働き方改革の本丸!「高度プロフェッショナル制度」とは?
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※百計オンラインの過去記事(2018/07/12公開)より転載
少子高齢化による人手不足感が強まる中、日本でも近年、働き方改革が活発に議論されています。中でも、政府与党と経団連をはじめとする経営者団体が導入にこだわるのが「高度プロフェッショナル制度(特定高度専門業務・成果型労働制、高プロ)」です。制度のあらましやメリット、懸念される問題点などを見ていきましょう。
「高度プロフェッショナル制度」の概要
「高度プロフェッショナル制度」は、専門職で年収の高い人を労働時間の規制の対象から外す仕組みです。年収1,075万円以上のアナリストなどの専門職が当初の対象となります。対象となる労働者は、残業や深夜・休日労働に対する割増賃金が一切支払われなくなります。制度の適用には、本人の同意や労使委員会との決議が必要です。
「高度プロフェッショナル制度」は、労働者を働いた時間ではなく成果で評価して賃金を支払う仕組みになっています。そのため、成果を出せば数時間で帰宅が可能になるという声もあるのです。これまで日本では長時間労働が蔓延し、先進国の中での労働生産性の低さが指摘されてきたことから、導入に賛成する向きもあります。
「高度プロフェッショナル制度」と混同されやすい制度に「裁量労働制」があります。既に導入済みの企業も多いかもしれません。裁量労働制では、労基法の下、労働時間の概念が残っているのが大きな違いです。裁量労働制では、実労働時間ではなく、あらかじめ決められた「みなし時間」を労働時間としているため、超過分については残業代が支給されます。また、裁量労働制の対象となる業務は専門業務型及び企画業務型とされており、年収要件もありません。一部は重複するものの、裁量労働制のほうが広範囲にわたります。
10年越しの法案提出、採用意向は100社中わずか6社
安倍首相は、第1次政権時代(2006~2007年)から類似の制度の導入を目指しています。当時は「ホワイトカラー・エグゼンプション」という名称でしたが、働かせすぎにつながるとして導入が見送られました。2015年にも労働基準法改正案を提出し高プロの新設を盛り込みましたが、野党の猛反発で審議入りできませんでした。ついに、2018年4月6日、政府は高プロを柱とする働き方改革関連法案を国会に提出しましたが、過労死した方の遺族や野党からの批判が強まっています。
朝日新聞が全国の主要100社に対し、「高度プロフェッショナル制度」の導入意向について聞いたところ、採用する方針を示したのはわずか6社でした。31社は「採用するつもりはない」と答えたといいます。
成果が見えないまま「働かせ放題」に
政府や財界は「高い付加価値を生み出していく経済を目指す」といった理由から、「高度プロフェッショナル制度」の導入を訴えています。労働時間の柔軟性を高めることで、イノベーションを引き出すといいます。
しかし、日本企業の多くは職務範囲があいまいです。外資系や海外企業では一般的に導入されているジョブ・ディスクリプション(職務記述書)がないことも多く、各人の業務の範囲と責任、賃金、成果の因果関係が見えにくいのです。これは専門職も同様です。
日本では長年、組織全体のパフォーマンスを向上させるため労働時間と賃金をリンクさせ、働き手のモチベーションとパフォーマンスを維持してきました。こうした企業文化の中で、労働時間と賃金を切り離すことは、成果が見えないまま「働かせ放題」につながるとの指摘もあります。
「高度プロフェッショナル制度」は中小企業には関係なし?
「高度プロフェッショナル制度」の対象となる労働者は今のところ、高度専門職で一定の収入(年収1,075万円以上)がある人とされているため、直接関係ないと静観している中小企業経営者も多いかもしれません。しかし、制度に反対する意見の中には「そのうち年収要件を段階的に引き下げて適用を拡大するだろう」との見通しもあります。実際、同様の制度が導入されている米国では、週455ドル(年収200万円程度)までが適用範囲です。しかし、米国でも残業代が支払われない労働者が多すぎるとの批判が強く、制度の見直しを迫られています。
「高度プロフェッショナル制度」は労働時間の規制がゆるいため、会社側にとっては使いやすい制度です。しかし、過労死やパワハラに対する社会の目は厳しさを増しており、昨今は若年層を中心に採用活動に苦戦する企業も多いです。制度を利用していた労働者の健康問題などが発生すれば、ワークライフバランスを欠いた働かせ方をしている企業として、ブランディングにも悪影響を及ぼす恐れがあるでしょう。
著者
株式会社ボルテックス 100年企業戦略研究所
1社でも多くの100年企業を創出するために。
ボルテックスのシンクタンク『100年企業戦略研究所』は、長寿企業の事業継続性に関する調査・分析をはじめ、「東京」の強みやその将来性について独自の研究を続けています。