危機に直面する中小企業を救う「事業再構築補助金」の全貌~認定事業再生士(CTP)執筆
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コロナ禍で経営難に直面する中小企業。その救済を目的とした持続化給付金を始めとする各種支援策が次々と終了し、いよいよ万事休すという経営者も……。そんな中、新たな支援策が令和2年度第3次補正予算に盛り込まれました。
今回は3月に公募開始が予定されている『事業再構築補助金』について解説します。
※本記事は2月19日時点の情報をもとに作成しています。
コロナ禍で経営難に陥る中小企業の現状
新型コロナウイルスは、全世界に深刻なダメージを与えており、いまだ収束の兆しが見えません。残念ながら、日本も例外ではなく、甚大な被害を被っています。国内の多くの大企業は内部留保を十分に積んでおり、また銀行団による迅速な支援体制もあり、資金繰りに大きな不安はないと思われます。
一方で国内の中小企業を見ると、新型コロナ以前より実に約70%が赤字でした。慢性的な赤字で内部留保などあるはずもなく、新型コロナによる売上高の激減により、多くの中小企業がいつ破綻してもおかしくはない状況でした。しかし持続化給付金、家賃支援給付金、雇用調整助成金(新型コロナ特例)、実質無利子である新型コロナ融資等、政府の懸命な支援策により資金繰り倒産を免れているのが実状です。
企業の本業での利益を営業利益といいます。補助金、助成金は本業による収益ではありませんので、営業外収益で計上します。つまり、新型コロナによる売上高の減少と、売上総利益の減少は、そのまま本業である営業損益の悪化になります。新型コロナ前より約70%の中小企業が赤字でしたので、現在はより多くの企業が赤字となっているはずです。また以前より赤字の企業は、赤字幅がより深刻化していると思われます。
いわば、国の支援金と借金で経費を払っている異常事態です。
これらの政府の支援により、昨年の倒産件数は2000年以降2番目の低水準でした。2021年も2020年と同規模の支援策が実施されれば、倒産件数は低水準で推移するかもしれませんが、先述の通り、続々と支援策が打ち切られています。中小企業は、とうとう追い込まれてしまう可能性があります。
事業再構築補助金の概要
支援策を打ち切る政府ですが、積極的に中小企業を倒産させようとしているわけではありません。2020年の単なる資金繰り対策は、2021年は実施しないと言っているだけです。
2021年の1月28日に成立した第3次補正予算に政府のメッセージが込められています。単なる資金繰り対策の代わりに盛り込まれたのが、「事業再構築補助金」です。
その名の通り、新型コロナにより旧来のビジネスモデルではもう立ち行かなくなった中小企業に、事業再構築を支援する補助金です。生き残るために変化を選ぶ中小企業は積極的に支援しますと政府は言っているのです。裏を返せば、生き残るために変化しない企業はもう支援しませんという強烈なメッセ―ジなのです。
政府の本気度は、その予算枠に表れています。1兆1,485億円という巨額の予算です。ピンと来ないかもしれませんが、中小企業向けのビジネス系の最も代表的な補助金であるものづくり補助金の数年分を1年で消費すると言えば、イメージが伝わるでしょうか。筆者は、この補助金が中小企業生き残りの最後の大型支援策だと予想しています。
【事業再構築補助金とは】
申請には、以下の要件を満たす必要があります。
●申請前の直近6ヵ月間のうち、任意の3ヵ月の合計売上高が、コロナ以前の同3ヵ月の合計売上高と比較して10%以上減少している。
●事業計画を認定経営革新等支援機関や金融機関と策定し、一体となって事業再構築に取り組む。
●補助事業終了後、3~5年で付加価値額の年率平均3.0%(一部5.0%)以上増加または従業員1人あたり付加価値額の年率平均3.0%(一部5.0%)以上増加達成を見込める。
上記の要件を満たせる中小企業のみに、支援の手が差し伸べられるのです。
事業再構築補助金にみる中小企業支援の方向性
ここまで紹介したように、事業再構築補助金には「アフターコロナを見据えた営業活動の中で、既存のビジネスモデルを変革し、再生を志す企業を支援する」という、政府の方針が打ち出されています。
しかし簡単に支給されるわけではありません。助成金のように申請書類が正しければ必ず支給されるものではなく、申請書を有識者がチェックして合格しなければ補助がなされません。難しい言葉ですが、この合格率を採択率といいます。類似のものづくり補助金では40~60%程度です。この補助金創設の背景まで考えると、今回の採択率は50~70%程度になるのではと筆者は見込んでいます。
新型コロナを理由として廃業を選択する中小企業は別として、大半の中小企業が生き残りのために変化が必要なはずです。仮に事業再構築に900万円の投資が必要なケースでは、最大600万円が補助され、自己負担は300万円で済みます。来年以降の事業再構築補助金についてはまったく不明です。2021年のわずか1年の限定措置であったとしても筆者は驚きません。多少余裕があり2022年に設備投資を行おうと考えている経営者も、前倒しして2021年に申請することを考えるべきです。
なるべく早く申請すべき理由
ここまで紹介してきたように、事業再構築補助金は「中小企業が生き残るための強力な武器もしくは軍資金です。すべての中小企業が真剣にこの補助金の活用を考えるべきだと思います。
事業再構築が補助対象と聞いても、ピンとこないかもしれません。事業再構築補助金のパンフレットには、以下のような「事業再構築事業の活用イメージ」が掲載されています。
こうした再構築の際に必要な建物費、設備費、広告宣伝費などを支給するのが、今回の補助金です。
中小企業の経営者が上記のような戦略を考え、審査を通過する計画に落とし込み、申請書にわかりやすく反映するのは、事実上不可能です。原因はスキル不足と時間不足です。ごく一部の経営者を除き、このような詳細な計画を立て、わかりやすい資料に落とし込んだ経験は少ないはずです。生死を分けるかもしれない補助金の申請において、未経験のまま臨むことはあり得ません。またスキルがある経営者でも、他にやるべきことがたくさんあるはずです。このような経営者の実状を政府もよく理解しているのでしょう、この補助金は認定経営革新等支援機関や金融機関と計画を策定することを申請の条件にしています。支援機関はHPで検索可能ですから、自社の業務への理解、エリアなどから選定してください。
認定支援機関が決まると次は、いつ申請すべきかを考える必要があります。
事業再構築補助金の申請開始は、2021 年 3 月に予定されています。この補助金の支給はスピードが要求されますので、募集期間が半年間で、最後にまとめて審査及び発表では間に合いません。募集日程の詳細は明らかにされていませんが、平常時の大型補助金であるものづくり補助金においては、第1次から第5次のように分割募集することで、申請から補助までの期間短縮を実現しています。
「3、4月は多忙だし、特に急ぐ必要もないから、後でもいいかな?」
おそらくこれは間違った考えです。過去の事例を見ると、第1次、2次の採択率が高く、その後大きく低減しています。今回も同様の傾向だと予想します。
早く申請するメリットは、いち早く事業再構築に着手できることで、赤字で資金流出する期間が短縮される、おそらく採択率が高いというものです。先延ばしするメリットはないと思います。ぜひ、すぐに事業再構築の検討と申請に向けて動き始めましょう。
著者
坂本 利秋
認定事業再生士(CTP)/合同会社スラッシュ 代表
東京大学大学院工学系研究科卒業。日商岩井(現双日)にて、数千億円の資産運用を経験。その後、ITベンチャー企業に転身。国内初SNS企業の財務執行役員に就任し、その後上場企業に売却、30代で三井物産子会社の取締役に就任し企業成長に貢献、グループ売上高1,000億円の上場IT企業の経営管理部長として企業再生を行う。 中小企業の経営者のためだけに徹底的に支援したいという思いから、2009年より中小企業の売却、事業再生支援を行う。中小企業の再生人材不足が危機的な状況にあることから、2020年より企業再生人材の養成講座を開講する。