100年の伝統を支える基礎は人材とコミュニケーション
~お客様の視点を最重視する組織の運営術~

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世界に誇る民間初の社交場として、大正11(1922)年に創業した東京會舘。宴会場・レストラン・婚礼事業の分野で高いブランドを確立し、今年11月に100周年を迎えます。
コロナ禍では同業他社が苦戦する中、マンパワーを活かして集客を維持。危機下において、老舗の存在感を内外に示しています。現在、経営のトップに立つのは渡辺訓章社長。「お客様を最優先」という理念を軸に、100年目以降の事業継承のビジョンを語っていただきました。

現場の人間から経営者へマインドチェンジ

渡辺氏が東京會舘へ入社したのは、大学卒業後の1982年のこと。当時は接客業務、宴会予約、人事採用、新店舗のスタッフなど、いろんな部署を回ったそうです。

「異動した先で心がけていたのは、コミュニケーションでした。同じ会社の人間とはいえ、どの職場でも新しく人が入ってくると、あいつは大丈夫か?と見測られます。私はまず、自分から周りに話しかけるようにしていました。こちらから飛びこんで話す機会を持つことで、自分を開示するようにしたんです。最初は煙たがられたかもしれませんが、コミュニケーションの少ない人間が、信用されることはありませんからね」

40歳半ばで本社に戻り、総支配人に昇進してからも、その姿勢は変わりませんでした。渡辺氏が自ら各部署に出向いて、社員たちに「最近どう?」と、声がけしたそうです。「とにかく対話のない職場であってはいけないと、気をつけていました」といいます。

渡辺氏の社長就任の話が上がってきたのは、3代目本舘の建築プロジェクトの真っ只中でした。2017年、渡辺氏は代表取締役社長に就任します。

「当時の私は開設準備室長として、プロジェクト全体を管理する立場でした。このプロジェクトは会社の存亡がかかるほどの大きな責任がともなうもの。仕事の重みは、社員時代とまったく違いました。私のジャッジ一つが、従業員全員の人生と、会社の存続に関わると思うと、プレッシャーは相当なものでした」

しかし、これがきっかけとなり、渡辺氏の中では経営に対する「覚悟」が芽生えたといいます。プロジェクトの進行は社外取締役や、関係者に相談して判断を重ねていきました。

「もともと私は即決タイプで決断は早いほうでしたが、経営的な判断やプロセスは慎重に進めていきました。そうして判断を繰り返していくうちに、覚悟も磨かれ、経営者のマインドへチェンジしていったような気持ちです」

2019年には3代目の本舘が完成。大きな仕事を成し遂げたことは今も渡辺氏の大きな礎となっています。

危機を乗り越えるのはコミュニケーションで練り上げたチーム力

2020年の春から、世間はコロナ禍に見舞われ、サービス業はどこも大変な痛手を受けました。しかし東京會舘は驚くことに業績の悪化は最小限にとどまり、むしろ、その堅調さが評価されています。その理由は、お客様を第一優先に考えた独自の運営方針にありました。

「緊急事態宣言が最初に発出されて以降、全舘休館する中でもブライダルチームだけは稼働させていました。コロナ禍であっても結婚式を挙げたいお客様は一定数、いらっしゃいます。そういったお客様のニーズに応えるために、国のルール遵守の徹底や安全確保に十分に注意をして業務を続けていました」

ブライダルチームは約30人。15人ずつの2チームに分けることで、万が一、どちらかのチームに感染者や濃厚接触者が出た場合も、もう一方のチームがフォローできる体制を構築。何かあればいつでも助け合える連携態勢は、従業員にとっても安心できるものでした。お客様との打ち合わせは基本的にリモートで行い、人と接触する場面をできる限り減らすように徹底。そのほかにも可能な限りの対策を行い、安心できる場所になるようチームをあげて工夫を重ねました。

「コロナ禍によって、人流は止められたかもしれません。けれど『大切な人たちと素敵なお祝いをしたい』『晴れの場をみんなで楽しみたい』といった、交流を求める気持ちは決してなくならないはずです」

いかなる状況だろうと、お客様のやりたいことに真摯に応える。東京會舘の創業以来の理念に沿って、未曾有の事態に、社内一丸となって向き合ったといいます。

「収益のリスクを抑えるために、コロナ禍によるキャンセルポリシーも確立しました。キャンセルの問い合わせには、社員全員が同じ回答ができるように情報共有を徹底。行動制限のある中でもやれることは全部やりました」

ここでも大事なのは、やはりコミュニケーションの徹底です。部署の横のつながりと、支配人からの上意下達をスムーズに行えるよう、チームの話し合いは欠かさなかったといいます。意思疎通不足で、仕事を滞らせない。そうしてつくりあげた強いチーム力のおかげで、ブライダル部門を中心に業績を維持。いまも結婚式の「完売」は、続いています。

100周年のためにつくられたウイスキー、オリジナルグラスとオリジナルブレンドショコラ。

色眼鏡を外して物事を眺め、将来のグランドデザインを引く

創業100年ともなると、コアなお客様の層は概ね固定されています。しかし本舘の建て替え以降、新規のお客様が増えたのは嬉しい変化だそうです。

「どんな状況でも東京會舘なら対応してくれる。そういった信用の積み重ねがブランド力の強化になったのではないかと思います」

それは時代の流れに合わせて変化することを恐れずに、挑戦する気持ちが生んだものでしょう。渡辺氏は本舘の大規模な建て替えプロジェクトの一環として人事の改革にも着手しています。

「これまでなかなかできなかったことですが、外部から優秀な人材を招き、組織の化学反応を試しています。たとえばレストランの厨房には、路面店で実績を上げていた方をシェフに迎えました。わが社の歴史上では異例のことです。初めは現場から反対意見もありましたが、良い結果を出すことで周りの目も変わりました」

伝統にこだわるのではなく、お客様に快適なサービスを届けることを最優先に考える。渡辺氏は常に自戒をし続け、経営の行動軸を振り返りながら、従業員にも浸透させています。

「固定観念にとらわれず、色眼鏡を外すこと。若い社員たちには、お客様が何を求めていらっしゃるかを見なさい、と指導しています」

東京會舘のある丸の内周辺は、外資系ラグジュアリーブランドの参入や老舗ホテルのリニューアルで、競合は激化しています。伝統のブランドにおもねることなく、渡辺氏は未来のビジネスを見据えています。

「コロナ禍以降の新たな事業展開も少しずつ描いています。たとえば海外進出。東京會舘の料理はほかと差別化できる特別なものですから、グローバルな需要があるかもしれません。また、これはもう少し先の話ですが、東京會舘の接客ノウハウを活かした別業界での施設運営にも興味があります」

ますます進化を続ける東京會舘ですが、とはいえ、大事なことはやはり人材だと渡辺氏は言います。どのような状況にあってもこの考え方は変わることはありません。

「何をするにしても、大切なのは人材です。間違いなくわが社の最大の武器であり、自慢です。その土台となるコミュニケーションはこれからも欠かしません。従業員みんなが私の宝物です」

お話を聞いた方

渡辺 訓章 氏わたなべ のりあき

株式会社東京會舘 代表取締役社長

1958年東京都生まれ。82年、駒澤大学法学部卒業後、東京會舘に入社。本舘で接客業務に関わった後、浜松町東京會舘総支配人、本舘宴会支配人兼婚礼支配人などを担当。2014年、取締役本舘総支配人に就任。17年4月より代表取締役社長。

[編集] 一般社団法人100年企業戦略研究所
[企画・制作協力]東洋経済新報社ブランドスタジオ

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