経営者にとって最良の“右腕”はよく知るあの人かもしれない

※百計オンラインの過去記事（2019/06/30公開）より転載

創業期に苦労はつきものです。経営者一人の力では乗り切れないことも多いでしょう。古くから日本の商家には「番頭」と呼ばれる存在がいて、主人やその後継者の右腕となって店を切り盛りしていました。

パナソニックの松下幸之助氏と高橋荒太郎氏、ソニーの井深大氏と盛田昭夫氏、ホンダの本田宗一郎氏と藤沢武夫氏などは、経営者と軍師となる右腕的パートナーの成功例として知られています。

「最も近しい他人」、配偶者はビジネスパートナーになり得る？

このように、経営者には右腕的な存在が必要ですが、なかなか理想の経営パートナーを探すのは難しいでしょう。時として経営者にとって最良の“右腕”とは、互いをよく知る「あの人」かもしれません。それは、最も近しい他人――配偶者です。

昔はよく「糟糠の妻」「内助の功」などと言ったものですが、女性の社会進出が進むにつれて、人知れず夫を影から支えるだけでなく、対等なパートナーとしてビジネスの才能を発揮させる女性も増えています。

夫婦二人三脚での成功例として知られるのが、一代で「CoCo壱番屋」を日本一のカレーショップチェーンに育てた、宗次德ニ・直美夫妻です。

妻の手作りカレーが世界に羽ばたく飲食チェーンに

宗次德ニ・直美夫妻が知り合ったのは、2人が大和ハウス工業に勤務していた頃です。夫妻は結婚を機にマイホームを建て、不動産業で独立しました。

不動産仲介業だけでも生活が成り立つほどの収入は得られていましたが、汗水垂らして働く仕事ではないことに疑問を感じ、始めたのが喫茶店でした。

名古屋市内で開業した喫茶店「バッカス」は繁盛し、まもなく2号店もオープンします。そこで食事の出前を始めるにあたり、メニューに取り入れたのがカレーライスでした。

妻の直美氏が作るカレーが好評を得たことから、3号店はカレーショップにすることを決めたといいます。そして昭和53年、ついにカレー専門店「CoCo壱番屋」の一号店をオープンしました。

つまり、日本一のカレーチェーンの始まりは、妻の手作りカレーだったのです。いまや「ココイチ」は国内外で1477店体制となっています（2019年2月末現在）。

「結婚してから右肩上がり」ココイチ成長の秘密は妻

ココイチが成長する過程でも、夫の德二氏が出店計画を担当し、妻の直美氏が資金繰りを受け持つという夫婦のコンビネーションが奏功しました。インタビューや講演では、「嫁さんは人間性が豊かで、一緒にいると楽しい」「嫁さんと結婚してから、急激な右肩上がりになった」「壱番屋の成長の秘密は嫁さん」と常に妻に感謝を示しています。

宗次氏がココイチの経営にあたっていた時代、直美氏が外出していると2、3時間おきに電話がかかってくることもあったといいます。「両親の顔を知らない」德二氏は、母親像を妻に重ねているのでは、と直美氏はインタビューで話しています。

德二氏は2002年に53歳で社長引退を決め、直美氏がその後を引き継ぎました。その後、19歳からココイチでたたき上げた浜島俊哉氏に経営をバトンタッチしています。

良い経営は、良い経営者夫婦から

德二氏の持論は「良い経営は、良い経営者夫婦でないとできない」です。その信念は自らのみならず、フランチャイズののれん分けにもつながっています。ココイチは「ブルーミングシステム」という独自のフランチャイズ制度で知られていますが、独立の条件のひとつは「夫婦で店に入ること」だといいます。「生業にこだわってほしい」という願いから、独立を志す人にそう呼びかけているといいます。

独立を志す人の中には、「夫婦で一緒に会社をやるのは止めた方がいい」「夫婦で一緒にやると、上手く行かない」と忠告を受けた経験がある方もいるかもしれません。たしかに、一緒に事業を始めると夫婦の意見が合わずにケンカが絶えなかったり、従業員との関係がうまくいかなかったりというケースもあるでしょう。

ただ、宗次夫妻のように創業期からの苦楽をともにして、大きな成功に導いた例もあります。
経営者にとって最良の“右腕”は、身近にいる配偶者かもしれません。