『国運の分岐点 中小企業改革で再び輝くか、中国の属国になるか』日本経済再生のカギは「中小企業神話」の克服にあり
目次
国運の分岐点 中小企業改革で再び輝くか、中国の属国になるか
デービッド アトキンソン(著/文)
発行:講談社
発売日:2019年9月21日
本書の「中小企業改革で再び輝くか、中国の属国になるか」というサブタイトルは非常に刺激的で、各所で物議を醸している。
著者のデービッド・アトキンソン氏は、英オックスフォード大学で日本学を専攻し、米ゴールドマン・サックスの経済アナリストとして、1997年からの金融危機とその後の銀行大再編を予測して名をはせた、「伝説のアナリスト」である。
今は、縁あって文化財修復最大手の小西美術工芸社の社長として活躍する。またゴールドマン退社後も、日本経済ウォッチャーとして、日本を救うための数々の提言を行ってきた。
その著者が、先進国中最下位にある日本の生産性を高めるための具体的な方法を示したのが本書である。
日本の「少子・超高齢化」はもはや否定しえない事実である。他方、日本人は人口減によってこれから起こる危機を甘く見すぎている。多くの日本人は、そうはいっても今までの仕組みを微調整して対応すれば何とかなるだろうと、楽観的に考えているのではないか。
しかしながら、事態はそれほど甘くはない。このまま手をこまねいていれば、日本経済は確実に破綻する。
それを回避したいのであれば、経済の生産性を高める以外の選択肢はなく、これが今、国も民間も真っ先に取り組まなければならない最優先課題である。
そして、その本丸が、これまでタブー視されてきた中小企業改革、すなわち中小企業の統廃合であり、具体的には、現在360万社弱ある中小企業を200万社弱に統廃合することである。
もしこれに取り組まないと、その先に待っているのは、さまざまな形で中国経済が日本経済に関与してくる「経済的属国化」だというのが、著者の見立てである。
今後、日本では社会保障負担がますます増える一方、生産年齢人口が激減し、生産性の低い中小企業を改革しなければ、国の財政はさらに悪化する。
そのタイミングで将来確実に起こるといわれている「首都直下型地震」や「南海トラフ地震」に襲われたら、数百兆円規模とも予想されるその経済的損失に対する復旧・復興を「支援」できるのは、中国をおいてほかにないということである。
日本人としては直視するのが辛いが、おそらくこのシナリオはそれほど間違ってはいないだろう。
ゴールドマン時代に著者が書いた「日本の主要銀行 2~4行しか必要ない」という過激なタイトルのリポートがある。その中で彼は、ほとんどの日本の大手銀行は実質債務超過であり、業界再編と公的支援は不可避だとして日本政府と銀行業界の猛反発を受けたが、その結果がどうだったかは周知のとおりである。
著者によれば、これからの日本を待ち受けているのは、明治維新以上の社会的な大変革である。
こうした大きな議論をしようとすると、日本人はどうしても情緒的になってしまい、冷静かつ論理的に対応するのがなかなか難しいのだが、本書をきっかけに、日本経済の破綻を避けるための真剣な議論が始まってほしいと思う。
※週刊東洋経済 2019年11月30日号掲載
著者
堀内 勉
一般社団法人100年企業戦略研究所 所長/多摩大学大学院経営情報学研究科教授、多摩大学サステナビリティ経営研究所所長
多摩大学大学院経営情報学研究科教授、多摩大学サステナビリティ経営研究所所長。東京大学法学部卒業、ハーバード大学法律大学院修士課程修了、Institute for Strategic Leadership(ISL)修了、東京大学 Executive Management Program(EMP)修了。日本興業銀行、ゴールドマンサックス証券、森ビル・インベストメントマネジメント社長、森ビル取締役専務執行役員CFO、アクアイグニス取締役会長などを歴任。
現在、アジアソサエティ・ジャパンセンター理事・アート委員会共同委員長、川村文化芸術振興財団理事、田村学園理事・評議員、麻布学園評議員、社会変革推進財団評議員、READYFOR財団評議員、立命館大学稲盛経営哲学研究センター「人の資本主義」研究プロジェクト・ステアリングコミッティー委員、上智大学「知のエグゼクティブサロン」プログラムコーディネーター、日本CFO協会主任研究委員 他。
主たる研究テーマはソーシャルファイナンス、企業のサステナビリティ、資本主義。趣味は料理、ワイン、アート鑑賞、工芸品収集と読書。読書のジャンルは経済から哲学・思想、歴史、科学、芸術、料理まで多岐にわたり、プロの書評家でもある。著書に、『コーポレートファイナンス実践講座』(中央経済社)、『ファイナンスの哲学』(ダイヤモンド社)、『資本主義はどこに向かうのか』(日本評論社)、『読書大全 世界のビジネスリーダーが読んでいる経済・哲学・歴史・科学200冊』(日経BP)
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