『コロナショックと格差拡大』①

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100年企業戦略研究所所長の堀内勉が数多の情報を読み解き、世界経済・日本経済を考察するシリーズです。
今回は『コロナショックと格差拡大』①をお届けします。

前回までの連載でお示ししたように、今回の新型コロナウイルス(COVID-19)の世界的流行は、現代社会が抱える様々な問題を浮き彫りにしました。医療政策から貧富の格差、働き方、都市政策、政治家のリーダーシップのあり方まで、様々な問題が議論されていますが、今回はその中で、不況下での株高と格差問題を取り上げたいと思います。

ご存知のように、現在、世界の株式市場はコロナ前の水準を超え、最高値を更新中です。8月末の全世界の株式市場の時価総額は89兆ドル(9,400兆円)強となり、月末ベースでは2019年12月以来8カ月振りに過去最高を更新しました。

コロナショックで世界経済がリーマンショックを上回る打撃を受ける中での、世界的な超金融緩和を背景にした最高値更新には、一抹の危うさを覚えますが、その中でも際立っているのが、GAFA+Mと言われるGoogle(Alphabet)、Apple、Facebook、Amazon、Microsoftの株価高です。

若い世代の方々は記憶にないと思いますが、1989年(平成元年)12月末の株式市場での世界時価総額ランキング上位10社中、日本企業が7社、米国企業が2社、英国企業が1社を占めていました。その内訳は、1位がNTTの1,638億ドルで、2位 日本興業銀行、3位 住友銀行、4位 富士銀行、5位 第一勧業銀行、6位 IBM、7位 三菱銀行、8位 エクソン、9位 東京電力、10位 ロイヤルダッチシェルと続きます。

日経平均株価は1989年12月29日の大納会で3万8915円を付け、東京都心を中心に地価高騰も凄まじく、東京23区の地価が米国全体の地価の合計を上回ると言われていました。

これに対して、2020年8月末の世界時価総額ランキングでは、上位10社中、米国企業が7社、中国企業が2社、サウジアラビア企業が1社という結果でした。1位がAppleの1.92兆ドルで、その後に、2位 サウジアラムコ、3位 Amazon、4位 Microsoft、5位 Google(Alphabet)、6位 Facebook、7位 アリババ、8位 テンセント、9位 バークシャー、10位 テスラと続いています。

1989年当時は、上位50社中、日本企業が32社を占めていましたが、トヨタが遂に圏外に落ちてしまった現在はゼロになっています。トヨタが年間約1,000万台以上の車を製造・販売しているのに対して、テスラは昨年37万台と、その30分の1しか作っていません。にも関わらず、テスラの方がトヨタよりも時価総額が大きいというのが現実なのです。

更に、日本人にとって衝撃的だったのは、今年5月に、GAFA+Mの5社の時価総額が合計で約5兆3,000億ドル(約560兆円)に達し、東証1部の2,170社の合計(約550兆円)を超えたことです。2016年末時点では東証1部の方が2倍以上大きかったのが、約3年半で東証1部が時価総額を4%程度減らしたのに対し、マイクロソフトの時価総額は2.8倍、アップルも2.1倍にも拡大しています。

これらの5社は、テレワークやインターネット通販などコロナショックで変容した生活様式において、圧倒的な勝ち組になっていて、その勢いは止まることを知りません。

これに続く7月30日、GAFAは、2020年第2四半期(4-6月期)の決算を公表しました。Amazon、Apple、Facebookが好調で、中でもAmazonとAppleはそれぞれ、オンラインコマースとクラウド、リモートワークやオンライン授業といった生活様式への対応で売上を爆発的に伸ばす結果になりました。

Amazonは、アメリカ全体のeコマースの4割を支配していると言われていて、このネットショッピングが好調だったことから、第2四半期の決算は、EPSが予想1.62ドルに対して10.30ドル、売上高が予想812.7億ドルに対して889.1億ドル、売上高成長率が前年同期比+40.2%という内容でした。

Amazonのプライム会員の人数は、世界全体で1億5,000万人を超えており、それが今回のコロナショックを受けて、今年中に2億人に迫る見込みだと発表しました。

これに加えて、ビジネスのデジタル化の進捗を背景に、クラウド事業のAmazon Web Service(AWS)が大きく成長していて、AWSは中小企業が自社クラウドを開発するための重要な基盤となっています。Amazonのクラウドの利益率は、eコマース、食料品販売、広告、ストリーミング配信の利益率を大幅に上回っていて、2018年末以降、AWSがAmazonの売上に占める割合は、11%から13.5%へと上昇しています。

Appleは、在宅勤務でパソコンやタブレットを買い求める消費者が多かったことで、MacとiPadの売上が好調でした。第2四半期決算は、EPSが予想2.07ドルに対して2.58ドル、売上高が予想525.6億ドルに対して596.9億ドル、売上高成長率が前年同期比+10.9%でした。コロナショックで低迷するとみられていたiPhoneの販売の伸びが業績をけん引し、iPhoneの売上高は、前年同期比2%増の264億ドルとなりました。2020年通期では増収増益、2021年通期は2桁増益を予想しています。

Facebookは、コロナショックで外出を控える人が多くなったことから、一時的にユーザー・アクティビティーが増加しました。第2四半期決算は、EPSが予想1.38ドルに対して1.80ドル、売上高が予想173.6億ドルに対して186.9億ドル、売上高成長率が前年同期比+10.7%となりました。

これに対して、Googleの運営会社であるAlphabetは、GAFAの中では最も新型コロナウイルスの悪影響を受けました。Alphabet全体の売上高は、前年同期比2%減の382億9,700万ドル、純利益は30%減の69億5,900万ドルでした。売上高が減収になるのはGoogleが2004年の上場以来、初めてのことです。

以降は連載第2回に続きます。

[参考文献]
日本経済新聞『GAFA+Microsoftの時価総額、東証1部超え 560兆円に』(2020/5/8),
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO58879220Y0A500C2EA2000/

著者

堀内 勉

一般社団法人100年企業戦略研究所 所長

多摩大学大学院経営情報学研究科教授、多摩大学社会的投資研究所所長。 東京大学法学部卒業、ハーバード大学法律大学院修士課程修了、Institute for Strategic Leadership(ISL)修了、東京大学 Executive Management Program(EMP)修了。日本興業銀行、ゴールドマンサックス証券、森ビル・インベストメントマネジメント社長、森ビル取締役専務執行役員CFO、アクアイグニス取締役会長などを歴任。 現在、アジアソサエティ・ジャパンセンター理事・アート委員会共同委員長、川村文化芸術振興財団理事、田村学園理事・評議員、麻布学園評議員、社会変革推進財団評議員、READYFOR財団評議員、立命館大学稲盛経営哲学研究センター「人の資本主義」研究プロジェクト・ステアリングコミッティー委員、上智大学「知のエグゼクティブサロン」プログラムコーディネーター、日本CFO協会主任研究委員 他。 主たる研究テーマはソーシャルファイナンス、企業のサステナビリティ、資本主義。趣味は料理、ワイン、アート鑑賞、工芸品収集と読書。読書のジャンルは経済から哲学・思想、歴史、科学、芸術、料理まで多岐にわたり、プロの書評家でもある。著書に、『コーポレートファイナンス実践講座』(中央経済社)、『ファイナンスの哲学』(ダイヤモンド社)、『資本主義はどこに向かうのか』(日本評論社)、『読書大全 世界のビジネスリーダーが読んでいる経済・哲学・歴史・科学200冊』(日経BP)
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