100年企業を実現するための人事評価制度
~多くの企業が間違っている!人事評価制度で成果を出す2つのポイント~
目次
中小企業にもリモートワークが浸透しつつある中、働き方の変化に合わせて人事評価制度を見直す動きが出ています。100年企業を目指す会社はどのような制度を整備すべきでしょうか。中小企業の人材育成に長年取り組んできた、日本人事経営研究室代表取締役の山元浩二氏に話を聞きました。
トレンドを追い続けている限り成果は得られない
人事評価制度にも近年さまざまなものがあります。かつては、直属の上司だけでなく、同僚や部下も評価に加わる「360度評価」がもてはやされた時期がありました。具体的な行動基準を設定する「コンピテンシー評価」が期待されたこともあります。
コロナ禍以降、最も注目されているのは「ジョブ型人事制度」でしょう。これは雇用契約が結ばれる段階で、あらかじめ職務内容を決めておく制度です。従来はジョブローテーションにより人材に対して、さまざまな仕事を割り当ててきましたが、逆に仕事に対して人材を割りあてる仕組みといえます。これまでの働き方を見直す動きが広まる中で、大手企業が相次いで導入に踏み切っています。
ただし、そうした潮流に乗った制度は、本当にあなたの会社をよくするでしょうか。私はそうは思いません。最新の制度は、自社の目的を達成するために、必ずしも最適な方法ではないからです。取り入れても失敗する可能性が高いでしょう。
経営計画と制度を連動させれば人材が成長する
これまで、私はコンサルタントとして22年間で約670社の組織づくりと人材育成を支援してきました。その大部分は中小企業で、実感的にいえば、7割程度はそもそも人事評価制度が存在しない会社でした。一方、およそ3割は人事評価制度を持っていたものの、それが実質的に機能している会社は、ほとんどありませんでした。
人事評価制度がうまく機能しない理由は、大きく2つあります。
1つは、自社に合うように設計されていないからです。実際、勉強熱心な経営者が解説書からそのまま移植したのか、人事評価制度だけがぽつんと孤立している会社が散見されます。しかし、当然ながら、コピーアンドペーストによって機能するような便利な制度はありません。
もう1つの理由は、制度をきちんと運用していないことです。通常、制度の導入後、少なくとも数年間は自社に合わせた微調整が必要です。しかし、その作業を担うべき専任の人事担当が置かれている中小企業はきわめて珍しく、ほとんどの場合、総務部が人事の業務を兼ねています。そのため人事評価制度のメンテナンスにまで手が回らず、形式的な運用に陥ってしまうのです。
もちろん、それでも一時的に人事評価制度が機能しているように映る場合もあるかもしれません。制度らしい制度がなく、経営者の裁量で従業員の給料が決められていたような組織の場合、一応の評価基準が示されることで、従業員のモチベーションが多少、高まることは考えられます。
しかしながら、本来の目的は会社を成長させることです。人事評価制度とは、経営者が示した方向性を社内で共有し、その実現に向けて、すべての従業員がそれぞれの持ち場で能力を発揮できるような仕組みといってよいでしょう。私が提唱する「ビジョン実現型人事評価制度」の狙いも、経営計画の実現と人材育成を通じて、会社が永続的に成長し続けることにあります。
制度が機能するかどうか、9割は「運用」で決まる
これまでの経験から、私は人事評価制度の導入に当たって、経営者が留意すべきポイントが3つあると考えています。
第1は、人事評価制度の成否はほとんど運用にかかっていると理解しておくことです。制度設計のよしあしが占める比重は1割程度で、残り9割は運用次第で決まると考えてもよいくらいです。
第2は、自己流で取り組まないことです。自社に合わせたカスタマイズは不可欠なのですが、制度の骨格まで都合のよいように変えてしまうと、効果が失われます。ポイントとなる基礎的な構造は維持してください。
第3は、経営者が先頭に立って推進することです。これが最も重要な点で、人事評価制度は経営者自身が継続的にコミットすべき最重要テーマの1つです。運用における実務上の作業は担当者に任せるにせよ、経営者が本気であることを社内に示さなければ、成功しないでしょう。
以上の3点をふまえて取り組むと、会社は面白いように変わります。
たとえば、関東地方で電動工具などのリユース事業を展開するA社は、私がコンサルティングを依頼された当時、まだ4店舗しか持たない小さな会社でした。ところが、「ビジョン実現型人事評価制度」の運用を始めてから十数年を経て、従業員は100名を超え、決して大きな市場ではないものの、業界トップの会社になりました。
A社の場合、制度の運用に積極的に関わろうとする社長のリーダーシップが最大の推進力となりました。そして、制度を通じて上司と部下の相互理解が深まるという副産物も認められました。目標や達成度について上司と部下が直接に話し合ったり、上司が評価内容を部下にフィードバックする面談を重ねたことで、社内の風通しがよくなったのです。優れた人事評価制度は、コミュニケーションツールにもなり得ます。
また、義歯などを製作する東京のB社は、10年間で従業員数と売上が倍増しました。ただし、事業規模の拡大もさることながら、特筆すべきは30歳前後の若手の中から3名のリーダーが育ったことです。彼らを抜擢し、やや高いハードルに挑戦させながらモチベーションを高めることができたのは、社長の掲げるビジョンと人事評価制度がきちんと連動していたからでした。
そして、東海地方で自動車関連部品を製造するC社は、20%を超えていた従業員の離職率が1%未満に激減しました。いわゆる期間工や定年退職者をグループ会社から寄せ集めた会社だったため、以前はよそよそしい雰囲気で、社内で社長を見かけても挨拶すらしない従業員ばかりだったそうです。
ところが、人事評価制度を通じて社長のビジョンが浸透していったことにより、社内に一体感が生まれ、業績も成長軌道に乗りました。その成長ぶりに学ぼうと、今では親会社の経営陣が視察に訪れるといいます。
いずれの事例も、人事評価制度がうまく機能すれば従業員が成長し、結果として業績も向上することを示しています。さらには、顧客開拓や人材採用、地域社会との連携といった点でも、好ましい変化が見られる会社が少なくありません。 何より、経営者が成長します。会社と社長自身のためにも、将来を見据えて、少しでも早い段階から人事評価制度の導入を検討してください。
お話を聞いた方
山元 浩二 氏(やまもと こうじ)
日本人事経営研究室 代表取締役
1966年福岡県生まれ。銀行、コンサルティングファーム勤務を経て、2001年に独立。人事評価制度を経営計画の実現と人材育成のための仕組みと位置づける「ビジョン実現型人事評価制度」を提唱し、約670社の中小企業を支援した。著書に『小さな会社は人事評価制度で人を育てなさい!』(KADOKAWA)などがある。
[編集] 一般社団法人100年企業戦略研究所
[企画・制作協力]東洋経済新報社ブランドスタジオ