トップの行動こそが経営理念を浸透させる
~「いちばん大切なこと」を追求する経営とは

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目次

売上を伸ばし、シェアを拡大する——「量の追求」が当たり前だった1980年代から、一貫して「質の追求」を続けてきた高知市のカーディーラー・ネッツトヨタ南国。創業以来、高い顧客満足度を維持している同社の「働きがいのある職場」づくりについて、横田英毅相談役に伺いました。

お話を聞いた方

横田 英毅 氏(よこた ひでき)

ネッツトヨタ南国株式会社 取締役相談役

1943年生まれ。日本大学理工学部卒業後、カリフォルニアシティカレッジ留学。西山グループ創業家の一員として、グループ系列企業数社を経て1980年トヨタビスタ高知株式会社(現ネッツトヨタ南国株式会社)発足と同時に副社長就任。設立当初から経営の最重要テーマとして「人づくり」の問題に取り組み、1987年、同社代表取締役社長。2007年、同社代表取締役会長。2010年、同社取締役相談役に就任し現在に至る。高知県産業界の人材にまつわる問題解決に当たるべく、「土佐経済同友会(2000年~ 2004年)」「高知県パワーカンパニー会議」「高知県経営品質協議会」などの代表幹事を務めた。また、ネッツトヨタ南国は2002年に日本経営品質賞、2015年にホワイト企業大賞を受賞している。

不人気業種だからこそ、働きがいを重視する

ネッツトヨタ南国は、1980年にトヨタビスタ高知として誕生しました。自動車販売業は不人気業種で、当時の調査では30数業種の中で下から3番目くらいだったと記憶しています。実際、新卒採用に力を入れようと意気込んで地元の合同会社説明会に出展したものの、初年度に当社のブースに来てくれた学生はわずか3名。その年の新卒採用はゼロに終わりました。

それでもあきらめず、その後も採用活動には時間と費用を惜しみなく投入しました。優秀な人材を確保することが、会社にとって何よりも重要だと考えていたからです。

「優秀な人材」とは、一般的には「学力が高い人材」を指すことが多いように思います。しかし、いくら学力が高くても、頭の使い方に長けている人材は稀です。

当社が重視したのは「頭のよさ」ではなく「頭の使い方のよさ」です。
頭の使い方のよい人は利他的で全体最適の価値観を持っています。

その意味では、当社は不人気業種だからこそ、いい人材が集まったといえます。多くの学生は、知名度や規模の大きさ、待遇のよさや安定性を求めて就職活動を行います。それらの条件に当てはまらない当社に応募するのは、待遇や給料ではなく、仕事そのものに関心を持つ人たちでした。

そんな彼らに対して、私たちは最低でも数回に渡り30時間以上の面談時間を持ちました。この会社が自分にとって本当に最適な働く場なのかどうか、彼らにもじっくり考えてもらいたかったからです。面談の場では私から「将来こんな会社にしたい」という理想を語りました。当時はまだ程遠い姿でしたが、未来に向かって共に歩んで行こうという人に入社してもらいたいと考えました。何度も会社に足を運ぶ中で、「ちょっと違うな」と感じた学生はやがて来なくなりました。そして、当社への興味がさらに高まった人だけが残りました。

あれから30~40年が経ち、当時採用した社員たちが現在の社長や役員、子会社の社長などを務めています。待遇よりもやりがいを重視し、働く人の幸せを徹底的に追求してきた結果だと思います。

自動車販売会社の‘常識’の逆を行く

カーディーラーの営業形態といえば、昔は飛び込み営業が当たり前でした。しかし、当社では、発足後1年ほどで飛び込み営業を一切しなくなりました。私自身、業務内容を知るために飛び込み営業をやってみて、その徒労感をいやというほど味わったからです。

そのときから来店型の自動車販売に切り替えると同時にアフターフォローに重点を置き、「お客様に喜ばれる仕事」に全力を傾注するようになりました。

販売会社によく見られる「営業成績を示す棒グラフ」もありません。当社では、営業社員同士が販売台数を競い合うことに価値を置いていません。その代わり、活動の半分をアフターフォローにあてています。具体的には車をご購入くださったお客様のところに出向いて、車の点検をしたり調子を伺ったりすることです。セールスのためではなく、お客様との関係性を密にするために足を運んでいます。

アフターフォローを充実させたからといって、それがすぐさま販売台数の増加につながるわけではありません。ただ、当社に好感を持ってくださったお客様は、買い替え時にはかなりの高い確率で再び当社を選んでくださいます。また、新規のお客様をご紹介くださることもあります。時間はかかっても、結果的には成果に結びついているのです。

「新車販売一台につき報奨金○○円」——自動車販売の世界ではありがちなルールですが、当社では結果だけを評価することはしていません。たまたま店頭で出会ったお客様に販売した一台と、何年間もかけてフォローした結果売れた一台とを同じ評価にするのは、公平とは言えないでしょう。

結果しか見なければ、スタッフ同士でお客様の取り合いになったり、後輩がずっとフォローしてきたお客様を成約時に先輩が横取りしてしまったりすることも起こりえます。

そのようなことを避けるためには、プロセスを評価する「しくみ」が必要です。当社では、毎朝の活動報告で、誰がどのお客様に対してどんなアプローチをしたのか、逐一報告することになっています。店長・上司は、メンバーが毎日どんな動きをしたのかを把握しています。だからこそ、一台の成約があったとき、それが誰のどのようなプロセスによって生まれたのかがわかるのです。マネジメントの中身が、販売台数を評価することではなく、日頃のプロセスを把握することになっているのが当社の特長です。

いちばん大切なことの浸透は経営トップの行動から

会社にとって、いちばん大切なことは何か。売上を伸ばすことなのか。シェアを拡大することなのか。利益を上げることなのか。

たしかにこれらは大切です。しかし、これらは会社経営の、「達成すべき目標」ではあっても、「追求すべき目的」にはならないものです。会社経営の目的は、経営理念に謳われています。それは、従業員の幸せであり、お客様の喜びであり、地域社会への貢献といったものでしょう。当社の場合は「全社員が人生の勝利者になる」ということです。売上や利益は、この目的を追求するための手段にすぎません。

ところが、実際には多くの会社が朝から晩まで目標を追いかけています。目標は数値化しやすく、達成したかどうかが一目瞭然です。一方、目的は数字として表れにくく、置き去りにされる傾向があります。

このため、経営理念を職場の壁に大きく貼りだしてつねに目にするようにしたり、朝礼で毎朝唱和したりして浸透を図るという会社もあります。

しかし、これには注意が必要だと私は思います。毎日の行動の中で理念が実践されていなければ、「理想と現実とは違う」ということを延々と教え込むことになりかねません。

例えば、若手社員が「経営理念はこうじゃないですか」と言っても、上司が「今はそんなことを言っている場合ではない」などと言って数字目標の達成を優先してしまう。こんなことが続くと、理念は単なる建前であり、実際の仕事が理念と合わなくても仕方がないんだと思うようになります。これではどんな恐ろしい結末が待っているかわかりません。

経営理念を浸透させるためには、まず経営者自身がつねに理念に即した行動をとっていなければならないのです。そして、各々の職場で上司が「経営理念がこうだから、このようにしなければならない」と、事あるたびに経営理念を引き合いに出して部下と話をするという職場風土が築かれていなければなりません。

「いちばん大切なことを、いちばん大切にする会社」——これが私のめざす会社の姿です。それは、職場の人間関係がよく、お客様に感謝され、努力が認められ、成長を実感できる会社、ひと言でいえば「働きがいのある」会社です。

大企業になればそれに伴う制約も大きく、純粋に理念を追求するだけでは済まない面が出てきます。小さな会社ほど「働きがい」を追求できる。中小企業はその利点を生かし、いちばん大切なことを一番大切にする会社をめざしていけばいいのではないでしょうか。

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