経営者にいまおすすめの本6冊 「デザイン思考」編

目次
産業構造や人々の価値観、働き方などが急速に変化する現代において、企業は新たな事業の創造や業務プロセスの変革が求められています。そうした中で注目されているのが、ユーザーのニーズや課題を深く理解し、イノベーションを生み出すための手法「デザイン思考」です。今回は、その本質をつかみ、実践に生かすために読んでおきたい6冊を紹介します。
デザイン思考で意図的にイノベーションを生み出す
『デザイン思考 マインドセット+スキルセット』
廣田章光著 日本経済新聞出版 2,200円

本書は、デザイン思考が誕生した社会背景から実践手法に至るまでを、学術的な研究結果や先進事例を交えながら、網羅的に解説した一冊です。デザイン思考とは、従来の手法では見いだせなかった問題を発見し、新たな事業や仕組みを創造する手法で、デザイナーがデザインをするうえで日常的に行っている思考法やスキルを、社会で広く使用できるように体系化したものです。
イノベーションは、異質な要素の組み合わせによって生まれます。しかし、それを意図的に創造するのは決して容易ではありません。そこで必要になるのが、デザイン思考なのです。
まずは第1章から第3章にかけて、社会でデザインの持つ力が注目された経緯やデザイン思考の特性などをひもときます。
基本となるのは、対象となる「人間」を深く理解することです。本人すら気づかない問題を発見し、解決するためのアイデアを試し、修正を繰り返します。その試行錯誤が、新たなイノベーションに結びつくのです。こうした試行錯誤を正しく行うための道筋が、①「共感」②「問題定義」③「問題解決」④「試作」⑤「検証」という「デザイン思考の5つのステップ」です。
第4章から第8章では、デザイン思考を活用するうえで重要な観察と、そこから得た情報を生かして問題の発見や解決につなげるプロセスとスキルセット(思考ツールの使用に関する知識)などを解説。「観察ワークシート」や「体験マップ」など、実際に活用できるフレームワークも紹介されます。
ここでは、バルミューダの画期的な扇風機「ザ・グリーンファン」や、サントリーのコーヒー飲料「クラフトボス」、小林製薬の「ナイトミン耳ほぐタイム」の開発ストーリーなど、具体的事例も取り上げます。
第9章から第11章は、デザイン思考を実施するためのワークショップの運用方法や、SAPジャパンやネスレ日本、マザーハウスといった組織による実際の導入事例を解説。さらに、デザイン思考教育の”総本山”であるスタンフォード大学の機関「d.school」のカリキュラムも紹介します。
最後の第12章には、デザイン思考を実践しているマーケター・一級建築士の伊藤崇氏へのインタビューを収録。デザイン思考の現場での活用法や、実務上の課題について語られます。
デザイン思考習得には、実践と継続が欠かせない
『実践 スタンフォード式 デザイン思考 世界一クリエイティブな問題解決』
ジャスパー・ウ著 インプレス 1,760円

著者のジャスパー・ウ氏は、スタンフォード大学の「d.school」でデザイン思考を学び、在学中にファシリテーターとして活躍。卒業後は、サムスン電子やメルカリ、U-NEXTなどで、デザイン思考を活用したイノベーションを実現してきました。
本書はそんなジャスパー氏の実体験をベースに、デザイン思考の基本的な考え方やプロセス、フレームワーク、ファシリテーションなどを詳細にまとめたものです。
第1章では、デザイン思考の基本を解説しつつ、自身が習得に至るまでの経緯と意識を語ります。ここでジャスパー氏は、デザイン思考は受け身で教わるだけでは身につかないと主張。水泳を習うときと同じように、「継続してトレーニングすること」「繰り返し実践すること」が重要であると述べます。
第2章からは、デザイン思考のプロセスを、具体的なアクションに落とし込んで解説します。例えばユーザーへインタビューする際の手法や、チームで結果を共有するやり方、テストのためのプロトタイプ(試作品)の作成方法など、各プロセスの具体的な進め方をわかりやすく提示します。さらに、ジャスパー氏が実際に見かけたNG例や、シャイなメンバーが集まったときの対応法なども紹介。現場の知見が豊富に盛り込まれています。
第3章は、各プロセスをスムーズに進めるための「ツールキット」と呼ばれるフレームワークを用いて、読者が実際にデザイン思考を体験できるよう手助けします。ここに掲載されているツールキットは現場で応用可能なものですが、今後デザイン思考を活用していくのであれば、自分自身で独自のツールキットを作成することを推奨しています。
第4章では、デザイン思考のファシリテーションに取り組む人へ向けて、簡単なゲームや質問など、アイスブレイク※のアクティビティを紹介。第5章で、未来のデザイン思考のあり方について考察し、複雑化する世界、そして日本における今後の課題や展望を語ります。
最後にジャスパー氏は、日常的に始められるデザイン思考の第一歩として、忙しい日々の中でもじっくり考える時間を持つこと、周りの人に共感を示すことなどを提案します。
※複数の人が集まる場で緊張感をほぐして、コミュニケーションをスムーズにする方法
デザイン思考で得る、新しい視座
『デザイン思考入門 イノベーションのためのトレーニングブック』
渡邊敏之、柏樹良、中野希大著 丸善出版 2,750円

著者は、医療デザイン研究、プロダクトデザイン、メディアデザインなど、実務の現場を経て現在は大学で研究を行う3名の専門家たちです。それぞれの経験を生かし、幅広い分野でデザイン思考を応用できるように構成されています。
本書のゴールは、「イノベーションの種を見つける実力がつく」ことです。これは、「既存の技術や新たな技術を使い、今まで誰も気づかなかった全く新しい視座により、全く新しい魅力的なサービスを生み出すこと」を意味し、そのための手法がデザイン思考なのだと著者は述べます。
本書は8つの章で構成。まず第1章でデザイン思考の概要を解説し、第2章で、イノベーションとデザイン思考の関係について触れます。
イノベーションは、既存技術の延長線上にある技術革新としての「持続的イノベーション」と、従来の製品や分野自体を破壊してしまうかもしれない「破壊イノベーション」に分けられます。デザイン思考は、特に後者を引き起こす可能性を高めるための思考法として位置づけられています。
第3章では、現場を知るための方法であるフィールドワークについて解説します。デザインをするうえでは、自分があたかも当事者として経験したかのような感覚が必要です。これを本書では「経験の拡大」と呼びます。そのために有効な調査手法として、民俗学で培われてきた「民俗調査」を取り上げ、背景にあるニーズや課題などを「自分なりに解釈する」ことの重要性が語られます。
続く第4章で、ユーザーの隠されたニーズを推論し、課題を解決するためのゴール設定を行います。ここからより実践的なステップに入り、第5章で、考えを前に進めるためのコンセプト構築を解説。第6章では、チームで自由にアイデアを出し、まとめるための具体的な発想法を紹介します。
第7章では、発想を膨らませるためのスケッチングや、アイデアを形にするためのプロトタイピングの種類と評価方法を説明。最終章の第8章は、アイデアを発表するためのプレゼンテーションの方法について詳述します。
本書は写真やイラスト、図解を交え、平易な文章でつづられています。加えて、各章にコラムが掲載され、具体的な事例や現場のリアルな声が学べるのも特徴です。主に学生を読者に想定していますが、実務を担うビジネスパーソンにとっても有益な入門書といえるでしょう。
『ドンキ式デザイン思考 セオリー「ド」外視の人を引き寄せる仕掛け』
二宮仁美著 イースト・プレス 1,760円

ドン・キホーテのデザイン統括責任者が、店舗デザイン戦略を初公開。著者が手がけた店舗デザイン事例を取り上げながら、人を惹きつけるためのコンセプトと仕掛けを具体的に解説する。デザインをビジネスに生かすヒントが詰まった、ノンデザイナーにとっても学びの多い一冊。
『生きるためのデザイン思考』
渡辺拓著 フォレスト出版 1,980円

世界で多くの人に利用されているオンライン学習サイトUdemyの人気講師が、ビジネスだけでなく、人生や家族、生き方といったあらゆるシーンで使える「超デザイン思考法」を解説。先の見えない不安定な時代に、デザイン思考のエッセンスを活用して「日常にイノベーションを起こす」方法を伝授する。
『世界を変えるSTEAM人材 シリコンバレー「デザイン思考」の核心』
ヤング吉原麻里子、木島里江著 朝日新聞出版 891円

「STEAM」は、Science(科学)、Technology(テクノロジー)、Engineering(エンジニアリング)、Arts(アート)、Mathematics(数学)の5つの頭文字を取った造語で、シリコンバレーで注目される人材コンセプトだ。ヒューマニストであり、イノベーターであり、デザイナーでもあるSTEAM人材と直感を重視するデザイン思考の要点を解き明かす。
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