不動産市場展望~都市に人は集まるのか?

20世紀後半、集積が進んだ都市では、多くの問題が露呈しました。1998年にハーバード大学のエドワード・グレイザー教授は、『都市は死にゆくのか(Are Cities Dying?)』という論文を書き、「都市に産業や人口が集積することで、渋滞が発生し、交通事故や犯罪が増加し、公害が深刻化している。都市を舞台とした社会問題が次々と発生する中で、都市という存在そのものが社会悪となり、死にゆくのか、死にゆくべきなのか」と、社会に問いました。

21世紀に入ると、全世界的に都市への集積が進みました。そのような現象を説明するために、グレイザー教授は、「消費都市理論(Consumer City Theory)」を提唱しています。本来、都市は「生産の意味では有利であり、消費の意味では不利である」と考えられていました。しかし、現在のロンドン、パリ、ニューヨーク、香港、シンガポール、東京といった世界的なスーパースターシティには、多くの人が集まり、そこに集まった人たちで経済成長をけん引しています。都市に集まってきた人たちは、「新しい知識」「アイディア」「技術を生む創造性」を持ち合わせており、そのような要素がドライバーとなって「イノベーション」を誘発させる原動力になってきたのです。

シカゴ大学の社会学者であるテリー・ニコラス・クラーク教授は、「経済成長の最も重要な原動力は、経済学の教科書で解説されている生産要素の土地や資本ではなく、人々の創造的なアイディアである」と、2004年に発表しました。そして、「そのような人材を惹きつけるドライバーは何であるのか」という点に、注目が集まりました。今では、人材を惹きつけるドライバーについて、賃金などの経済的側面よりも、生活の質などの文化的側面へのアクセスを重視する傾向が強いことが分かってきています。人々の生活の質を押し上げるアメニティとは、活気に満ちた音楽やアートのコミュニティ、映画館、レストラン、壮麗な建物、図書館、美術館などです。もちろん、治安や教育の質も重要です。クラーク教授は、「都市とは、エンターテインメント・マシン(The City as an Entertainment Machine)である」と言っていますが、経済が成熟する中で、私たちはますますエンターテインメントを求めるようになってきています。

「コロナショックで、都市への集積が止まるのではないか」と指摘されますが、エンターテインメントの多い都市への集積は進み続けていくと考えることが、やはり自然ではないでしょうか。

著者

日本大学教授・東京大学特任教授清水 千弘
清水千弘

1967年岐阜県大垣市生まれ。東京工業大学大学院理工学研究科博士後期課程中退、東京大学大学院新領域創成科学研究科博士(環境学)。財団法人日本不動産研究所研究員、株式会社リクルート住宅総合研究所主任研究員、麗澤大学経済学部教授、キャノングローバル戦略研究所主席研究員を経て現職。専門は指数理論、ビッグデータ解析、不動産経済学。主な著書に『不動産市場分析』(単著)、『市場分析のための統計学入門』(単著)、『不動産市場の計量経済分析』(共著)、『不動産テック』(編著)、『Property Price Index』(共著)など。 東京大学空間情報科学研究センター不動産情報科学研究部門特任教授、麗澤大学都市不動産科学研究センターセンター長、マサチューセッツ工科大学不動産研究センター研究員、総務省統計委員会専門委員を務める。米国不動産カウンセラー協会メンバー。