不動産投資の魅力
1-1. 不動産投資の意義

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目次

「なぜ不動産に投資するのか?」その理由を考えたことがありますか。投資対象には不動産のほかに株式や債券などもありますが、不動産に投資するのには科学的な根拠があります。「不動産投資を科学する」ことで、不動産投資が学問体系として発達してきた理由や不動産投資の魅力を理解していただけるでしょう。

投資実務の世界では、株式・債券と合わせて不動産にも分散投資を行う3分法という理論があります。不動産は、投資対象として非常に重要なものの1つに位置付けられてきました。不動産投資を学ぶ意義は、株式や債券とは異なるリスクやリターンの構造を理解することにあります。

その前に、私たちは「なぜ投資をするのか?」を考えてみましょう。

人生を設計する、会社を経営する、社会そのものを維持するうえで、資源を最適に配分する必要があります。「経済学の父」と呼ばれる18世紀の英国の経済学者アダム・スミスがいう「神の見えざる手」によれば、自由放任的な状態で、競争的な環境を作ることさえできれば、貴重な資源を最も必要とする人たちに対して最適に割り当てることができる。これが経済学の原理原則です。

ここに「時間」と「お金」という要素を入れてみましょう。人生の設計、企業の経営、社会の運営のそれぞれにおいて、現在の最適化だけを考えるのではなく、未来においても最適な世界を描いていく必要があります。

今ここにある資源や資産を使い切ることができなければ、どうするか。私たちは貯蔵して、将来の自分の人生で必要なところに、企業であればリスクをヘッジするために、社会にとって将来の成長する領域に、資源や資金を配分できるようにします。「時間」を超えて最適化しようとするでしょう。

最も典型的な事例が「年金」です。私たちは誕生・成長して、生産年齢(15~64歳)に達すると、労働の対価として給料を得ます。そのお金で子供を扶養したり、高齢化して働けなくなった人たちを支えたりしなければなりません。誰にも訪れる老後の世界を支えるのが年金です。

労働の対価として得たお金を今使うのか、5年後・10年後・30年後に使うのか。時間軸の上で資源を配分するときに、最も重要な推進力(ドライバー)になるのが投資です。投資とは、家計、企業、社会、政府において、時間を超えて資源をどのように配分するのがよいかを科学的に考えることと言ってよいでしょう。

大学人である私が、不動産投資、不動産のための経済学、ビッグデータ解析を研究してきたのは、不動産投資の知識や文化が日本は遅れていると考えたからです。シンガポール国立大学や米マサチューセッツ工科大学など海外の大学で教壇に立った経験がありますが、不動産投資に関して欧米やシンガポール、香港のほうが先進的な知識が蓄積され、教育プログラムも確立していました。その反省に立って、日本でも不動産投資の研究や教育プログラムの開発に力を入れていく必要があると考えたのです。

不動産投資の意義を考えるうえで、公的年金(Public Pension)や政府系ファンド(Sovereign Funds)などが社会全体を支えるために非常に重要な機能を持っています。政府系ファンドとしては、ノルウェーやアラブ諸国などで巨大なファンドが運用されています。

現在は、石油資源によって膨大な資金を得て、国としても繁栄している。しかし、そうした状況が未来永劫続くわけではなく、石油が枯渇するかもしれないし、代替するものが出てきて石油需要が無くなってしまうかもしれない。そのようなリスクに備えて、今のうちから投資をすることで、現在の潤沢な資金を未来の国の繁栄のために使えるよう運用するのが政府系ファンドです。

このような投資に関する教育・研究プログラムが、米コロンビア大学では開発されていました。私もプログラム作成の議論に参加して、投資という世界をどのようにデザインするのか、組織をどうデザインするか、その組織のガバナンス(統治)をどうするのか、投資のポリシー(方針)をどうするか。こうした問題について決定をしていかなければなりませんでした。

投資とは、企業や個人の未来をどのように設計するのかにほかなりません。しかし、国によって投資環境には違いがあります。人口構成も違いますし、株式・債券・不動産それぞれの市場の成熟度や成長性によっても変わります。このような視点から、投資をどのようにデザインするのかを考えていく必要があります。

「投資」という言葉を聞くと「利益を最大化する」ことをイメージするのではありませんか。一般的にもそう考えがちです。しかし、私が伝えたいのは、リスクをどのように最小化(ミニマイゼーション)するかということです。

企業経営や個人の人生には、将来に渡ってさまざまなリスクが待ち受けています。どのリスクを最小化できれば、企業が永続できるのか、人生が豊かになるのか、人生を終えるときの後悔を少なくできるのか。そう考えれば、さまざまなリスクを特定し、排除して、できるだけリスクを小さくするほうがよいことになります。これがリスク最小化戦略(リスク・ミニマイゼーション・ストラテジー)になります。

先駆的な投資ファンドであるカナダのオンタリオ州教職員年金(Ontario Teachers’ Pension Plan)でも、「リスク・バジェッティング(risk budgeting, リスク予算計画)」を作成し、リスクをコントロールして最小化を目指しています。

そうした研究を続けていく中で、リスクを最小化するには、不動産のような非流動資産(illiquid asset classes)が重要な役割を果たしていることが分かってきました。投資対象には、流動性が高いものと低いものがあります。株式はスマートフォンでも簡単に取引できます。売りたければ、市場が開いている間なら指値で入れてすぐに現金化でき、数日のうち口座に振り込まれます。買いたければ、価格に納得すればすぐに買えます。このように株式は流動性の高い資産といえます。

一方で、不動産や道路や空港などといったインフラやコモディティ(商品)などは、流動性の低い市場といわれます。投資対象としては、流動性が高いほうがよいように思うかもしれませんが、流動性が低い資産を入れることで、リスクを最小化できる、不動産投資にはそうした魅力があるのです。

不動産投資を考えるうえで、どのような判断が必要になるのかを考えてみましょう。

投資をするとき、最初に「What to buy and hold?(何を買って保持するか)」を考えます。株式か、債券か、プライベートエクイティ(非上場株式)か、不動産か。その問いに対して、どれか1つを選ぶのではなく、分散して保有するほうがよいといわれます。その理由はポートフォリオの考え方で解説しますが、その時に不動産をどう位置づけるかがポイントになります。

次に「Where to buy and hold?(どこで買って保持するか」を決めなければなりません。日本国内か世界か、国内なら東京の中心部か地方都市か、このようなことも考える必要があります。

3番目に「How to buy and hold?(どのように買って保持するか)」も問題です。不動産そのもので保持する直接投資(Direct Investment)のほかにREIT(リート, 不動産投資信託)という商品もあります。日本でも2001年に上場市場が立ち上がって、市場でREITを購入できるようになりました。複数の投資信託を1つにまとめて商品化したファンド・オブ・ファンズ(Fund of Funds)も販売されています。どれを選んで投資するかも重要です。

米国のPREA(Pension Real Estate Association, 年金不動産協会)では、投資のプロである機関投資家が、全投資資産のうち不動産にどれぐらい投資したのかを国別に調査しました。それによると、フィンランドが16%ぐらい、英国が12%、カナダ・米国は11%でしたが、日本はわずかに4%で主要国のうち最も低い水準でした。

もし手元に投資資金があるとき、どれぐらいを不動産に配分したらよいのか。大半の機関投資家は11%ぐらいがよいと判断しており、これが世界の平均水準です。日本でも平均水準まで引き上げようとすれば、不動産投資市場を2.5倍以上に成長させなければなりません。自分たちの財産を守り、リスクの少ない豊かな将来を設計するには、今のシェアでは低すぎるからです。

不動産投資の形態には、「パブリック・リアル・エステート」としてREIT、住宅ローン担保証券(RMBS)、商業不動産担保証券(CMBS)がありますし、「プライベート・リアル・エステート」には、不動産への直接投資、信託型年金資産(Commingled funds)、プライベートエクイティ(Private equity)、商業用不動産ローン(Commercial mortgages)などがあります。また、投資スタイルには、コア(Core)、バリューアデッド(Value-Added)、オポチュニスティック(Opportunistic)があり、不動産はコア投資に馴染みます。これらの専門用語の意味は後ほど説明しますので、今はこうした専門用語があることを覚えておいてください。

不動産投資を、直接投資で、コア(賃貸収益を重視した運用)というスタイルで行うとしましょう。不動産において、今日買って明日売るのではなく、じっくりと持って運用する投資を「長期投資(Long Investment)」といいますが、不動産は長期で運用することで初めてリスクを最小化する効果を発揮します。

海外のプロ長期投資家が不動産投資のメリットをどう見ているかを調査すると、最初にあがるのが「分散効果」です。分散が効くという言い方もありますが、ある商品が下がっても、別の商品が上がれば全体のダメージは小さくなる効果を狙ったものです。次に、賃貸収入などの「インカム収益」です。株式などの資産は、「価格が上がった下がった」を楽しむところがありますが、不動産は家賃収入が毎月発生します。この収益が投資家にきっちり入ってくるのが魅力です。

3つ目のメリットは「非流動性に起因する高い収益率」です。資産の流動性が低いことによって高い収益が見込まれるという理由で、不動産に投資する方もいます。最後に、「インフレヘッジ(回避)」の効果です。近年、欧米でも日本でも物価が上がり始め、2022年4月現在、欧米を中心にインフレ率の上昇スピードが速くなっています。インフレが進行すると、現在の貨幣価値が目減りして10年後には大きく棄損してしまいますが、不動産投資にはヘッジする効果があります。

分散効果に関する研究はさまざまありますが、統計学では「相関が低い」「相関がない」ことが証明されれば、そう言うことができます。これについては1984年のAREUEA(American Real Estate and Urban Economics Association, 米国不動産都市経済学会)のジャーナルの中で報告されています。

インカム収益を見る場合、投資リターンに占める資産(キャピタル)売却益である「キャピタルリターン」と、毎月の家賃収入や利息・配当による「インカムリターン」を比べてみます。具体的に、米国財務省短期証券(T-Bills)、米国債(G Bonds)、不動産、株式(Stocks)を見てみると、不動産投資のインカムリターンは4~8%で、株式の配当に比べて圧倒的に高いことが分かります。

非流動性による高い収益率については別の機会に説明しますが、株式や債券の指標と比較しても、不動産の高い収益率は投資家にとって魅力といえます。

最後のインフレヘッジ効果についても、さまざまな研究が行われてきました。米国での研究では強いヘッジ能力が認められましたが、不動産の用途によって能力が異なるという研究もあります。

米国における消費者物価指数(CPI)と純収益(NOI)の推移から物価が上がると、相対的に資産の価値が下がることを思い描きますが、米国の研究で「家賃収入はインフレ時に増えている」といったようなことが分かってきています。

これからの不動産投資を考えるうえで、日本の人口減少や高齢化がどう影響するのかが気になるでしょう。本当に不動産に投資してよいのかを判断する必要があります。

老齢扶養比率(オールドエイジ・ディペンデンシー・レイシオ)という「65歳以上の人口」を「生産年齢人口」で割った指標があります。これが低い国ほどお年寄りの依存が低いことになりますが、日本は物凄い勢いで上昇していくことが予想されています。

このような環境の下で、どのように投資を展開していくか。分散効果を見た場合、株式市場の流動性が機能している状況では、投資は短期的な効率性を求めることができます。しかし、長期で見ると、株のように毎日価格が動いているものと、不動産のようにゆっくり動いているものの間に相関は見出しづらく、利益の源泉も違います。

不動産には、減価償却の問題もあります。私の研究室がある一橋大学の建物は築100年で、渋沢栄一らによって東京・竹橋で生まれ、今の国立市に移築してからも95年が経っています。建物は完成後、時間とともに価値が下がりますが、大きくリノベーションをして価値を維持しています。減価償却という必ず起こるリスクをどうコントロールするかも、重要な問題です。

不動産投資の魅力 1-2. 不動産とは

スピーカー

清水 千弘

一橋大学教授・麗澤大学学長補佐(特任教授)

1967年岐阜県大垣市生まれ。東京工業大学大学院理工学研究科博士後期課程中退、東京大学大学院新領域創成科学研究科博士(環境学)。麗澤大学教授、日本大学教授、東京大学特任教授を経て現職。また、財団法人日本不動産研究所研究員、株式会社リクルート住宅総合研究所主任研究員、キャノングローバル戦略研究所主席研究員、金融庁金融研究センター特別研究官などの研究機関にも従事。専門は指数理論、ビッグデータ解析、不動産経済学。主な著書に『不動産市場分析』(単著)、『市場分析のための統計学入門』(単著)、『不動産市場の計量経済分析』(共著)、『不動産テック』(編著)、『Property Price Index』(共著)など。 マサチューセッツ工科大学不動産研究センター研究員、総務省統計委員会臨時委員を務める。米国不動産カウンセラー協会メンバー。

【コラム制作協力】有限会社エフプランニング 取締役 千葉利宏

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