1万7,000人の新卒がエントリーする会社に学ぶ
地方の中小企業を元気にする人材採用術
目次
地方を活気づけるには若い力が必要です。“都会の会社”に目が向きがちな就活生をどのように呼び込み、魅力を伝えるのか。毎年1万7,000人以上の新卒学生がエントリーする、株式会社Legaseed(レガシード)の近藤悦康社長に新卒採用の極意を聞きました。
地方の中小企業が新卒採用に苦しむ3つの要因
コロナ禍で採用活動は一変しました。会社説明会やインターンシップはオンライン形式が増え、地方の学生の就職活動にも大きな変化が起きています。かつては地元を中心に就職活動を行う学生が圧倒的に多く、そのまま入社するのが定説でしたが、今では首都圏を含めた全国の会社が就職先の候補となっています。これにより地方企業は、全国の会社を相手に競争しなければならなくなりました。
しかし、これは発想を変えればチャンスともいえます。地方企業でも首都圏の学生と接点をつくり、採用することができるわけです。
そう簡単ではない、と思わず言いたくなるでしょう。たしかに、多くの地方企業は採用活動に悩んでいます。では、なぜ悩むのか。ここには3つの要因があると考えています。
まず1つ目は、「来る者拒まず」で採用してしまうことです。採用する人材のハードルを下げてしまうと、一時的に人数は増えても教育に時間がかかり、かえって社内のリソースが不足したり、そもそも社風と合わず人材が定着しなかったりという問題が起きます。だからこそ、自社で活躍し定着できる人材の定義をしっかりと設計し、見極める必要があります。
2つ目は、社長と人事担当者だけで採用活動を完結させてしまうことです。社長が採用してきた人材が現場社員と合わず、すぐに辞めてしまった……というケースは少なくありません。入社する人材にとっても、既存社員にとっても「誰と働くか」は大事なポイントです。将来の上司となる現場社員と関わることで、学生は働くイメージを具体的に持つことができ、現場社員も「この子を育てたい」という気持ちがつくられます。つまり、社員を採用活動に巻き込むことが、採用成功への近道といえます。
3つ目は、採用活動を「コスト」と捉えてしまうことです。採用活動は本来、「未来への投資活動」です。どれだけ優れたビジネスモデルであっても、その商品やサービスを磨き、お客様へ価値を提供するのはその会社にいる社員です。いい人材を採用することで、企業の成長がつくられます。そのため、人を採ることに対して、時間とお金を惜しんでいては、実りのある採用活動にはならないということを、社長は忘れてはなりません。
この3つを改めることで、地方企業の採用活動は大きく変わります。
実際に、茨城県にある外壁塗装会社では、オンライン説明会で学生を集め、地方の国立大学の学生をはじめ3名を採用することができました。それぞれ塗装に興味や関心があったわけでも茨城県に縁があったわけでもありません。それでも、反対する親を説得して入社を決めたほどの熱量のある人材を獲得しました。
地方の小さな会社、もしくは一般的に人が集まりにくい業種でも、採用に成功している企業はあります。大事なのは、採用活動のやり方です。では、実際にどのような方法が、学生の心を打ち、採用成功につながるのでしょうか。
選考プロセスは学生の体験価値にこだわる
今や、大手就職メディアに求人広告を出すだけでは学生は集まりません。「この会社の説明を聞いてみたい、インターンシップに挑戦したい」と思えるような、選考プログラムや魅力あるインターンシッププログラムをつくり上げ、その魅力をきちんと訴求する必要があります。
学生が集まる選考プログラムにおいて欠かせないのは、学生にどのような体験をさせるか?という観点です。学生が入社の条件として真っ先にあげることは「自身が成長できる環境」です。社会人として働くとはどういうことなのか、成果や結果を出すにはどのような発想が必要か、今の自分に足りない要素は何か。プロとしての仕事のクオリティの高さを知ることで学生は刺激を受け、自分はまだまだ社会では通用しないという悔しさを味わいます。そうすることで、「この会社に入社すれば成長できそう」という入社意欲の向上につながります。
インターンシップだけでなく、説明会から内定までのすべてのプロセスにおいて同様のことがいえます。一つひとつの体験価値を高めることで、入社意欲の向上だけでなく学生の間に口コミが生まれるという効果もあります。私たちの会社が社員50名にもかかわらず年間1万7,000人の学生を集めているのは、「この会社のインターンシップには絶対に参加したほうがいい」という口コミが大学の友人やSNSで広がっているからです。一度口コミがつくられると、先輩・後輩のつながりや大学のキャリアセンターを通じて、翌年も学生を集めやすくなり、採用コストを年々抑えていくことも可能となります。
地方企業がここまでできれば、採用において極めて有利です。都心ではさまざまなインターシッププログラムが用意されていますが、地方ではまだまだ学生の成長を考えたインターンシップや選考プログラムをつくり込んでいる会社は少ないため、口コミを起こしやすいといえます。
地方企業では、中途採用や都会で働いている人を第2新卒的に採ることも多いでしょう。その場合、社員の友人・知人を紹介してもらうリファラル採用が効果的です。いい人材の周りには、いい人材がいるものです。優秀な人材が入社することで、現有社員も新たな仕事に挑戦できる可能性が広がり、ステージを上げることができます。働きやすく働きがいのある環境をつくるにはいい人材を採ることが大事である。この認識を社員が持つと、全員がリクルーターになって、自社で活躍できそうな友人や後輩の情報を、自然と伝えてくれます。
採用活動に力を入れると会社の現状把握ができるという、副次的な効果も忘れてはなりません。実はわれわれも、かつて欲しい人材を他社に採られてしまったことがありました。そのとき「会社がもっと磨かれていれば一緒に働きたいと思ってくれたはずだ」と反省し、どうすれば学生から選ばれる魅力的な会社になれるか、社内でディスカッションをし、会社を磨き上げてきました。新卒採用に力を入れることがきっかけとなって、会社の改革が進み、ひいては会社の成長にもつながります。
管理者のマネジメント力強化が新人を伸ばす
無事に採用活動が成功したとしても、早期離職が起きては意味がありません。採用と育成は最初からセットで考えておく必要があります。
早期離職の理由には、適職を与えられていない、会社が大事にする理念や価値観とのミスマッチ、上司への不満などが考えられます。中小企業の部長や課長は、自身でも業務を抱えている方が多く、ついつい部下の育成が後回しになってしまうこともありますが、少なくとも部下の育成と自身の業務が半々になる体制を築きましょう。
経営者は、管理者のマネジメント力を強化することも大切です。特に中小企業では、管理者に対してチームで結果を出すためのプランニングとPDCAの回し方、部下一人ひとりの強みや特性に合わせたピープルマネジメントのやり方を習得させることで、会社と社員の成長を加速させることが可能です。
中小企業で活躍している方と話していると、誰かから手取り足取り教わったのではなく、挑戦せざるをえない環境で、周りの力を借りながらも自分で考え、工夫し、主体的に動いてきたことがわかります。人間は、自分が本当に成し遂げたいと思ったことに対しては、進んで努力します。管理者はまず、部下がこの会社で何を実現したいのか、将来どんなキャリアを描きたいのか、彼らの夢を把握し、挑戦できる環境を与えてあげるとよいでしょう。
「うちは中途採用しかやってこなかった」「新卒社員は仕事ができるまでに3年ほどかかるから採用しても意味がない」とお考えの人もいるでしょう。しかし実は、そうではありません。社員が1年目から利益をあげてくれる仕組みをつくることは可能です。新卒採用は、学生が就職活動を開始してから入社するまでの期間が約1年半あります。優秀な人材を獲得し、1年半の間で一人前の人材に育成することは、決して不可能なことではありません。その実現には、先にあげた、上司のマネジメント力向上は必須といえるでしょう。
お話を聞いた方
近藤 悦康 氏(こんどう よしやす)
株式会社Legaseed(レガシード)代表取締役CEO
1979年、岡山県生まれ。大学院入学と同時に入社した会社で新しい人材採用の仕組みを創り、人気企業へと飛躍させる。2013年、株式会社レガシードを設立。600社を超える企業に組織変革のコンサルティングを行うほか、経営者、採用担当者、新卒学生など延べ10万人を超える人たちにセミナーやワークショップを実施。従業員100名弱の同社に毎年1万7,000人を超える学生が応募する。「Rakutenみん就」で学生が選ぶ「2021年卒インターン人気企業ランキング」で全企業中10位。『日本一学生が集まる中小企業の秘密』(徳間書店)、『内定辞退ゼロ』(実業之日本社)など著書多数。
[編集] 一般社団法人100年企業戦略研究所
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