同族経営とは?同族経営企業のメリット・デメリットや成否のカギを考察

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記事公開日:2021/07/14    最終更新日:2023/06/06

日本の長寿企業(創業から100年を超える企業)のうち90%以上が同族経営(ファミリービジネス、家族経営)である点は注目に値します。同族経営ならではのメリット・デメリットや事業承継のポイント、成否のカギを考えます。

同族経営とは?

同族経営とは、創業者の家族や家系が株式や経営を掌握している企業のことを指し、「ファミリービジネス」や「家族経営」「オーナー企業」などと同義語です。所有と経営が一致しているという特徴があります。

日本における同族経営と長寿企業の関係

日本企業の90%以上が同族経営であることはすでに述べた通りですが、もう1つの特徴は、日本が「長寿企業大国」であることです。

日経BPコンサルティング・周年事業ラボは2020年に「創業年数が100年以上、200年以上の企業数が最も多い国は日本」という調査結果を発表しました。国内の100年企業総数は3万3,076社で、2位のアメリカ(約2万社)、3位のスウェーデン(約1万4,000社)を大きく引き離しています。さらに200年企業となると、日本には1,340社が存続しており、これは世界全体の65%を占める割合です。

100年という長い歳月の間には、二度の世界大戦を含む複数の戦争がありました。また日本は地震をはじめとする大規模な自然災害や、バブル崩壊などの金融危機も経験しています。こうした苦境を乗り越え、なお経営を続ける日本の長寿企業には、世界からも注目が集まっているのです。

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同族経営は経済を支えている

終身雇用制度が瓦解した近年の日本では、個人のキャリアアップが重視されるようになっています。自己実現のための転職や起業、副業が一般化し、働き方が多様化する中、「血縁」という濃い人間関係を基盤とする同族経営は、閉鎖的なイメージで捉えられ、敬遠されることもあります。

しかし実際には、日本企業の90%以上が同族経営です。トヨタ自動車やパナソニック、サントリーなど錚々たる大企業も、同族経営で今日の地位を築きました。またアメリカにおいても、同族経営の形態を採る企業が80%以上を占めています。先進国においても、国の経済を支える存在なのです。

同族経営のメリット

それでは以下に、同族経営にはどのようなメリットがあるのかをみていきましょう。

意思決定がしやすく、経営をスピーディーに行える

同族経営の経営者は、サラリーマン経営者、いわゆる雇われ社長とは異なり、自身が多くの株式を保有しているため、経営の決定権があります。企業の所有と経営が一致しているため、トップが意思決定しやすく、その内容をスピーディーに経営に反映できます。したがって、時代の変化に即した変革を素早く実行することが可能です。

長期的な視点に立って経営を行える

短期的な成果を望む株主に経営を左右されやすい上場企業や非ファミリー企業とは違い、資産を子の代、孫の代まで引き継ぐために、一貫した超長期的な戦略を採ることが可能です。

計画的に後継者を育成できる

同族経営では多くの場合、早くから後継者が決まっています。子を若いうちに後継者として要職に抜擢し、先代が育成・サポートできる点は大きなメリットと言えます。

ファミリーの価値観が経営の強みになる

同族経営の後継者は、幼少期から将来の経営者としてファミリーの価値観の中で育ち、ファミリーと価値観と企業経営の価値観とが一体化していきます。また、家業に入った後も、自社の歴史や社訓、先の経営者にどのような苦労があり、いかに乗り越えてきたのかなどのエピソードを理解する機会が多くあります。そういった暗黙知を含まれる「自社らしさ」は、重要な局面での意思決定の判断軸となり、強みになっていきます。

上記のように同族経営では、事業継続に対する一族の献身的な貢献が、持続的な成長を支えます。また専門技術の承継をムーズに進め、業界内に確固たる地位を築く企業も数多くあります。

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同族経営のデメリット

同族経営にはデメリットもあります。デメリットにはどのようなものがあるのかをみていきましょう。

前時代的な経営に陥りやすい

経営陣のほとんどが一族で固められている場合、社外取締役や監査役など、客観的に経営の誤りを忠告してくれる人物が入り込む余地がなく、ビジネスが時代の流れに取り残されていても、それを修正し、適応することが困難になります。そうするとスタッフが言うべきことを言えない・言わない不健全な企業文化が生まれ、経営不振の原因になることがあります。

企業の私物化が発生しやすい

所有と経営が一体となっているケースが多いことから、「ワンマン経営者」が誕生しやすく、ひいては企業の私物化につながりやすいことはデメリットです。人の意見に耳を傾けないワンマン経営者の独断が、経営に致命的な打撃を与えることもあります。

後継者争いが深刻化しやすい

次世代の経営者について現経営者が明確な指針を示しておかないと、後継者争いが深刻化し、企業の運営に悪影響を及ぼします。

「経営」と「所有」が同族に集中する同族経営は、同族以外のスタッフにとっては不満が募りやすい環境でもあります。また同族間の確執が周囲に波及し、経営そのものに悪影響が及んでしまう危険も否定できません。

同族経営における中小企業ならではの問題

日本企業の99%以上が中小企業であることから、中小企業ならではのリスクについてもみていきましょう。

大企業の場合は、例え同族経営であっても「スタッフ間の格差」や「ガバナンスの欠如」といった問題に対しては多くの株主や社外取締役、監査役が目を光らせているため、慎重な対策が講じられています。

一方、そうした機能を持たない中小企業では、「創業者や経営陣の独断が窮地を招きやすい」「同族で固められたスタッフが入れ替わらず、事業が停滞する、風通しが悪くなる」など同族経営に特有のリスクが、大企業に比べて大きくなります。

圧倒的に数の多い中小企業こそ、健全な同族経営を展開するために意識を高めていかなくてはならないといえるでしょう。

同族経営企業の成功のカギは何か

ここまで、同族経営のメリット・デメリットをみてきました。同族経営のメリットを最大限に発揮させ、デメリットを抑止することが、成否の分かれ目といえます。以下、同族経営を成功のカギをみていきます。

外部の声に耳を傾ける

同族経営、特に中小企業では「経営者の在任期間が長い」という特徴があります。そして、このような体制下においては「経営者の意思や同族間の暗黙の了解で物事が進む」いう問題が発生しやすくなるものです。

これを避けるためには、経営者自らが従業員や外部の専門家の意見を聞く機会を設けるなど、経営陣以外の意見を取り入れて風通しを良くする仕組みを導入するとよいでしょう。経営者は独断に走ることがないよう、柔軟な姿勢を持つことが必要です。

公私混同を避ける

有名な同族経営企業が不祥事を起こすと、「閉鎖的で風通しが悪い環境」に原因を求めるようなネガティブな報道が相次いでなされます。経営者は「自社が何のために存在しているのか、社会の役に立っているのか」と真摯に向き合い、経営が内向きに偏っていないかを常に確認する必要があります。ときには現場スタッフと忌憚なく話し合い、よどみのない社風を作るために、尽力していきましょう。

一族内の信頼感を高める

中小企業庁が2016年に発表し、2022年3月に第3版に改訂された「事業承継ガイドライン」によると、自分の代限りで廃業を予定している企業のうち12.2%が、廃業の理由として「子供に継ぐ意思がない」ことをあげています。

子供世代の「先行きの見えない中小企業の経営者にはなりたくない」という不安や不満を完全に払拭することは難しいかも知れません。しかし経営者は、「どのような思いで商品やサービスを生み出してきたのか」「どのような形で社会貢献してきたのか」など、企業の基本理念や経営者の醍醐味を、後継者候補へきちんと説明する努力を怠ってはなりません。

価値観が多様化する現代でも、仕事に対する誠実な姿勢は人の心を動かします。日々の多忙さに流され、同族経営の可能性を蔑ろにしてしまうのは、残念なことです。「一族内の信頼を高めるのは、もっとも重要な職務の1つ」と考えましょう。

同族経営における事業承継と後継者育成

同族経営のメリットは、短期的な利益の追求ではなく、長期的な視点をもちビジネスの継続に焦点を当てた経営を実現できることです。長期的な経営を視野に入れると、後継者を育成し円滑に事業承継することが経営者の最大の課題となります。

日本ファミリービジネスアドバイザー協会(FBAA)プレジデントで、後継者育成などのアドバイスを手がける小林博之氏は、ビジネスを永続的に成長させていくためには、「後継者が誰か」を論じる前にそのビジネスに必要なリーダー像を描き、後継者にリーダーが務まるような教育と経験を積ませることが必要だといいます。

小林博之氏(日本ファミリービジネスアドバイザー協会プレジデント)のコラム

ここから、後継者に求められる資質と育成方法についてみていきましょう。

同族経営において後継者に求められる資質

事業承継を実現した経営者は、後継者のどのような資質・能力を重視したのでしょうか。あるアンケート調査によると、「自社の事業に関する専門知識」と「自社の事業に関する実務経験」を重視した割合が5割を超え、最も高くなっています。自社の事業をよく理解している後継者でなければ、安心してバトンタッチできないのは当然でしょう。

ただし、知識や経験さえあれば十分かというと、そうではありません。“最も重視”した資質・能力に絞ると、「経営に対する意欲・覚悟」がトップになっています。知識や経験があることは大前提として、それに加えて、経営者としてのマインドが求められているといえるでしょう。

こうした知識や経験、そして経営者としてのマインドは、一朝一夕で備わるものではありません。長い時間をかけて、バランスよく身につけるようにすることは、事業承継を成功させるために欠かせません。この点では、ファミリーの中で育ち自社で経験を積んだ後継者は、自身の価値観と経営の価値観を一致させやすいため、利があるといえるでしょう。

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同族経営における後継者の育成方法

事業承継を見据え後継者を育成するには、社内育成と社外育成のふたつが考えられます。

社内育成においては、自社のやり方で利益を生む方法を身近に感じさせることが可能です。業務に伴う苦労やともに働く同僚たちの気持ちを理解するために、最もスムーズな方法と言えるでしょう。

一方、既存の社員に理解を求める必要があります。社内で後継者として特別視されることで、本人が強いプレッシャーを感じる可能性もあります。甘えを取り除き最前線で苦労を積ませることは大切ですが、フォローやケアも必要となるでしょう。着実に実力を蓄え、実績が積み上げられる環境を整備することは、後継者を育成する経営者にとって重要な仕事のひとつといえます。

社外で育成する場合、同業他社や関連業種の企業へ入社・出向させるのが一般的です。さらに同規模の企業を選ぶと、自社の経営に必要なノウハウ全般を習得しやすくなるでしょう。逆に異業種や大企業などへ入社させ、後継者・幹部候補としての広い視野や能力を獲得させる方法もあります。いずれを選ぶかは、経営者自身の考えだけでなく、本人の意志も尊重したうえで修業先を決定することが大切です。

社外育成では、修行先で自社の後継者・幹部候補にふさわしい教育や経験が得られるとは限りません。一定期間を設け、それ以上社外に預けてもリーダーとしての成長に繋がらないと判断した場合は、自社教育に切り替えることも必要です。

同族経営が見直されている理由と今後のあり方

いま、同族経営が再び見直されている理由は、強靭な企業経営を行うためのヒントが、同族経営に中にあるからです。

自社が何のために存在するのかという創業の理念・パーパスを引継ぎ、自社だけでなく取引先の利益を考え、地域貢献により共存共栄を目指す「三方よし」の経営が、今後も企業を永続させる強い経営につながります。

経営者が同族経営のメリット・デメリットを認識し、時代の変化に合わせて変えるべきものと守るべきものを見極める目を持つことが、長寿企業への道や同族経営の成否を分けるポイントといえるでしょう。

経営学界を牽引してきた識者が、ファミリービジネスの成否を分けるカギに言及

著者

株式会社ボルテックス 100年企業戦略研究所

1社でも多くの100年企業を創出するために。
ボルテックスのシンクタンク『100年企業戦略研究所』は、長寿企業の事業継続性に関する調査・分析をはじめ、「東京」の強みやその将来性について独自の研究を続けています。

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