都市と五輪-第3回 東京五輪2020への都市改造Ⅲ

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都市政策の第一人者であり、明治大学名誉教授の市川 宏雄氏が執筆したコラムを定期的に掲載していきます。日本国内における「東京」の位置づけと役割、世界の主要都市との比較など、さまざまな角度から東京の魅力を発信していきます。
「都市と五輪」をコラム全体のメインテーマとしてとらえ、各回にてサブテーマを設定しています。全10回にわたりお届けします。

さて今回、オリンピックの東京開催が決まりましたが、2013年の開催決定の時に、若者が集まって喜んでいました。大体オリンピックとかイベントをやると若者が白けて、お金がもったいないとか言うことが多いですが、今回、若者は誰も文句を言っていません。これは重要な局面で、最近のアジア大会などでもそうですが、近頃若者のパワーが蘇ってきていて、結構さまざまな競技で強くなっています。これはもっと前を思い出してもらうと、ちょうどタイミングが一番分かり易いのが民主党政権の時代で、あれはまさに日本の暗黒の時代です。本当に何も起きない。政治も支離滅裂で、口先だけの無策な議員が大勢席に座って、ああいうのを見ると若者は白けるわけです。さらに若者にはもっと前があって、生まれ育ってから“ゆとり教育”という文部科学省の最大の失敗、多くがこの被害者なわけです。こうしたなか、少なくとも私の知る限り、今ここに至るまで若者に夢があったかと言われたら、ほとんど夢なんかありませんでした。あくまで聞いた範囲ですけれども、今回、若者はあまり反対していません。初めて夢を見られるかもしれない、という現実が今まさにあるわけです。

前回は東京のモータリゼーション、基盤整備を一気に行ったわけですが、今回どのようになるかと言いますと、当初は何も考えていませんでした。そもそもなぜオリンピックが来たのかといえば、2016年に当時都知事だった石原慎太郎氏が、自身の延命のためにオリンピックを主要課題にしたわけです。しかし結局リオデジャネイロに負けてしまって、石原慎太郎氏も消えてしまったわけですが、なぜかオリンピックへのエントリーだけが残ったわけです。そして2020年にシフトします。この時の状況はご存知のように、ライバルのマドリードとイスタンブール、どちらも財政的に危ない都市で実質的に東京しかなく、東京は勝ってしまいます。それも東京はちょうど東日本大震災があり、福島原発の問題もあって不安があったわけですが、2013年9月、安倍首相がアルゼンチンまで赴いて「日本は大丈夫だ」と断言したので、そう言われた以上はみんな大丈夫だということになって通ったわけです。やはりタイミングはあったと思います。ですから安倍首相でなければ通らなかった可能性もあるし、そもそも他の応募した都市が異なっていたら結果も変わっていたかもしれません。
結果は通ったわけですが、何ら準備をしていなかった。ですからインフラ含めて特段注目するものは何も無いわけです。東京の真ん中の、ちょうど中心から20分圏内で競技をほぼすべて行うということが初めの提案でしたから、新しいインフラは要らないわけです。偶然造っていたインフラが、「環状2号線の延伸」でした。ちょうど四谷から虎ノ門を通って臨海に行きます。これが完成時期だったので、まるでオリンピックで準備したかのように思われていますが、実際はそのためではありませんでした。あともう一つが、湾岸線、いつもトンネル付近で渋滞しますが、これに一般道のトンネルをもう1本造っています。この2つしかありません。

その環状2号線ですが、これは虎ノ門から新橋までを新虎通りと言っていますが、本来環状線ですからクルッと回るはずが、ここから曲がらずに、まっすぐ臨海に行ってしまっています。そして虎ノ門から汐留までが有名な「マッカーサー道路」と言われています。虎ノ門にアメリカ大使館がありますから、マッカーサーが「敷け」と言ったと言われています。真実は分かりませんが、そう言われたということで都市計画に掛っていました。これが50年以上の時を経て出来上がるわけです。そして、ちょうどこのタイミングでオリンピックの開催がぶつかっています。これがなぜポイントなのかと言いますと、有明にオリンピックの競技場があって、勝どきには選手村があります。このまま進むと、四谷の脇に明治神宮があって、ほぼオリンピックの時に皆が通るわけです。ですから明らかに前回オリンピック時の青山通りに近い形で、「新虎通り」が今回のオリンピック道路になります。ここしかありません。

そしてちょうどオリンピックに合わせて、2020年ですけれども、いま虎ノ門ヒルズの両側に2棟のビルを造っていて、その北側には桜田通りがあって、ここに日比谷線が通っていますが、ここに新駅を造ります。これが2020年に開業する予定の「虎ノ門ヒルズ」駅です。ただ駅は全部できないため、暫定開業になります。あとは、バスターミナルが虎ノ門一丁目地区の隣のビルの下にできますから、ここからバスが発着します。そうなればここから臨海とか羽田とか成田に行ける様になります。今までなかった都心のど真ん中にバスターミナルができるわけです。これはオリンピックに合わせていますから、「オリンピック効果」と言えば、そう言えるのかもしれません。

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著者

市川 宏雄いちかわ ひろお

明治大学名誉教授
帝京大学特任教授
一般社団法人 大都市政策研究機構・理事長
特定非営利活動法人 日本危機管理士機構・理事長

東京の本郷に1947年に生まれ育つ。都立小石川高校、早稲田大学理工学部建築学科、同大学院修士課程、博士課程(都市計画)を経て、カナダ政府留学生として、カナダ都市計画の権威であるウォータールー大学大学院博士課程(都市地域計画)を修了(Ph.D.)。一級建築士でもある。
ODAのシンクタンク(財)国際開発センターなどを経て、富士総合研究所(現、みずほリサーチ&テクノロジー)主席研究員の後、1997年に明治大学政治経済学部教授(都市政策)。都市工学出身でありながら、政治学科で都市政策の講座を担当するという、日本では数少ない学際分野の実践者。2004年から明治大学公共政策大学院ガバナンス研究科長、ならびにこの間に明治大学専門職大学院長、明治大学危機管理研究センター所長を歴任。
現在は、日本危機管理防災学会・会長、日本テレワーク学会・会長、大都市政策研究機構・理事長、日本危機管理士機構・理事長、森記念財団都市戦略研究所・業務理事、町田市・未来づくり研究所長、Steering Board Member of Future of Urban Development and Services Committee, World Economic Forum(ダボス会議)in Switzerlandなど、要職多数。
専門とする政策テーマ: 大都市政策(都心、都市圏)、次世代構想、災害と危機管理、世界都市ランキング、テレワーク、PFI
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