日本の100年企業が「無意識に」実践している3つのこと
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長寿企業大国ニッポン。その一方で99.7%の会社が創業20年以内に姿を消す。両者の違いはどこにあるのか?
株式会社ドリームインキュベータ取締役副社長COOである細野恭平氏の分析が大変興味深い。
日本には創業100年を超える企業が33,000社以上、さらに、創業300年超えの企業が1,300社以上もあるそうです。
企業経営のご経験のある方なら誰でも同じ想いだと推測しますが、100年経営というのは正直、想像の範囲外です。私が取締役を務めている株式会社ドリームインキュベータは、2000年に設立されましたので、創業から22年を迎えます。20年以上存続する企業は一説では日本全体の0.3%と言われていますので、世の中的には、弊社はなかなかしぶとい部類に入ります。弊社は戦略コンサルティングやベンチャー等への投資といった事業を生業としてきましたが、これらの事業が日本において業種として誕生してから、まだ50年前後しか経過していません。
戦略コンサルティングは、1966年に外資系のボストン・コンサルティング・グループが日本支店を設立したのが最初ですが、80年代の後半までは経営は四苦八苦だったと聞きます。日本最初のベンチャーキャピタルは、1970年代の第1次ベンチャーブームに先駆けて、1972年に設立されています。どちらも業界としての歴史自体がまだ50年前後の中で、果たして100年後にも弊社が企業として存続できているのか、想像もつかないというのが本音です。
創業300年以上の歴史を持ち、かつ年商50億円以上という超絶サステナブル企業が日本には69社あるそうです『創業三〇〇年の長寿企業はなぜ栄え続けるのか』(東洋経済新報社、田久保善彦著)。そのうち、筆頭株主が創業家のままという会社が過半数を超えます(その殆どが未上場企業)。M&Aの多い米国等と異なり、日本では創業家のオーナーシップが比較的維持されてきたことが、超長寿と一定の関係があると様々な形で分析されています。
創業家がオーナーシップを維持している長寿企業へのインタビュー記事や分析などを拝見すると、これらの会社は、「会社は何のためにあるのか?」という問いに対して無意識のうちに答えを持って、愚直に実践しているように思えます。
会社は何のためにあるのか。私は会社の生存目的は本質的には以下の3つだと考えています。
- 利益を出す
- 世の中(ステークホルダー)に貢献する
- 継続する
目的の一つ目は利益です。この意味においては、アメリカの経済学者フリードマンが主張した「企業の社会的責任は利益を増やすことにある」という世界観は正しいと思います。商売で肝心なのは商売(the business of business is business)です。利益を出さない会社は社会にあまり貢献できません。長寿企業は利益を生み続けているからこそ、存続しています。とはいえ、長期的に安定的な利益を、市場の荒波にも負けず、継続することは大変難しいことです。弊社自身も、利益構造がなかなか安定していないので、現在、長期的な利益を生み出すための構造改革を必死で進めていますが、継続的に利益を出し続けることの大変さは身をもって感じています。
会社の目的の二つ目は世の中への貢献です。世の中というのは、ステークホルダーと言い換えても良いと思います。つまり、顧客、従業員、サプライヤー、地域社会(地球環境)、そして長期目線の株主がそれに該当します。長寿企業と呼ばれる会社は、月桂冠にしろ、岡谷鋼機にしろ、西川産業にしろ、こうしたステークホルダーへの奉仕の精神が代々の経営者に受けつがれ、社員のDNAになっているように思います。
株主第一資本主義の本家アメリカで、ステークホルダー資本主義を問う動きが出てきたことは皆さんご存じの通りです。アメリカの大手企業経営者でつくる最大の経済団体「ビジネスラウンドテーブル」が2019年8月に発表した「企業の目的に関する声明」は、5つのステークホルダーを重視する姿勢を明確にしています。
- 顧客には、価値を提供する。
- 従業員には適正な報酬と福利厚生、変化に対応する教育・訓練を提供する。
- サプライヤーには、公正かつ倫理的に対応する。
- 地域社会を支援し、環境を保護する。
- 株主には長期的な価値を創造する。
こうしたステークホルダー資本主義は日本では当たり前のことのように思えますが、時価総額ベースで当時米国の30%を超える181社の大手企業の経営者が、株主以外のステークホルダーの重要性を主張するようになったことは歴史の大きな転換点だと思います。
特に、ビジネスラウンドテーブルが、株主に対しては「長期的な価値を創造する」と宣言していることも注目に値します。つまりは、短期目線の日替わり投資家や、秒速売買のAIは、本質的な意味での株主ではないと言っています。
そして、企業の目的の三つ目は継続することです。継続は結果論としてとらえる考え方もあると思いますが、会社を継続させること自体を目的とすることに意味があると思います。これは、生物の種の保存の考え方に近いと思います。会社という種を保存させること自体を目的化することで、適者生存戦略を追求し、それが結果的に永続性につながるはずです。突然、従業員を解雇したり、借入金を踏み倒したり、税金を払えなくなったりする会社は、社会的に迷惑な存在となりかねません。長く存続することで、世の中に対して安定的な貢献ができると言えます。
以上の3つの目的を、長寿企業は経営陣が意識しているか否かにかかわらず、これまで実践してきたことは間違いありません。
そして、こうした合目的な行動に加えて、代々の経営者に受け継がれる倫理観がガバナンスとして効いていることが、長寿企業を長寿たらしめている要因ではないかと思います。
現在の資本主義の思想の源流となっているアダム・スミスとマックス・ウェーバーは決して株主第一義の資本主義を説いたわけではありません。アダム・スミスは「道徳感情論」において、後の資本主義に発展する自由放任や分業を前提とする経済活動の土台となるのは、私利私欲を追求する利己主義ではなく、道徳的・倫理的追求にあると主張しています。
また、マックス・ウェーバーは、資本主義という経済システムは放置すると営利追及そのものが自己目的化してしまって歯止めが利かなくなるため、「経営者自らが高い倫理観を持つことが必要」と論じています。初期の資本主義は、「神から与えられた天職に禁欲的にはげむことで神の意志がこの世に顕れ、自らが救われる」という考え方によって利潤追求が肯定されました。
スミス、ウェーバーのどちらも、利潤を追求するには、倫理観・禁欲主義が必要であり、これを除外した資本主義は歯止めがかからなくなると説いています。
100年を超える長寿企業となるために、①利益を出す、②世の中(ステークホルダー)に貢献する、③継続する、ことを目的とし、さらに経営者としての倫理観を脈々と受け継いでいくことが求められます(どれも言うは易く、行うは難しです)。
著者
細野 恭平 氏
株式会社ドリームインキュベータ(DI) 取締役副社長COO
東京大学文学部卒業、サンクトペテルブルク大学留学、ミシガン大学公共政策大学院修士(MPA)。1996年、海外経済協力基金(のちに国際協力銀行)に入社。旧ソ連の中央アジア(ウズベキスタン、カザフスタン等)向けの円借款事業や、途上国の債務リストラクチャリング、ODA改革等に従事する。2005年、DIに参画し、大企業向けのコンサルティングやベンチャー企業向けの投資に従事。DIベトナム社長、投資チーム担当の執行役員、取締役等を経て2021年6月より現職。