企業不動産戦略
13-3. 地方創生・中小企業の企業不動産戦略

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目次

2014年に発刊された書籍『地方消滅 - 東京一極集中が招く人口急減』(増田寛也著)で「消滅自治体」という言葉が使われてから、久しく経ちました。これから人口減少と高齢化が進むと「消滅する街」と「生き残る街」がはっきり分かれると誰もが予測するでしょう。どの「都市」がそうなるのかは、多くの人にとって大きな関心事であると思います。

政府も2014年に『まち・ひと・しごと創生総合戦略』を策定して「地方創生」を打ち出しましたが、地域の未来を考えるときに、誰が責任を持って将来の地域や社会や企業や家計の存在とその在り方を考えているのかが重要です。

企業の社会的な介在価値が問われる

企業においては、社会的な介在価値が一体どこにあるのか。家計にとっては、これからのAI(人工知能)時代に自分たち人間の優位性はどこにあるのか。このような問題をしっかりと考えていく必要があるでしょう。企業にしても個人にしても、価値があるから生き残ると考えられるからです。

CSVという言葉をご存じでしょうか。企業にとって持続的成長を考えるときにコンプライアンスは重要で、企業は法令を遵守しながら利潤の最大化を目指す必要があります。それ以上に、これからはグッドプラクティス(良い行い)が大事になるかもしれません。社会にとって役に立つからこそ、企業も個人も存在意義があります。「企業の社会的責任」といわれるCSR以上に、どれぐらいの価値を社会に提供できるのか、コーポレート・シェアード・バリュー(CSV)をもっと深く考える必要が出てきています。

著名な経営学者であるマイケル・ポーターは「企業は社会と共有できる価値を創出すべきである」と述べます。その対価が利潤になると考えられるからです。

企業はどんな価値を社会に提供しているのか。どんなスペシャリティを持って社会に貢献しているのか。私たち個人の専門性とは一体何であるのか。一人だけで事を成すことができなければ、どういうネットワークを持ち、どのような専門性とコネクトすることによって社会に貢献できるのか。唯一のものが一体何であるのか。競合優位性は何であるのか。社会的な介在価値は何であるのか、ということです。

企業は、100年後に生き残ることが目的ではなくて、真の100年企業を目指すのであれば、これまで社会に何を残してきたのか、これからの100年間何を残していくのかを、しっかりと考えていく必要があると思います。

地域が生き残るために都市をデザインする

企業や個人だけでなく、地域にも同じことがいえます。「この街は、誰のために何のために存在しているのか」を考えていかなくてはなりません。街が生き残ることが目的ではなく、その街が必要だから生き残るのです。自分たちの街をどのようにデザインするのか。それぞれの地域をしっかりとデザインできなければ、日本という国そのものの存在意義も失われていくことでしょう。

「スーパースターが、何か新しいイノベーションを起こして社会を変革させる」と言われますが、本当にそうでしょうか。むしろ、地域に存在するローカルスターが街を作り、その集合体が国家となっていくと考えたほうが正しいように思います。地方のほうが新しい試みを実践しやすく、成功事例も生み出しやすいのではないでしょうか。

では、地域をどのようにマネジメントしていくのか。タウンマネジメントの重要性が認識されていますが、その前に地域そのものをどういう形にデザインしていくのかを考えなければなりません。トップダウン型の意思決定が重要だった20世紀。産業構造的には、製造業などの第2次産業を中心として、社会が成長してきました。同じ目的を持っていた人たちが、同じものを作っていけば成長する時代でした。

しかし、21世紀に入って、私たちの感性も、価値観も、必要とする商品・サービスも多様化している時代です。サービス産業などの第3次産業、さらにデジタル技術やAIを活用した第4次産業へと発展していくなかで、ボトムアップ型の意思決定が要求される社会へと変化し、その傾向はますます強くなっていくと思います。

新しい地域づくりのために、各地域ではさまざまな再開発が行われています。戦後の高度経済成長時代に、経済が急速に発展し、人口も拡大しましたが、いま私たちは高齢化や人口減少に直面し、社会全体がシュリンクしようとしています。高度経済成長時代に開発し成長してきた地域をもう一度、再開発することによって取り戻せるのでしょうか。非常に重い課題を突きつけられています。

青森県青森市に、有名な「アウガ」という再開発の事例があります。2001年の開業当時は、地域創生の象徴的な成功例といわれました。しかし、開発費1,185億円を掛けて開業したものの、実態は初年度から赤字が続き、そして2015年度の決算は27億円の赤字となりました。24億円の財務超過、累積赤字が32億円となって経営再建が不可能となり、市の債権が24億円となった結果、2人の副市長は辞職し、市長も辞職に追い込まれました。

都市に「人が集まる」ことには法則性がある

地方都市において、どのように未来をデザインすべきなのかを考える前に、まず未来を科学的に分析してみましょう。

「都市」という単位は、実は私たちが人為的に設定している行政区としての都市と、経済活動のなかで自然に人が集まって形成された都市とで異なります。都市経済学の研究では、1kmメッシュ(1㎞×1㎞)の正方形の中に1,000人住んでいる状態を「集積して人が住んでいる状態」と仮定します。そして、その1kmメッシュが10個以上繋がって、1万人以上の塊ができたとき、これを「都市」と定義しています。

これらの「都市」を人口規模の順位で並べてみて、そこに明確な秩序や法則性を発見できるかどうかを、多くの科学者が研究してきました。「都市」の人口を縦軸に、人口規模の順位を横軸に、それぞれの対数を取ってグラフ化します。そうすると、すべての都市が右肩下がりの直線状に並びます。統計モデルではこのような状態を「べき乗則」といいます。

人口と人口規模の順位が「べき乗則」となる関係性は「ランク・サイズ・ルール(順位・規模法則)」と呼ばれています。1位の東京と2位の大阪の人口の比は、2.27倍になります。同様に、順位の比が2倍となる10位の奈良市と20位の松山市でも、人口の比は2.27倍になります。このような人口比率の法則性が大都市への「一極集中」の構図を示しています。

この関係性は、日本だけでなく世界のどの国でも成立しています。そして、地方でも相似形で成立する「フラクタル構造(入れ子構造)」を持っています。つまり、都市に「人が集まる」ことには、一定の法則性があるのです。

都市は生産する場所ではなく消費する場所

この「べき乗則」という秩序は、どうしたら再現することができるのでしょうか。京都大学の森知也教授とその研究グループ、海外でも多くの都市経済学の研究グループが、この問題に取り組んでいます。この秩序のウラ側には、一体何があるのでしょうか。そこには「バラエティ・エフェクト(多様性の効果)」という多様な財を消費できるほど、私たちの効用、いわゆる幸福度が大きくなるという法則性があると考えられています。

大都市の中心部においては、演劇とかディズニーランドのような大型テーマパークを消費できます。しかし、地方都市にはありません。それより数が多い高級品を扱うようなブティックなども、地方ではあまり見かけません。しかし、レストランやコンビニエンスストアなどは、多くの地方都市にも存在しています。人口が集積した大都市だけには、この3つ階層の消費財が揃っています。

これが「人が都市に集積するメカニズムである」と考えられます。「ハイスキルな労働者は、魅力的なアメニティやライフスタイル、レジャーを提供する都市を好む傾向がある」と言ったのが、米国の経済学者であるハーバード大学のエドワード・グレイザー教授やマサチューセッツ工科大学のアルバート・サイツ教授でした。

「都市には多様な人々が集積し、新しい情報を交換し、シェアし、そして生み出す力がある」と言ったのは、米シカゴ大学のテリー・ニコラス・クラーク教授です。都市は「エンターテインメントマシン」であり、生産する場所ではなく、消費する場所であるという「コンシューマー・シティ・セオリー」を提唱しました。

大都市は優位性を持っています。なぜなら、規模の経済の多様性があるからです。そこで重要となるのは、参入の固定費用です。レストラン・コンビニとディズニーランドのようなテーマパークを比べると、当然ながらレストラン・コンビニは、参入コストが低いので、どこにでも存在しています。高い固定費用をカバーするには、大きな市場規模が必要で、東京ディズニーランドはその背後に大きな人口があるから存在できるのです。

競争力を保てる市場規模は、その背後にある人口によって決まります。つまり差別化の程度が高い財ほど広範囲の競争にさらされていく。その結果、市場範囲が大きいことで商売が成り立つような消費財は、僅かしか存在できない構造になっており、それが大都市の条件になるのです。

地域から始める社会の「未来像づくり」

先ほど定義した「都市」は、2020年時点で日本に430ほどあります。しかし、人口減少が進む未来を予測するとどんどん少なくなって、100年後には札幌や東京、福岡、京都、名古屋、大阪などは残りますが、ほとんどの都市が条件を満たすことができず、消滅してしまうことが予測されます。

このような厳しい状況が突きつけられるとき、地方における不動産投資戦略は、一体どうあるべきなのか。地方にある企業は、どのように生き残ることができるのか。このような問題を真っ直ぐに見つめていく必要があります。

地域から始める社会の「未来像づくり」で重要なのは、その地域において街ごと作り変えるようなエネルギーを生み出し、ボトムアップ型の意思決定を行っていくことです。一人一人のスターが地域ごとに誕生することで、街を作り変えることができます。地域のなかで成功する事例があれば、それを都市でも成功させることができます。そうすることで、都市の未来がデザインされていくのです。

スピーカー

清水 千弘

一橋大学教授・麗澤大学国際総合研究機構副機構長

1967年岐阜県大垣市生まれ。東京工業大学大学院理工学研究科博士後期課程中退、東京大学大学院新領域創成科学研究科博士(環境学)。麗澤大学教授、日本大学教授、東京大学特任教授を経て現職。また、財団法人日本不動産研究所研究員、株式会社リクルート住宅総合研究所主任研究員、キャノングローバル戦略研究所主席研究員、金融庁金融研究センター特別研究官などの研究機関にも従事。専門は指数理論、ビッグデータ解析、不動産経済学。主な著書に『不動産市場分析』(単著)、『市場分析のための統計学入門』(単著)、『不動産市場の計量経済分析』(共著)、『不動産テック』(編著)、『Property Price Index』(共著)など。 マサチューセッツ工科大学不動産研究センター研究員、総務省統計委員会臨時委員を務める。米国不動産カウンセラー協会メンバー。

【コラム制作協力】有限会社エフプランニング 取締役 千葉利宏

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