不動産市場展望~Living Trust

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米国において、Living Trustという概念が登場しました。Living Trustとは、「人は二度死ぬ」ということを前提とした財産管理の仕組みです。人間は、どうして二度も死ぬのでしょうか。命は一つです。ここでは、「意思能力と認知能力の喪失」を第一の死と考えます。そして、「肉体的かつ法律上の死」が第二の死となります。

ここで重要なのは、第一の死から第二の死までの期間です。この期間は、肉体的にも法律的にも死んでいませんので、相続は発生しません。つまり、相続人は財産を使う権利を持つことはできないのです。そして、自分自身は意思決定能力を喪失しており、意思決定者が誰もいない状態になっています。

そこで登場したのが、財産管理で自分を受益者として委託する「Living Trust」です。高齢化や長寿化という大きなうねりをもって押し寄せる波は、社会に対して多様に、従来にはなかった問題を露呈していきます。

「高齢化社会の到来は、相続件数の増加を通じて、不動産市場に対して供給ショックをもたらす」といわれています。相続後において、一定期間内に売却した場合には税制上のメリットがあるために、半ば投げ売りのような形で住宅が売却されています。高齢化の進展が相続の増加をもたらし、相続の増加が売却量を増加させるという経路を通じて供給ショックを与え、さらに投げ売りが行われることで住宅価格の暴落につながる構造が指摘されています。

ここに高齢化社会の中で追加される問題が、第一の死から第二の死に至るまでの時間の長期化です。この問題は、介護問題として注目されてきましたが、その裏に隠れているのは、空き家予備軍が増えているという構図です。空き家は、自然に増加してきたものではなく、人為的に生み出されてきたものと考えるべきです。

高齢化または長寿化が進む中で、私たちは、社会システムの設計を、人間の死は一度であるという前提から、二度という前提に変えていけば、空き家の増加を一定程度抑えることができます。そのように前提を変えると、描くべく社会システムは変化していくはずです。

例えば、日本版Living Trustを創設していくことは極めて重要です。私たちの財産の中でとりわけ大きなウェイトを占める住宅が、未来の空き家予備軍となってしまっていることを変えていかなければなりません。

また、所有者は、自分の死後の住宅にまで責任を持つべきであるといってもよいでしょう。一度目の死を迎える前に、自分の家を売却して、その利益を別の投資資産に組み替えておくということも選択肢の一つです。超高齢社会を迎える中で、私たちは今まで遭遇してこなかったような事態に対する意思決定が求められるようになります。

著者

清水 千弘

一橋大学教授・麗澤大学学長補佐(特任教授)

1967年岐阜県大垣市生まれ。東京工業大学大学院理工学研究科博士後期課程中退、東京大学大学院新領域創成科学研究科博士(環境学)。麗澤大学教授、日本大学教授、東京大学特任教授を経て現職。また、財団法人日本不動産研究所研究員、株式会社リクルート住宅総合研究所主任研究員、キャノングローバル戦略研究所主席研究員、金融庁金融研究センター特別研究官などの研究機関にも従事。専門は指数理論、ビッグデータ解析、不動産経済学。主な著書に『不動産市場分析』(単著)、『市場分析のための統計学入門』(単著)、『不動産市場の計量経済分析』(共著)、『不動産テック』(編著)、『Property Price Index』(共著)など。 マサチューセッツ工科大学不動産研究センター研究員、総務省統計委員会臨時委員を務める。米国不動産カウンセラー協会メンバー。

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