経営陣の意識改革
では実際に国内企業で、働き方改革は進んでいるのでしょうか?
株式会社ワーク・ライフバランスが 2019年11月に、全国の20代以上のビジネスパーソンを対象に実施した調査によると「働き方改革がうまくいっている」と回答した人は、全体の約34%にとどまりました。「うまくいっていない」と回答した半数以上は、理由として「数字追求型となり、現実的でない目標値が設定されている」、「残業削減以外の施策をしていない」という意見をあげています。国内企業の経営者は目先の対応に追われ、働き方改革の本質的な目的を達成できていないようです。
[図表1]あなたの会社における働き方改革はうまくいっていると思いますか?
また株式会社レソリューションが2019年11月に、50名以下の中小企業経営者を対象に行った『外国人労働者に関する意識調査』によると、これまでに外国人労働者を雇用したことがある企業は全体の35%程度にとどまりました。理由としては「漠然とした不安」、「対応できる人がいない」、「手続きが面倒」などがあげられています。
さらにエン・ジャパン株式会社が運営するサイト『人事のミカタ』が、約400社を対象に実施した2018年の調査からは「障がい者の法定雇用率を達成しているのは、全体の約40%」という結果が導き出されました。懸念点については「既存スタッフからの理解」、「適した業務がない」、「安全面の配慮が不十分」という声があげられています。
[図表2]雇用するに当たっての課題
※複数回答4つまで
※本グラフでは19の選択肢のうち、任意の7つを表示
このような調査結果からは、働き方改革や企業のダイバーシティ化に対する、経営者の消極的な姿勢が垣間見えます。
しかし少子高齢化が進む日本では、確実に人材不足が深刻化します。「働き盛りの若くて健康な男性に、主戦力として、朝から晩まで働いてもらう」という考え方を崩せない企業は、衰退の道をたどるよりほかありません。そもそも『自分らしく働ける社会』を理想とする教育を受けた若い世代は、画一的な採用方針しか持たない企業への応募を、見合わせるようになってしまうでしょう。
「働き方改革の求める企業のあり方」を実現するためには、これまで見過ごされてきた慣例にメスを入れ、大胆な革新に着手していかなくてはなりません。そのために最も重要なのは、経営陣の意識改革。既存スタッフからの反発や戸惑いをまとめつつ、改善を目指す確かな手腕が、経営者に問われています。
これまでの繁栄を未来に繋げていくためには「今が正念場」となりそうです。
著者
株式会社ボルテックス 100年企業戦略研究所
1社でも多くの100年企業を創出するために。
ボルテックスのシンクタンク『100年企業戦略研究所』は、長寿企業の事業継続性に関する調査・分析をはじめ、「東京」の強みやその将来性について独自の研究を続けています。