事業戦略の立案に使える「ビジネスフレームワーク」の基本~中小企業の経営を強くする「事業計画書」作成のススメ[第2回]
目次
会社は継続して事業を行うことを目的とした組織です。事業を継続するためには利益を生み出さなければなりません。上場企業であれば、企業理念や事業内容、事業展開、事業戦略などを盛り込んだ、中期の「事業計画書」を作成しています。一方で、中小企業の場合、「事業計画書」を作っていないケースが多くみられます。
今回は「事業計画書」に盛り込む事業戦略を立案する際に役に立つ「ビジネスフレームワーク」について説明していきます。
フレームワークの王道「SWOT分析」
ビジネスフレームワークとは、意思決定、分析、課題の発見・解決、戦略立案、業務改善、組織マネジメントなどの枠組みのことです。フレームワークに当てはめて考えていくことで、自社の事業内容がクリアになるとともに、正しい戦略へと導く一助となります。そこで事業計画を作成するうえで役立つ代表的なものに絞って説明していきます。
まずはビジネスフレームワークの王道であるSWOT分析です。SWOTとは、「Strengths(強み)」「Weaknesses(弱み)」「Opportunities(機会)」「Threats(脅威)」の頭文字を繋げたものです。企業の「内部環境と外部環境」「良い点と悪い点」をマトリクス的に整理し、事業戦略を考えていきます。
【図表1】SWOT分析とは
SWOT分析を進める手順は、下記の通りです。
手順1.対象と目的を決める
何に対して分析を行うのか、対象を決めます。複数事業がある企業であればどの事業に対して行うのか、もしくは会社全体に対して行うのかを決めます。また「社内の改善点を把握する」、「今後の事業戦略を決める」など、分析の目的も明確にしておきます。
手順2.情報を書き出す
内部環境と外部環境について書き出していきます。ホワイトボードなどにSWOT分析の4象限の枠を記載し、思いつくだけの情報をすべて付箋に書き出し貼り付けていくと整理しやすいでしょう。複数人で行う場合には、全員が思いつく情報がなくなるまで出し尽くします。
手順3.項目の整理
書き出した情報は、強みであり弱みでもある、機会であり脅威でもある、というように二面性を含むことがあります。たとえば「お客様に合わせた細やかなサービス」は、事業として考えるとコストや工数がかかり、赤字になる可能性がありますが、サービスとして考えるとお客様のニーズに応えリピーターを獲得できるという一面もあります。どの分類に当てはまるかについては、「手順1」で決めた目的に立ち返り考えていきます。
SWOT分析から戦略を考える「クロスSWOT分析」
「クロスSWOT分析」は、SWOT分析で洗い出された4象限を縦軸・横軸にしてマトリクスを作成し、新たな4分類で会社や事業の戦略を考えていきます。
SWOT分析のみでは
・どのように強みを活かしていくか?
・どのように弱みを克服していくか? あるいは、切り捨てるか?
・どのように機会を捉えていくか?
・どのように脅威を回避していくか? あるいは身を守っていくか?
という整理になりますが、クロスSWOT分析は、この情報を掛け合わせて考えていきます。
【図表2】クロスSWOT分析とは
クロスSWOT分析でもSWOT分析の[手順1]で明確にした目的を改めて意識します。ここで最も重要なのが「戦略1」です。外部環境も内部環境もプラスの状況なので、競争優位性を発揮できるように攻めの戦略を考えます。
「戦略2」は外部環境がマイナスで内部環境はプラスの状況。脅威を避けるために、ターゲットを変えたり、提供方式を変えたりなど、方針転換が必要になります。このコロナ禍の状況は、まさにここに当てはまるでしょう。
「戦略3」は弱みを改善することで、新規事業の開発や顧客への新たなアプローチができるようになるかもしれません。
「戦略4」では撤退を考えます。撤退が難しい場合には被害を最小限にできるように戦略を練っていきます。
ミクロな環境整理は「3C分析」から
「3C分析」はSWOT分析と並ぶ基本的なビジネスフレームワークであり、SWOT分析の情報を集めるうえで、非常に重要なフレームワークです。SWOT分析はクロスSWOT分析に繋げるために、良い点と悪い点で分類していきますが、その前段階の事実を集めるための工程が3C分析です。
3Cとは「Customer(市場・顧客)」「Competitor(競合)」「Company(自社)」のことで、それぞれの視点で主に以下のような情報を整理していきます。
【図表3】3C分析とは
「Competitor(競合)」の分析を行ううえで、ポジショニングマップは有効です。これは、市場における自社の位置づけを明確にするために作成するもので、差別化を考えるうえでも非常に便利です。以下のような、美容業界におけるポジショニングマップを作成したとします。
【図表4】ポジショニングマップ例
お客様が商品やサービスを選ぶうえで基準になると思われる要素を考え、特に重要である要素で2つの軸を設定し、4象限のマトリクスを作成します。そのなかに競合他者のポジションと自社のポジションを書き出していきます。自社のポジションを明確にすることで、お客様に自社の商品・サービスを選択してもらう理由の把握が容易に。さらに全体の状況を踏まえて、今後の自社の戦略を検討していくことができるようになります。
マクロな外部環境分析の「PEST分析」
SWOT分析の項目で、外部環境の情報を整理するうえで有効なのがPEST分析です。PESTとは、「Politics(政治)」「Economy(経済)」「Society(社会)」「Technology(技術)」の頭文字を繋げたもので、マクロな視点での分析に優れています。特に今の状況だけではなく、今後どうなっていくか、短期、中期、長期の視点で分析していきます。
【図表5】PEST分析とは
マーケティング戦略を考える「4P分析」
事業戦略に沿って市場・顧客にアプローチするうえで、4P分析は欠かせません。4Pとは「製品(Product)」「価格(Price)」「プロモーション(Promotion)」「流通(Place)」のことで、この4つの要素からマーケティングの戦略を考えます。
4P分析は3C分析の「Competitor(競合)」を考えるうえで有効です。またクロスSWOT分析で事業戦略を考えたあとに、マーケティング戦略を検討していく際にも重要な視点となります。
【図表6】4P分析とは
ビジネスフレームワークはここであげたもの以外にも多数あります。一つひとつのビジネスフレームワークが完結しているわけではなく、それぞれのフレームワークが補完し合う関係にあります。事業戦略を立案する段階においてはもちろん、改めて事業戦略を考え直す機会にも役立ちます。
著者
山田 典正
アンパサンド税理士法人/アンパサンド株式会社 税理士
大学を卒業後に税理士試験に専念した後、平成20年1月に都内大手税理士法人に就職。 個人や中小同族会社の税務相談や経営周り全般の相談から大手上場企業の税務相談まで幅広い分野で活躍。事業承継、組織再編、連結納税、国際税務、事業再生と多岐に渡るコンサルティング実績がある。また、相続申告業務についても多数の実績を有する。
平成27年1月 山田典正税理士事務所として独立。独立後も、補助金支援において創業補助金採択、ものづくり補助金採択の実績を有し、生産性向上設備投資促進税制の申請支援、資金調達支援、事業承継支援、上場企業の税務顧問等、多数の実績を有する。
平成30年1月、社名をアンパサンド税理士事務所に変更。令和元年10月、アンパサンド税理士事務所より組織変更。