後継者候補として自身の子息・子女を育成…そのメリットは?~中小企業経営者のための幹部候補の育て方[第3回]
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近年、後継者不在により、廃業する企業が増えています。このような事態を防ぐためにも、早い段階で会社の次世代を担う人材を育てることは中小企業経営者の責務だといえるでしょう。
本連載では、中小企業の幹部候補をどのように育成していくのか、基本的な考え方やノウハウなどを紹介していきます。今回は事業承継を見据えて、経営者の子息・子女を幹部候補へと育てる際のポイントを整理していきます。
中小企業の半数以上は親族承継
株式会社帝国データバンクが行った2019年の『全国後継者不在企業動向調査』によると、全体の約 65%が「後継者が不在である」という結果でした。
そんな中、実際に事業承継を行った中小企業は、後継者をどのように選んだのでしょうか。
中小企業庁『2019年版中小企業白書』によると、事業承継した経営者と後継者の関係は「親族内承継」が最も多く、全体の約5.5割と半数を超えました。その他の選択肢としては「役員・従業員承継」、「社外承継」などがあげられ、いずれも全体の1.5~2割程度となっています。また親族内承継の内訳の中で最も多いのは「男性の子供」で全体の4割以上。次いで「子供の配偶者」、「女性の子供」、「兄弟姉妹」などが続いています。
[図表1] 事業承継した経営者と後継者との関係
このように中小企業の経営者にとって、事業承継の対象は親族であることが一般的です。「自社の未来を明るいものとしていくため、いかに子息・子女を次世代幹部へと育て上げるか」を考えることは、重要な経営課題のひとつなのです。
子息・子女は幹部候補者にふさわしい資質を持っているか
先述のように、中小企業にとって最もスタンダードなのは『親族内承継』です。しかし血縁関係にあるというだけで、実力に乏しい人間に経営や幹部職を任せることはできません。まずは将来を見据え「次世代幹部候補としての資質を備えているか」を見極めることが、必要です。幹部候補者には、以下の資質が求められます。
■洞察力
目に見えない周囲の状況に思いを巡らし把握する洞察力。経営にあたっては、業界や取引先の状況、そして自社スタッフの思いなどをいち早く汲み取り、適切な判断や対応に繋げる大切な力です。
■統率力
周囲の人々の意見をまとめ、率いていく統率力。経営にあたり、リーダーシップは必要不可欠です。もちろん独善的になるのではなく、スタッフの意見を尊重しつつ能力を活用させる人間性が求められます。
平素から子息や子女を観察し、これらの力が養われているかを、見極めておきましょう。
また幹部候補者には、そのほかの多彩な資質も求められます(関連記事:連載第1回『幹部候補に求められる資質とは?』)。
社内で育てるか、それとも社外で育てるか
事業承継を見据えたうえで、子息や子女を次世代幹部候補へと育て上げていくためには、ふたつの方法が考えられます。以下にその詳細を見ていきましょう。
■社内で育てる
教育機関を卒業した後、自社へ入社させて育成するという方法です。以下のようなメリットとデメリットが考えられます。
社内育成においては、自社のやり方で利益を生む方法を身近に感じさせることが可能です。業務に伴う苦労やともに働く同僚たちの気持ちを理解するために、最もスムーズな方法と言えるでしょう。
一方、親族承継へ対して既存の社員に理解を求める必要もあります。「幹部候補になることが、あらかじめ決まっている……」という視線に晒され、本人が強いプレッシャーを感じる可能性も高いのです。甘えを取り除き最前線で苦労を積ませることは大切ですが、厳しく接するだけでなく、フォローやケアも考えていきましょう。着実に実力を蓄え、実績が積み上げられる環境を整備することは、経営者にとって重要な仕事のひとつとなるでしょう。
■社外で育てる
教育機関を卒業後にすぐに自社へ入社させるのではなく、他社へ預けて経験を積ませるという方法です。以下のようなメリットとデメリットが考えられます。
他社へ預ける場合、自社と同業種、あるいは関連業種の企業へ入社させるのが一般的です。また同規模の企業を選ぶと、育成はスムーズになるでしょう。逆に異業種や大企業などへ入社させ「幹部候補としての広い視野や能力を獲得させる」という考え方もあります。
いずれを選ぶかは難しい判断とはなりますが、経営者自身の考えだけでなく、本人の意志も尊重したうえで修業先を決定することが大切です。
また社外で働く場合は、必ずしも幹部候補に抜擢され、ふさわしい教育や経験が得られるとは限りません。「これ以上社外に預けていても、リーダーとしての成長に繋がらない」と判断した場合は、自社教育に切り替えることも必要です。
次世代の幹部候補を育成し、その中から後継者にふさわしい人物を選出していくことは、中小企業の成長と事業継続のために必要なことです。その育成にはそれなりの時間と費用をかけなくてはなりません。また親族とはいえ、意思を持つひとりの人間を幹部候補として育てていくために、経営者自身も細心の注意を払っていくこととなるでしょう。
しかし先述の『2019年版中小企業白書』によると、事業承継の形態別に「事業を引き継ぐ上での苦労」を質問したところ、「特になし」と回答したのが「親族内承継」で33.2%、「役員・従業員承継」で16.8%、「社外への承継」で19.3%でした。子息または子女が「幹部候補として、それなりの適性を持っている」と判断できた場合、親族の繋がりが強固な武器となり得ることを、裏付けるような調査結果と言えそうです。
著者
株式会社ボルテックス 100年企業戦略研究所
1社でも多くの100年企業を創出するために。
ボルテックスのシンクタンク『100年企業戦略研究所』は、長寿企業の事業継続性に関する調査・分析をはじめ、「東京」の強みやその将来性について独自の研究を続けています。