「nishikawa ism」のもとに革新を重ねて500年へ

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本記事では、2020年10月29日開催のシンポジウム「THE EXPO 百年の計」 に登壇いただいた、経営者・経営学者の方のお話しをさらに深堀りします。
今回は、西川株式会社 代表取締役社長 西川 八一行氏にうかがいます。

社是を具体化し意思統一を図る

戦国時代1566年の創業で、誰もが知る寝具の老舗ブランドである西川。だが、つい最近まで「西川産業」「西川リビング」「京都西川」という3社が同様の事業を展開していたのをご存じだろうか。その3社を2019年に経営統合して誕生した西川株式会社を率いるのが、西川八一行(やすゆき)代表取締役社長である。

「世界へ打って出ようという時に、身内同士で価格競争などしていてはいけないし、いくつも会社があるのはブランディング上も好ましくありません。そこで、各社の株主の皆さんに、統合したい旨を粘り強く時間をかけてお願いし、ご理解をいただいて、実現することができました。組織というものは、時代の要請や世の中の動きに応じて柔軟に変えていかなければいけないと思っています」

元々ひとつの会社だった3社は、第二次世界大戦の戦禍を避けるために分社したとされるが、70年以上別会社だったため、それぞれ社風も異なっていた。そんな3社で働く人々を一つにしようと西川社長が強調したのが、「誠実・親切・共栄」という社是である。さらに西川社長は、「生活者志向」をはじめとする7項目からなる「nishikawa ism」を策定した。

江戸時代から伝わる西川の社是「誠実」「親切」「共栄」

「nishikawa ismは、社是を具体的にしたもので、変えてはいけない、後世に残すべき DNA と言っていいものです。社員にとっては、考え方、精神的な支柱として、あるいは判断に迷うときの基準になります」

nishikawa ismを実践できているか否かは人事評価にも使われ、西川社長は、nishikawa ismを理解している社員を積極的に登用していくと社内で公言している。

nishikawa ism

伝統とは、革新を続けたのちに残る足跡にすぎない

西川社長は西川家の15代目当主だが、創業家出身ではない。1995年、28歳で先代・14代甚五郎氏の婿養子として西川家に入り、西川産業に入社した。

「当時、“日本人は家の外見は気にしてお金をかける一方、欧米人に比べて室内に対する意識が低く、そこにお金もかけない。それを世界に近づけたい”という、今にして思えば少々青臭いことを考えていました。ところが入社してみると、業績が悪化していることに加え、社員たちの意識にも問題があることがわかりました」

また、海外ブランドのライセンス商品が主力で、西川オリジナルと呼べる商品はほとんどなかった。そのため役員をはじめ社員たちに、自社が「卸売業」だという意識が根付いてしまっていた。その結果、自分たちにとってのお客様は百貨店・専門店などの販売店であると認識してしまい、商品も愛情を注いで開発するのではなく、先方の要望に合わせて何でも作る状況になっていた。

「今後はSPA(製造小売=製造から小売りまでを一貫して行う小売業)型が主流になるという予測を考えれば、卸売業は衰退するだろうと。それに、当社のお客様の9割は女性なのに、その開発を年配の男性たちがやっているのは、やはりギャップがあるのではないか。そんな話をすると、60~70代の役員たちからは疎まれました(苦笑)。ただ、私としては“本当のことを誰かが言わなければ”と思っていました」

西川社長は、十数万品種もあった商品の整理に取り組んだほか、会社として初めて女性総合職を採用するなど、社内の改革を進めた。そうして2006年、38歳で西川産業の社長に就任した。

「その際に先代から言われたのは、『あまり伝統と言うな。革新を続けて、その足跡のように残ったのが伝統にすぎないのだ』ということでした。そして、『我々の仕事は生活に密着しているのだから、常に“生活の変化”を先取りしなくてはならない。ゆえに、常に革新が必要なのだ』と」

理念から行動、評価までを一貫させることが肝要

先述した社是は、社員たちに実質的に忘れ去られていたものを西川社長が就任時に掘り起こし、解説をつけて社内に広めたもの。そして、nishikawa ismの最初の項目を「生活者志向」としたのも、祖業である「行商」という原点に立ち返る意味を込めたためだった。

蚊帳を売る近江商人と、萌黄色に染めた蚊帳

次々と改革を進める西川社長の行動力は、前職の住友銀行勤務時代の体験が元になっている。1993年、ニューヨークにあるワールドトレードセンタービルの地下駐車場が爆破されるテロ事件が発生。最上階で勤務していた西川氏は、煙が充満する真っ暗闇を避難する途中で死を覚悟したという。

「その時、“たとえ自分に落ち度がなくても、突然人生の終わりがやってくることはあるのだ”という認識に至りました。そしてそれ以降、“自分に残せるものは何か”と考えるとともに、“今やるべきことはやっておかねばならない”と考えるようになりました」

そんな西川社長がめざすのが、日本と欧米の経営の長所を組み合わせたハイブリッド型経営だ。その実現のために、みずから1ページ1項目からなる「グラスルーツ勉強会資料」を作り、社員に配布している。これは、西川社長が学んだ世界の経営の考え方やMBAの基礎を、新入社員にでもわかる平易な言葉に書き換えたものだ。

「7つのnishikawa ismを実践するために、どのようなことを考えて実務に当たればいいのかというノウハウやテクニックを書いたのが、グラスルーツです。それらは、以前であれば上司や先輩に教えてもらうことが多かったのでしょうが、そのベースが間違っていれば間違ったまま伝わってしまいます。私としては、『それはある時期には正しかったけれど、今の時代ではこうだ』と伝えています」

夢や理想――これは理念やミッションと言い換えていいものだが――といった大きな方針から、計画、具体的なアクション、それに対する評価までを、nishikawa ismのもとに一貫させたいと西川社長は考えている。

コンサルティングとソリューション商品の組み合わせで勝負

西川社長みずから発案し、世界のトップアスリートたちに愛用されているコンディショニングマットレス「AiR [エアー]」をはじめ、西川の日本睡眠科学研究所では、研究所や大学と連携し、「睡眠科学」に基づいた商品開発を行なっている。ブランドロゴにも添えられている「よく眠り、よく生きる。」をモットーに、単に寝具を売るのではなく、睡眠全体を改善することで免疫力や生産性を上げ、それによって将来の社会課題を解決する「眠りのソリューションカンパニー」を標榜している。

眠りの質を改善することで社会に貢献するという大きな夢。西川社長の目は、それを日本国内だけでなく世界でも実現することに向けられている。

「単なる寝具では、他の製品との差がわかりにくいし、発展途上の国では安いものを提供するだけになってしまいます。眠りに関するコンサルティングも、同様のサービスを提案するライバルはすぐに出てくるでしょう。そこでカギを握るのが、お客様の睡眠や睡眠環境の“見える化”で、私どもの寝具では、寝具にセンサーを入れることによって日頃の心身の状態を読み取ることができます。そうしたデータを基に行なう専門的なアドバイスと、それを実現するソリューション商品。この2つを一体化させて、海外に打って出たいと考えています」

新型コロナウイルスの出現で、人間の免疫システムに対する人々の関心と意識は高まったが、そこにも睡眠は深く関わっていると西川社長は言う。

「人間の免疫システムは実によくできていて、病気のことをすべて記憶し、それに対抗する武器も持っています。そうした情報は、実は睡眠時に評価や整理がされていることが確実視されていて、それがその人らしさを作る重要な要素になっていることが科学的に解明されつつあります。その意味では、免疫システムにおいても睡眠はフロンティアなのだろうと思います」

創業500年となる50年後も社会から必要とされる会社に

就任から14年が経ったものの、現在まだ53歳と脂の乗り切った西川社長。後継者にバトンを渡すのはしばらく先になりそうだが、その時、どんな言葉を贈るつもりなのだろうか。

「“リーダーというのは、ジャングルを鉈(なた)で切って進むぐらいしんどいものだ”というのは、私が先代から言われたことで、次の人にもまずこれを伝えたいですね。それと、リーダーは“自分なりの北極星”を持つことが一番大事かもしれません。北極星というのは、すなわち5年後、10年後の会社の目指すべき方向になるかと思いますが、それを時々見ないと、気がついたら全然違った方向へ進んでいる危険性があります。リーダーは高い位置から遠くを見て、たとえ嫌われても、『この方向に進むのだ』と言い続けることが責務ですし、それを次世代にも繫げていければと思います」

西川は、今世紀半ばには創業から500年を迎える。その時の会社の姿について西川社長は、「今から50年後となると、何を生業にしているのか正直わかりませんが」と前置きした上でこう話す。

「当面は、現在行なっているIoTの技術をさらに発展させて、寝具を通じて取得した睡眠中の心身に関する情報を、医療や保険、あるいは購入すべきものを提案するサービスに繫げていきたいと考えています。つまり、その日のその人に合ったサービス、商品をオーダーメイドで提供するプラットフォームの入口に当社がなれていれば、世界的にも必要とされ、当社も成長しているのではないでしょうか」

これまで400年以上にわたって変革を続けてきた西川。50年後も「生活者志向」を旗印に、人々の眠りと暮らしを支えていることだろう。

お話を聞いた方

西川 八一行氏

西川株式会社 代表取締役社長

1967年生まれ。早稲田大学卒業後、住友銀行入行。ニューヨーク支店や国際統括部での勤務を経て、95年西川産業入社。2006年38歳で社長就任。点で支えるコンディショニングマットレス [エアー]や、眠りを計測・可視化し上質な睡眠環境を提案する「ねむりの相談所®」など、新しい商品やサービスを次々と生み出す攻めの経営を展開。19年、西川産業、西川リビング、京都西川3社が経営統合して西川株式会社となり、社長就任。創業450年を超える老舗企業にあって常に革新に挑み続けている。

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