都市政策の第一人者であり、明治大学名誉教授の市川 宏雄氏が執筆したコラムを定期的に掲載していきます。日本国内における「東京」の位置づけと役割、世界の主要都市との比較など、さまざまな角度から東京の魅力を発信していきます。
結局、どこを軸として開発を進めるかということです。全国総合開発計画(全総)の東京・名古屋・大阪の「太平洋ベルト地帯」は、第五次の「21世紀の国土のグランドデザイン」で福岡まで伸び、「西日本国土軸」と名称が変わりました。現在の日本のチカラは、ここで保たれています。「西日本国土軸」上の人口は、1960年は総人口の62%、2012年には72%です。では、8割に達するのか。この点で大きな影響をあたえるのが、2027年に名古屋まで開業予定のリニア中央新幹線です。これが何をもたらすかです。
名古屋にはストロー効果は起きない
リニア新幹線が開業すると、東京と名古屋の都市圏が一体化します。それぞれの人口を合計するとおよそ5000万人の都市圏が誕生する。これが一つのポイントです。
東京と名古屋が一体化すると、ストロー効果で名古屋が衰退すると言われています。かつての大阪がそうだったからです。私の結論は簡単で、ストロー効果はほぼ起きない。なぜかというと、産業の組成が全く違います。東京が強いのは商業とサービス業、名古屋が強いのは製造業です。お互いに補完し合い、WinWinの関係にありますので、東京から名古屋を吸うものは特にありません。ですので、大阪が衰退したようなストロー効果は起きないと考えています。
集積と集中をベースとしたブロックの考え方
現在、東京の経済圏は東北を含み、そのヘッドクォーターは仙台です。リニア新幹線が9年後に開通すると名古屋が組み込まれ、東北から中部までが東京の経済圏に入ってきます。このエリアが、日本経済を牽引(けんいん)すればいいのです。このエリアの経済力はどの程度かというと、現在でも東北・首都圏・中部で国全体の総生産額の約64%を占めています。リニア新幹線が開通すれば、これは間違いなく75%程度まで増加するはずです。
ですから、東北・東京・名古屋、この経済圏で日本経済を引っ張って行くことは間違いありません。
リニア開通で、大阪の衰退が懸念される
国は一度掲げた政策は下ろしません。下図は2050年の国土のグランドデザインと題されていますが、考え方を示したもので、現実の国土がどうなるかはよく分かりません。実物空間と知識・情報空間があり、東京・名古屋・大阪が核となっていて、地方都市と連携しています。国土全体があまねく発展していくというのであれば、過去の全総と何も変わっていません。国土開発に関して、お話してきたようなメリハリがついていません。しかし、これは仕方がないことで、日本全体の「均衡ある発展」を示さざるを得ない国の立場としては、私が指摘するようなことは言えないのです。
対流促進型国土(国土のグランドデザイン2050)
リニア中央新幹線についても、国は開通すれば「世界最大のメガリージョン」が誕生すると言っています。東京と名古屋についてはその通りですが、大阪まではすぐにはつながりません。ですから、大阪はただ待っていたのでは衰退していくのではないかということが実は懸念されます。このことに、現状でどうすればいいかの積極的な提案は、地元からも政府からも未だ出てきてはいません。以上のようなことを理解した上で、今後どのように事業を展開していくかを考える。それが最も大切なことなのではないでしょうか。
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