事業承継ドクターが教える、100年企業へのヒント
〜「年齢表」による見える化で、もう迷わない〜

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経営者は会社をいつ譲るべきか――中小企業経営者にとって、事業承継はいつかはやってくる大きな節目です。しかし、具体的な道筋を検討するまでに至らず、先延ばしにしている方も多いのではないでしょうか。100年企業を目指す事業承継のために、経営者は何から手をつけるべきか。事業承継ドクター協会の佐奈徹也氏に話を聞きました。

事業承継における日本の課題とは

ここ数年で、中小企業における経営者の高齢化は急速に進んでいます。中小企業庁が2020年9月のデータをもとに紹介している「データで見る事業承継」は、過去20年間で経営者の年齢のピーク(最も多い層)は50代から60〜70代へと、20歳近く上昇しているとの発表がありました。

このまま推移すれば、2025年までに70歳を超える中小企業・小規模事業の経営者の数は約245万人に達し、70歳未満の約136万人を大きく上回ることになります。しかも70歳を超える経営者の半分である約127万人が後継者未定、さらにこの半分の約64万人が黒字のまま廃業する可能性があると見られているのです。このまま進めば、2025年までの累計で実に約650万人の雇用が失われることになります。この20年余りで、事業承継は極めて大きな社会課題として私たちの前に突きつけられています。

なぜ、中小企業における事業承継はうまく進まないのでしょうか。さまざまな理由がありますが、私は経営者自身の意識の問題が大きいと感じています。従業員であれば定年退職の年齢が会社ごとに定められていますが、経営者にそうした年齢設定はありません。「いつかは後継者に譲るのだ」という思いはあっても、この日に必ず譲らなければならないという決まりはありません。

さらに、日本人の気質もあるかもしれませんが、経営者は「働くことが生き甲斐」になっている方が多い印象を受けます。まして創業者となれば、自分が産み育ててきた会社であり、愛着もひとしおでしょう。さらに、これも日本人的な感覚ですが「次の世代に迷惑をかけない状況にしてから引き継ぎたい」と考える人が少なくないようです。まず「借金をここまで減らしてから」とか「利益率をこのくらいに上げてから」と理想の状態をつくり上げることに邁進し、事業承継について考えること、行動することを止めてしまうのです。

従来は当たり前だった親族内承継が減っていることも、承継が進まない要因の一つです。10年以上前の親族内承継は全体の8割を超えていました。それが今は35%程度に減っています。従業員への承継は同じく35%程度、その他がM&Aで25%程度です。この背景には、平均的に子供の学歴が向上し、大手企業に就職して活躍しているケースが増えているということがあります。現在の仕事が面白くなっている様子も見え、親としては家業に戻ってほしいとは言いにくい。しかしできれば親族に譲りたい……方針が定まらないまま、結局、承継への取り組みはずるずると先送りされていきます。

しかし事業承継の遅れは企業にとって、当然プラスになりません。

まず従業員が不安になります。「うちの社長は70歳を超えている。この先会社はどうなるのだろう?」と考えない従業員はいないでしょう。また、将来の後継候補が社内にいても、バトンタッチが遅れれば、それだけ後継者も年齢を重ねてしまいます。仮に60歳で引き継いでも、わずか10年で70歳。思い切った新たなチャレンジは難しくなるでしょう。承継時期は早いほうが100年企業を目指しやすいのです。早く交代すれば、後継社長の経験不足を先代社長のフォローによってカバーすることが可能です。後継者の失敗も一つの経験であり、成長の糧となり得ます。

経営者の年齢別に増収・増益企業の割合を調べたデータでは、明らかに経営者の年齢が上がるにつれて増収企業・増益企業のいずれもが減少しています。また、新規事業分野への進出状況を見ても、やはり経営者の年齢が高くなるほど実施企業数が減っています(「2021年度版中小企業白書」)。従業員の安心や後継社長の動きやすさ、企業の成長のいずれを見ても、事業承継は早いほうがよいのです。

「年齢表」から事業承継のスタートを切る

では事業承継に向けた一歩をどう踏み出せばよいのか――私がおすすめしているのが「年齢表」の作成です。今年度をスタートに1年単位で1年後、2年後、3年後……と刻み10年後をゴールにした表です。年数は5年でも8年でも12年でも構いませんが、10年くらいを承継期間とするのがおすすめです。

本来承継には「経営権(役職)の承継」「財産(株式など)の承継」「事業(売上や利益、自己資本、従業員など)の承継」があります。基本的にはこの3つについて、現在と10年後のゴールの年を決め、ゴールに向けてどう進むのか、毎年の具体的なイベント(役職交代)や目標数値を記入します。

こうして、まずはゴールをしっかりと決め、表に落とし込むことで、そこに意識が向くはずです。これは非常に大きな意味があります。経営者の皆さんは、1〜3年後の近未来の事業計画は常に考えていらっしゃるかもしれません。しかし、そのような短いスパンで繰り返し計画を立てても、事業承継に向けた長期ビジョンは生まれません。1〜3年といった短い年数ではなく、ぜひ、10年後を考えてみてください。

一緒に考えるパートナーを持つ

もちろんこれを詳細につくるのは現社長一人では難しいと思います。承継の基本方針や戦略は、できれば信頼できる税理士や経営コンサンルタントと議論しながらつくっていくことが必要になります。また、親族内での承継が当たり前ではない状況の中では、広く後継者を探すためにも、経営者に寄り添って適切なアドバイスができる承継の専門家に頼るべきでしょう。

各企業の顧問税理士の先生方は、税務の専門家ではあっても事業承継に関する広い知識やノウハウを持っているとは限りません。そこで、事業承継に関するスペシャリストを育成するために、私は2020年に一般社団法人事業承継ドクター協会をつくりました。税理士や会計士、社会保険労務士、司法書士などが会員となって、ノウハウを共有し学びを深めています。切磋琢磨しながら優秀な事業承継に関するアドバイザーとして力を付けてもらいたいと考えています。

今、日本に必要なのは全企業の99.7%以上を占める中小企業が、世代交代を果たし、新しいことに積極的にチャレンジしていくような、いわば若々しい企業に生まれ変わることです。そして企業を成長させ、従業員の給料を上げることまでできればベストでしょう。これからの時代において、企業はそこまでやり切る必要があると、わたしは考えています。

会社は誰かのものではなく、社会の役に立つもの。そうした根本的な理念を経営者が持ち、共有できる後継者に継承できたときこそ、会社は長く存続し、100年企業として歩んでいくことができます。

創業者の想いを受け継いだ若々しい経営者が100年企業を目指して一歩を踏み出せるような環境づくりを広げていくために、私も力を尽くしていきたいと思います。

(お話を聞いた方)

佐奈 徹也 氏 (さな てつや)

一般社団法人事業承継ドクター協会代表理事/古田土会計グループ執行役員

日本大学大学院法学研究科修了。2004年に現税理士法人古田土会計の前身である古田土公認会計士・税理士事務所に入所、2500社を超える中小企業顧問先に対して、財務コンサルティング業務に従事。2016年に事業承継部門を立ち上げ、経営計画策定および株式承継対策のコンサルティングを実施、2019年には昨今の親族外事業承継のニーズに応えるためにM&A部門を立ち上げ、年間100件以上の事業承継案件に関与している。2020年、一般社団法人事業承継ドクター協会を設立、約500人の税理士・会計士が参加する事業承継研究会の統括・運営を務める。著書に『社長、会社を誰に、どう継がせますか?~事業承継の新しい教科書~』(共著、かんき出版)

[編集] 一般社団法人100年企業戦略研究所
[企画・制作協力]東洋経済新報社ブランドスタジオ

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