持続可能なファミリービジネスとは ~単に「後継者がいるか」では失敗する~

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世界一のファミリービジネス大国・日本。長期的視野に立った経営、長年の経験に培われたレジリエンスの強さなど、優れた経営特性が改めて注目されつつあります。一方で、多くのファミリービジネス、中小企業では、後継者難の中で経営者の高齢化が進み、ビジネスモデルが陳腐化している例も少なくありません。ファミリービジネスの事業承継はいかに進めていくべきか。日本ファミリービジネスアドバイザー協会(FBAA)のプレジデントを務める小林博之氏にうかがいました。

強いファミリービジネスは難局でレジリエンスを発揮

日本は世界に冠たるファミリービジネス大国です。世界で創業以来200年を超える企業約9,000社のうち日本企業は約4,000社(※)。4割を超える会社が日本のファミリービジネスなのです。
長寿であるということは、長年にわたり経営を続けるための尋常ではない経営努力を続けてきていることにあり、その強さの根幹は、ファミリー、オーナーシップ、ビジネスの3つの側面からのマネジメントを同時並行的に行う「ファミリービジネスマネジメント(FBM)」を適切に行ってきていることにあります。
裏を返せば、このようなFBMが行えていない中小企業においては、ファミリービジネスであるがゆえの弱さ、脆さが露呈してしまい、企業存続の危機に直面してしまう、ということでもあります。

このファミリービジネスの持続的発展を支援し、社会の発展に寄与することを目的にして活動しているのが、10年前の2012年に設立された日本ファミリービジネスアドバイザー協会(以下、FBAA)です。FBAAには、会員約300名、ファミリービジネスアドバイザー資格認定証保持者約200名を擁し、中小企業診断士、税理士、金融機関、コンサルタント、エグゼクティブコーチなど、ファミリービジネスを支援するさまざまな業種・職種の人たちが集結し、共に学んでいます。FBAAは、「ファミリービジネスアドバイザー」の養成と交流を通じての学び合いの場を提供しています。

FBAAプレジデントとして多様な専門家ネットワークのハブに位置し、ファミリービジネスに精通する小林博之氏はいいます。

「長年永続してきているファミリービジネスは、社員や雇用を大切にし、地域社会と共存しており、まさに日本経済の根幹を支えています。コロナ禍のような経営への危機があっても、長く繁栄しているファミリービジネスでは、過去のさまざまな経験をファミリービジネスの『知』として維持し、しなやかな再生能力を発揮しています。また、ビジネス、ファミリー、オーナーシップの3つの観点から統合的なマネジメントができているところはファミリーが結束してこの局面を乗り切ろうとされています。また、ファミリーの心の支えがあるからこそ、果敢にビジネスモデルの変換、新しいビジネスへの挑戦(第2創業)もできているのだと思います」

問題は「後継者がいるかどうか」ではない

もっとも、ファミリービジネスは万能ではありません。経営者としてバトンを受け継ぎ、次の経営者を育て、バトンを渡していく。まさに長距離レースです。経営者はその長いレースの一走者として役割を果たさなくてはなりません。

ファミリービジネスのビジネスの要素としては、経営環境、事業環境に応じてフレキシブルに変えていかなくてはならないことがあげられます。未来を見据え、どんな状況でも生き残り、勝ち残っていけるように、柔軟に動きつつも芯の強さが求められます。一方ファミリーの要素としては、長年大事にしてきている理念、社訓などを守り育んでいく役割があります。

「日本では、ファミリービジネスの事業承継を論じるときに、まず『後継者はいるか?』というところから始めます。『いる』なら継がせる、『いない』なら廃業やM&Aといった感じで、やや短絡的な感じが否めません。本当は、後継者が誰かを論じる前に、ビジネスを永続的に成長させていくために必要なビジネスリーダー像を描く必要があります。また、後継者がいるとしても、その人にビジネスリーダーが務まるような教育と経験を積ませるためには何ができるのか、と考えることも経営者には必要です。これは、FBAAのアドバイザーをしていただいている米国のFBMの権威であるランズバーグ博士、ガーシック博士が2017年の講演会でも仰っていたことです」

まずビジネスの在り方として、戦略的なシナリオを考え、リーダーに必要な要件は何かを考え、そのためのリーダーを探し、育てる、というプロセスが重要なのです。

「よそ者」「若者」「ばか者」大歓迎、早めのバトンタッチを

前述のように、後継者候補には多様な経験をさせるべき、と小林氏は指摘します。

「親から見ると、子どもはいつまでも子どもに見えます。『まだ経験不足だし今の状態では経営を任せられない』『自分はまだまだ元気だし経営もできる』と思い込むあまり、後継者に経験を積ませる機会が減っている例も少なくありません」

経営者が「まだ大丈夫」といって残り続ければ、ビジネスモデルや考え方が一新されず、その結果、後継者が継ぎたいと思うような会社ではなくなってしまう可能性もあります。それは若手社員にとっても同様で、魅力的な会社として捉えられず、採用の悪循環を生む可能性もあるのです。

経営者が高齢化することによる悪循環

この悪循環を防ぐためには、早い段階でバトンタッチをし、後継者にさまざまな経験や修羅場を体験させ、そこから成長していけるようにするべきだと小林氏はいいます。

「新しい時代をつくれるリーダー像として、私は『よそ者』『若者』『ばか者』を提唱しています」

よそ者:ほかの業界の経験を持つ
若者:これからのお客さまのニーズを知っている
ばか者:その業界の常識にとらわれない視点を持つ

「決して悪い意味ではなく、それぞれほかの業種や会社を経験した若い後継者を指す言葉です。業界や地域の常識にとらわれない、新しいビジネスや会社づくりの取り組みに、新たな風を吹かせる。これが地域活性化と企業の活力を生み出す最高の方法です。このような視点で後継者を育てる、外部からの登用を検討するなど、方法はさまざまに考えられます。FBAAにもアドバイザー業種に限らず、若い経営者、後継者、現ファミリービジネス経営者も参加して議論を行っていて、皆さん、多くのものを吸収しながら自分のチャレンジにつなげています。FBAAとしてはそんな人たちに寄り添い、一緒になってチャレンジしながら、本当の事業承継を進める一助になればと思っています」

早めのバトンタッチによって、引き渡した経営者の居場所はなくなると思われるかもしれません。しかし、バトンを次世代に渡したからこそ、別の形で地域や社会に貢献するさまざまな役割を果たしていけるはずです。若い経営者による元気いっぱいの会社経営、バトンを渡した経営者の次の活躍の場づくり。これらが相乗効果となって、活力あふれる日本の未来が見えてくるはずです。

※出典:『ファミリービジネス 知られざる実力と可能性』(後藤俊夫 編著/白桃書房/2012)

お話を聞いた方

小林 博之氏

一般社団法人 日本ファミリービジネスアドバイザー協会(FBAA)プレジデント/
株式会社ソーシャルキャピタルマネジメント 代表取締役社長

日本ファミリービジネスアドバイザー協会プレジデント、株式会社ソーシャルキャピタルマネジメント代表取締役社長。日本興業銀行、みずほ証券を経て、2017年、株式会社ソーシャルキャピタルマネジメントを設立、代表取締役社長に就任、現在に至る。ファミリービジネスへのアドバイスについては、ガバナンス、経営戦略策定、後継者育成、社員教育、SDGs推進など多様な方向から支援を行っている。ファミリービジネスについては日本工業大学専門職大学院客員教授(~2021年度)、昭和女子大学キャリアカレッジ「跡取り娘養成コース」講師などを務めるほか、女性の事業承継者の支援を行う一般社団法人日本跡取り娘共育協会の代表理事も務める。ファミリービジネス学会、事業承継学会の会員として、学会発表、学会誌への研究ノート寄稿なども行う。
著書に『先代とアトツギが知っておきたい「ほんとうの事業承継」 「伝承」と「変革・対応」の教科書』(FBAA 編著/生産性出版/2021)

[編集]一般社団法人100年企業戦略研究所
[企画・制作協力]東洋経済新報社ブランドスタジオ

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