GDPとは?GDPの求め方や増減要因、総需要との関係、GNPとの違いを解説
目次
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前回は、GDP(国内総生産)が「一定期間(通常1年間)内に国内で生み出されたモノやサービスの付加価値の総額」であることを解説しました。今回は、マクロ経済でのGDPの求め方や増減要因、総需要との関係、GNP・GNIとの違い、三面等価の原則などを解説します。
GDPとは?GNP・GNIとの違い
まず、GDP(国内総生産)とは何かを確認しましょう。
GDPは、「一定期間に国内で生み出されたモノやサービスの付加価値の総額」です。付加価値とは、販売時点から仕入時点の価値を引いた額です。GDPには、日本で外資企業や外国人が生み出した付加価値は計上されますが、海外で日本企業や日本人が生み出した付加価値は、日本のGDPに計上されません。
GDPの種類(名目GDPと実質GDP)
市場で取り引きされている価格で推計されるGDPを「名目GDP」といい、各年の物価変動の影響を差し引いたGDPを「実質GDP」といいます。物価が上がった場合、名目GDPが増加しても実質GDPは変わらない場合もあります。したがって、実質GDPがマイナス成長の場合は、国内市場が縮小していきます。
GDPとGNP・GNIの違い
GDPに似た指標としては、GNPやGNIがあります。
1国の経済規模は、国連(国際連合, United Nations)が定めた基準により作成された指標で表され、日本では長年「国民総生産(GNP, Gross National Product)」が用いられてきました。しかし、グローバル化が進んで企業と人が海外に進出するようになったため、国“民”の生産活動を基準とするGNPでは、国の経済規模を捉えにくくなっていました。そのため、日本国“内”の生産活動を基準とした「国内総生産(GDP, Gross Domestic Product)」が用いられるようになりました。
「国民総所得(GNI, Gross National Income)」は、国連の基準改定にともない、GNPに代わって導入された指標です。GNPは経済活動を「生産」で、GNIは「所得」で捉えたもので、原則として数値は一致します。個人の経済的な豊かさを表すとき、「生産の額」よりも「所得の額」のほうが分かりやすいことなどを理由に、改定されました。
三面等価の原則とマクロ経済の世界
次に、GDPはどのように決まるのかをみていきましょう。
三面等価の原則とは
生産者(企業)はモノやサービスを売ることで「所得」を得て、消費者(家計)はモノやサービスを買うことで「支出」します。100円のパンが1つ取引される中で、100円分の生産と、100円分の所得と、100円分の支出が生じます。その合計として1国全体を見たとき、「総生産」と「総所得」と「総支出」は、必ず一致するように定義されています。これを「三面等価の原則」といいます。
市場における需要と供給、取引量とは
経済学には、それがなくては何も語れないキーワードがあり、その1つが「市場(しじょう)」です。モノやサービスの買い手と売り手がいっせいに出会う市場には、買い手が欲しいと願望する「需要」と、売り手が売りたいと願望する「供給」があります。ここでの需要と供給は「願望の量」を表しているに過ぎず、「実際に取引される量」と必ず一致するわけではありません。
マクロ経済学では「需要が取引量を決める」
ミクロ経済学では、「セリ人が需要と供給が等しくなるまで価格を動かす」、マクロ経済学では、短期的には「需要が取引量を決める」と仮定します。マクロ経済学でいう短期とは、「昨日の新聞が150円だったら、おそらく今日も150円だろう」という価格が動かない世界です。また、需要が取引量を決めるというのは、100個のまんじゅうを製造して販売したいお店があるとして、「1日50個しか売れそうにない場合は早く店じまいし、150個売れそうな場合は追加で製造・販売する」というように、生産者が需要に合わせて生産量を調整する世界です。
総需要の内訳とGDP
1国全体の需要である「総需要」は、「民間消費」「民間投資」「政府支出」「純輸出」の4つの項目からなります。民間消費は、生きていくために最低限必要な「基礎消費」と、「(所得から税を引いた)可処分所得」の一定割合の消費を、家計が行うことを想定します。民間投資は、企業による設備投資や、家計による住宅投資から成り立っています。政府支出は、公共事業の金額や、行政サービスを提供するために公務員を雇う金額の総計です。純輸出は、国外への輸出額から、国内への輸入額を引いた額です。
需要が取引量を決める。つまりマクロ経済学では、総需要を満たすように総取引量が決まり、それがGDPとなります。
GDPの求め方と増減要因
1国全体の需要である「総需要」は、「民間消費」「民間投資」「政府支出」「純輸出」の4つの項目からなることを解説しました。これら項目の額が大きくなればGDPは増加し、小さくなればGDPは減少します。
GDPを式で表すと、下記のとおりです。
Y=C+I+G+(EX-IM)
EX-IMは、純輸出、つまり貿易黒字(赤字)を表しています。
次に、それぞれの項目ごとに、GDPが増減する要素をみていきます。
民間消費
先ほど解説したとおり、家計は可処分所得の一定割合を消費にあてます。今回は、家計の消費を増減させる6つの要因をあげることにします。
家計の消費を増減させる要因① 可処分所得の増加
1つめは、可処分所得の増加です。家計は可処分所得の一定割合を消費にあてますので、(所得から租税を引いた)可処分所得が増えたとき、家計(世帯)は消費を増やします。
家計の消費を増減させる要因② 可処分所得に対する見通し
2つめは、可処分所得に対する見通しです。来年の可処分所得が増える見込みがある場合、それを見越して今年の消費を増やす行動を取るようになります。
家計の消費を増減させる要因③ 資産価格の予想
3つめは、資産価格の予想です。地価(土地の価格)が上昇すれば、保有する不動産の価値が上がることから、所得が上がったときと同じように消費を増やそうとするでしょう。
家計の消費を増減させる要因④ 家計の年齢
4つめは、家計の年齢です。一般的に所得は、中年をピークとした山なりのカーブを描きますが、多くの家計は生涯を通じて可能な限りフラットに消費をしようとします。中年世代が多い国では、所得に占める消費の割合が低くなる傾向があり、高齢化が進んだ国では、所得に占める消費の割合が高くなる傾向があります。
家計の消費を増減させる要因⑤ 将来の不確実性
5つめは、将来の不確実性です。将来の不確実性の度合いは、「失業によって所得が下がってしまうリスクは、正社員よりも非正規社員のほうが高い」といったように、個々人の置かれた状況や経済状況によって異なります。
家計の消費を増減させる要因⑥ 政府による減税
6つめは、政府による減税です。家計が稼いだ所得から引かれる租税が少ないほど、消費にあてられる額は大きくなります。
民間投資
ここでは、民間投資のなかで金額規模の大きい「企業の設備投資(機械など新たな生産設備を購入すること)」を取り上げます。マクロ経済学において投資とは、「現在の儲けを犠牲にして、将来の儲けを増やす行為」を指し、「現在支払う費用」と「将来得る利潤」が各々どれくらい増えるかを比較する必要があります。投資の規模を決める要因を、4つあげることにします。
投資の規模を決める要因① モノやサービスの価格の予想
1つめは、生産するモノやサービスの価格の先行き予想です。将来高く売れる見込みがあるほど、企業は現在の投資を増やそうとします。
投資の規模を決める要因② 生産設備の価格
2つめは、生産設備の価格です。効率化を図るために機械を購入したいと考えても、生産するモノやサービスの価格と比較してその機械の価格が相対的に高い場合は、機械の購入を控えてしまうかもしれません。
投資の規模を決める要因③ 将来に機械を売却するときの価格
3つめは、将来機械を売却するときの価格です。欲しいと考えている機械が、購入時の価格とさほど変わりなく将来売却できる見込みがあれば、購入する判断にいたる可能性は高くなります。
投資の規模を決める要因④ 資本減耗率
4つめは、資本減耗率(1年の間に機械が壊れて使えなくなってしまう確率)です。仮に1年後に機械を高く売却できると分かっていたとしても、途中で壊れてしまえば売却できなくなってしまいます。つまり、資本減耗率が高い場合は、投資の費用が高くなり、投資に対する需要が減ってしまいます。
政府支出
財政政策は、政府支出にかかわる政策と、さきほど民間消費のところで登場した租税にかかわる政策の2種類に区別されます。国連が定める「国民経済計算(SNA, System of National Accounts)」という会計基準では、一般政府(中央政府, 地方政府, 社会保障給付を行うことを目的とする組織である社会保障基金)の機能を「一般公共サービス」「防衛」「公共の秩序・安全」「経済業務」「環境保護」「住宅・地域アメニティ」「保健」「娯楽・文化・宗教」「教育」「社会保護」の10分類と定義していますが、これらさまざまな目的で、政府は支出を行っています。
純輸出
純輸出(国外への輸出額から、国内への輸入額を引いた額)が増える要因を、2つあげることにします。
純輸出が増える要因① 家計や企業の変化
1つめは、「家計の嗜好」や「企業の方針」の変化です。「米国で日本製の乗用車の人気が高まれば」あるいは「中国のスマホメーカーが日本の半導体に対するニーズを高めれば」日本からの輸出が増え、「日本で米国製の乗用車の人気が高まれば」あるいは「日本のスマホメーカーが中国の半導体に対するニーズを高めれば」日本への輸入が増えることになります。
純輸出が増える要因② 国家間における相対的な価格
2つめは、国家間におけるモノやサービスの相対的な価格です。どれだけ日本車の人気が高くても、その価格が相対的に高いものであれば、需要は減ってしまいます。
乗数効果
ここまで、総需要を構成する項目の額が増えれば、それを満たすようにGDPが増えることを示ししました。マクロ経済学では、総需要を満たすように総取引量が決まると仮定しますので、民間消費などの総需要を構成する項目が1単位増えると、総生産であるGDPは1単位増えることになります。そして、GDPが1単位増えることで、新たな所得が1単位生まれ、所得の一部である可処分所得の一定割合分だけ民間消費が創出されます。この民間消費の創出分を満たすように、GDPがまた新たに増えることになりますが、このような無限の繰り返しによって総需要の増加分よりも多いGDPが創出される効果を、乗数効果と呼びます。
まとめ
GDP(国内総生産)とは何であるかを正確に理解することは、経済がどのように変化しているのかを解釈することに繋がります。重要な経済指標であるGDPについて理解を深め、企業を経営するうえで、マーケット(市場)の読み解きや投資判断の1つとしていただくとよいでしょう。
【参考文献】
塩路悦朗(2019)『やさしいマクロ経済学』日本経済新聞出版社
内閣府ホームページ 国民経済計算(GDP統計)
https://www.esri.cao.go.jp/jp/sna/menu.html(2021年11月5日閲覧)
著者
安田 憲治
一般社団法人 100年企業戦略研究所 主席研究員
一橋大学大学院経済学研究科修士課程修了。塩路悦朗ゼミで、経済成長に関する研究を行う。 大手総合アミューズメントメント企業で、統計学を活用した最適営業計画自動算出システムを開発し、業績に貢献。データサイエンスの経営戦略への反映や人材育成に取り組む。
現在、株式会社ボルテックスにて、財務戦略や社内データコンサルティング、コラムの執筆に携わる。多摩大学社会的投資研究所客員研究員 。麗澤大学都市不動産科学研究センター客員研究員。
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