新規事業創出や既存事業の見直しに!「ビジネスモデルキャンバス」の活用の仕方
〜中小企業経営者のための注目の経営トピックス[第21回]
目次
ビジネスモデル可視化のために活用されるフレームワークのひとつ「ビジネスモデルキャンバス」があります。新規事業のビジネスモデルや、既存事業の見直しにあたり必要な要素は何か、そして全体像把握のために役立ちます。
メディアでも注目されている企業経営に関するトピックスを解説する本連載。この記事では、ビジネスモデルキャンバスの概要と活用法について、詳しく解説していきます。
「ビジネスモデルキャンパス」を構成する9つの要素
「ビジネスモデルキャンバス」とは、フレームワークの一種です。
【フレームワークとは】
「枠組み」を意味する単語。ビジネスの場面では案件に付随する情報や要素や構造、そして流れを枠組の中にまとめて明示します。
案件に携わるスタッフは、ビジネスフレームワークを話し合いや進行の中で参照し、指針としていきます。
ビジネスには多くの人たちが関わりますので、明確な指針が提示されていないと、スタッフの判断や行動がぶれてしまう可能性が高まります。
このためビジネスフレームワークは案件のスタート時に作成し、「案件本来の目的やお金の動き」といった重要な情報を記載しなくてはなりません。その構成に必要な9つの要素を、以下に見ていきましょう。
ビジネスフレームワークに必要な9つの要素
▼「ビジネスモデルキャンパス」
1.価値提案(Value Propositions)
案件(商品やサービス)が、どのような価値を持っているのかを記述します。発案の目的がどこにあり、どんな人たちのニーズを満たすのかを、分かりやすく提案します。
2.顧客(Customer Segments)
「どのような人たちに向けて販売するのか」を記述します。また顧客層を属性や利用目的によってセグメント化し、もっとも優良な顧客層を想定していきます。
3.主要活動(Key Activities)
商品の製造やサービスの開発など、案件に必要不可欠な活動を記述します。
4.主要リソース(Key Resource)
商品やサービスを生み出すにあたり、必要な資源を記載します。資金や予算はもちろんですが、設備や人材は重要な要素です。
5.主要パートナー(Key Partners)
リソースを提供してくれる人・企業から、販売に関わる人・企業まで、協業相手として想定される人・企業を、バリューチェーンを参考にしながら列挙します。
6.コスト構造(Cost Structure)
運営に必要なコストを記述します。制作時に把握しているコストは固定費として記載し、実際に動き出さないと分からないコストは変動費として概算を記載します。
7.チャネル(Channels)
商品やサービスの販路、および広報の経路を想定し、記載します。顧客層を意識したうえで想定することが大切です。
8.収益の流れ(Revenue Streams)
収益化のポイントや、流れを記載します。固定価格と割引価格、そして多様化する課金や支払いの種類にどこまで対応するかなど、販売方法や顧客の購買行動を詳細に想定します。
9.顧客との関係(Customer Relationships)
顧客との関係をどのように築くのかを記述します。「深さ」と「長さ」を基準に、関係構築の方法や進展の仕方などを記載します。
類似フレームワークの存在
上記のビジネスモデルキャンバスは、スイス人のビジネス理論家であるアレックス・オスターワルダー氏とイヴ・ピニュール氏によって提唱されました。
非常に有用なフレームワークとして、世界中で活用されていますが、欠点を指摘する声も皆無ではありません。
アメリカの起業家であるエリック・リース氏は、ビジネスモデルキャンバスと類似点のある「リーンキャンパス」を提唱しました。同様に9つの要素を含んでいますが、ビジネスモデルキャンバスの「主要活動」、「主要リソース」、「主要パートナー」、「顧客との関係」が、他の要素と入れ替わっています。
そして代わりに「(顧客が解決すべき)課題」、「課題のソリューション」、「(競合と比べての)圧倒的優位性」、「(成功を数値で測る)主要指標」という要素が含まれています。
▼「リーンキャンパス」
またビジネスモデルキャンバスの提唱者であるふたりのスイス人は「バリュープロポジションキャンバス」というフレームワークも、提唱しています。
こちらはビジネスモデルキャンバスに含まれる「価値提案」、「顧客セグメント」というふたつの要素に特化したフレームワークです。リーンキャンバスが含む「(顧客が解決すべき)課題」、「課題のソリューション」という要素を補完する内容となっています。
「ビジネスモデルキャンバス」を事業計画書に落とし込む方法
ここまで「ビジネスモデルキャンバス」と「リーンキャンバス」を紹介しました。
次に2つのキャンバスを比較してみましょう。
「リーンキャンバス」は商品やサービスの特徴を、より詳細に定義するのに適したフレームワークです。対して「ビジネスモデルキャンバス」には、企業活動に関する要素を多く含むため、案件全体の動きを、より正確にイメージすることが可能です。
近年は、CSRやCSVが企業活動において非常に重要と考えられる時代となりました。このため、「リーンキャンバス」が持つ「顧客に寄り添う姿勢」を尊重する必要は、充分にあります。
▼「ビジネスモデルキャンバス」と「リーンキャンパス」
結論としては以下の方法を参考に、より有用なフレームワークを作成していくのがおすすめです。
- ビジネスモデルキャンバスのフレームワークを活用し、案件の全体像を提示する。
- バリュープロポジションキャンバスを別途作成し、ニーズへの貢献度を明示する。
- 必要に応じ「(競合と比べての)圧倒的優位性」、「(成功を測る)主要指標」を付け加える。
ビジネスモデルキャンバスは非常に有用なフレームワークです。しかし中小企業が実務で採用しようとすると、不足を感じる場面があるかも知れません。
その際は既存の枠組みに囚われず、応用を検討してみる柔軟性も必要です。案件に携わるスタッフにより現実に即した内容を明示し、実務へ役立ててもらうことが、もっとも大切です。
著者
株式会社ボルテックス 100年企業戦略研究所
1社でも多くの100年企業を創出するために。
ボルテックスのシンクタンク『100年企業戦略研究所』は、長寿企業の事業継続性に関する調査・分析をはじめ、「東京」の強みやその将来性について独自の研究を続けています。