「見えない価値」が次の時代を切り拓く ――
「メイド・ウィズ・ジャパン」で持続可能な世界を

今、資本主義が大きな曲がり角を迎え、「グレート・リセット」(社会と経済の仕組みを見直し刷新すること)の必要性が提唱されています。不確定な未来をどう見通せばよいのか。新しい時代に大切になることは何か。明治維新という「グレート・リセット」のただ中で近代日本の基盤をつくった渋沢栄一の玄孫であり、コモンズ投信会長の渋澤健氏に、これからの日本について語っていただきました。

 

企業の「見えない価値」を見る

2008年にコモンズ投信という会社を創業しました。日々の株価の変動に一喜一憂するのではなく、家計の金融資産を長期的に増やせるようなファンドをつくりたいという思いからでした。リーマンショック、東日本大震災、新型コロナパンデミックと、近年、世界を揺り動かす出来事が相次いでいます。企業を取り巻く世界情勢や経営環境は年々変化が激しくなっています。そのような中でも、変化の波を乗り越えて長期的な価値を創造し続けている企業があります。私たちは30年目線で世代を超えた投資を実現し、生活者と優良な企業をつなげることで次の時代をつくることを目指しています。

渋沢栄一は「一滴の水も集めれば大河になる」との考え方のもと、銀行を設立し日本の民間経済の礎を築きました。一人ひとりの力は小さいものであっても、よりよい未来を信じる力を合わせて一緒に育んでいけば、次の時代を切り拓いてゆける。多くの方にその機会を提供したいと考えたのです。

では、30年という長期スパンで投資すべき会社とは、どんな会社でしょうか。私たちは、➀収益力、②競争力、③経営力、④対話力、⑤企業文化、という5つの要素から投資判断を行っています。

➀収益力は、財務的な価値に優れ、長期的な成長や安定が目に見える数字として可視化できる指標です。

②競争力は、独自の技術やサービスを開発し、市場の開拓にも取り組んでいること。また、自社の強さを支えるビジネスモデルを磨き続けていることです。

③経営力は、経営トップが長期的な企業価値向上に対して高い意識を持っていること。そして、それを支える持続的な経営体制が構築できていることです。

④対話力は、顧客、従業員、取引先、株主、社会などステークホルダーとの対話姿勢を重視し、対話を通しての持続的な価値創造に取り組んでいることです。

⑤企業文化は、理念や価値観が組織内で共有・浸透しており、それが具体的な活動や行動に結びついていることです。
 
➀の収益力は数字に表れる「見える価値」ですが、下に行くほど数値化しにくい「見えない価値」になります。数値が優れているのはよいことですが、それは過去の状態が可視化されたものにすぎません。この先10年、20年、30年はどうなるのか。それを見通すためには、可視化できない未来に対する指標を持つ必要があるのです。                            

では、企業の見えない価値とは何によって生まれるのでしょうか。それは「人」です。未来の価値を生み出す力は「人」以外にありません。5つの指標を高めるためにも、「人」という企業の財産をどう生かすかが、今後ますます重要になってくると考えられます。

30年周期で盛衰を繰り返す日本

不確実性が高まる時代に、私たちはこの先の未来をどう考えたらよいのでしょうか。

一つ言えることは、未来とは現在から一直線の延長線上にあるものではない、ということです。

未来を見るためのヒントは、歴史の中にあります。アメリカの作家マーク・トウェインは、「歴史は繰り返さない。しかし、韻を踏む」と言います。私はリズム感と解釈しています。つまり、周期性のことです。

では、日本の近代史を振り返ってみたとき、そこにどんな周期性があるでしょうか。非常に大雑把な区切り方ですが、明治維新以降、日本はおよそ30年周期で「破壊」と「繁栄」を繰り返していることがわかります。

今から約150年前の明治維新は、およそ270年間続いた江戸幕府が倒れ、それまでの常識がひっくり返った時代でした。いわば「破壊」の時代です。「グレート・リセット」の中で、今日の日本社会につながる経済の基盤が整えられました。渋沢栄一が活躍したのはまさにこの時代です。

次の30年は日露戦争(1904)や大正デモクラシーといった時代で、後進国だった日本が世界の先進国に追いついていく流れの中にありました。一般市民も当時の日本の歴史において最も豊かな暮らしができていました。つまり「繁栄」の時代ととらえていいでしょう。

しかし、次の30年間はまたしても「破壊」、戦争の時代です。第二次世界大戦によって多くの命が奪われ、国土は焼け野原となりました。

その後、日本は戦後復興から高度経済成長期を迎え、1990年代のバブル崩壊まで、「繁栄」期を迎えます。「ジャパン・アズ・ナンバーワン」などともてはやされたのも、この頃です。

そして、バブル崩壊後は「失われた10年」と言われ、それが20年、30年続いているとも言われています。

そういう意味で、2020年は日本、そして世界にとっても、エポックメーキング(*)な年になりました。2020年の前と後とでは、社会のあり方、人々の働き方や暮らし方が大きく変わり、これから先はまったく違う世の中になる可能性があります。

破壊の後には繁栄が来る。この周期性を考えれば、これから創造の30年が始まるとしてもおかしくはないはずです。

*その出現の前と後で、社会的に大きな違いが生まれること。

「メイド・ウィズ・ジャパン」の未来へ

じつは2020年、日本の社会構造は大きく変わりました。そしてその30年前、昭和から平成でも大きな変化がありました。

それは日本の人口動態です。昭和の時代の人口動態は「ピラミッド型」でした。世界の大量消費を支えるものづくりで「メイド・イン・ジャパン」のブランドを確立しました。そして、あまりにも成功しすぎたためにアメリカから激しいバッシングを受けます。

平成時代に入ると、人口動態は「ひょうたん型」に移行します。生産拠点を海外に移し「メイド・バイ・ジャパン」に方向転換しました。バッシングが「パッシング(=ジャパン・パッシング)」に変わり、国内経済が低迷した時代です。

令和の日本は「逆ピラミッド型」の人口動態です。この時代の主役は、ミレニアル世代、Z世代と呼ばれる10代~30代です。2050年には彼らは40代~60代になって、社会の中心にいます。間違いなく、これからの30年を担う人たちです。

彼らの特長は「デジタル・ネイティブ」です。インターネットの普及により、日本にいながら、彼らにはつねに世界とつながっているという感覚があります。

日本の人口動態だけを見れば、超高齢社会で未来に希望がないように思えるかもしれません。しかし、世界全体を見渡せば先細りの姿ではありません。とくに新興国には若い世代が多いのです。

そこから期待されるモデルが「メイド・ウィズ・ジャパン」です。

SDGsなど、いま世界が直面している課題は一国だけでは解決できません。世界とつながった彼らが、世界に呼びかけて持続可能な社会を共に築いてゆく。100年企業の経営戦略――そのキーワードの一つが「ウィズ(共に)」です。過去の成功体験からまったく自由な新しい世代が、これから新しい常識の中で未来の価値を創造していくと私は信じています。

お話しを聞いた方

シブサワ・アンド・カンパニー株式会社 代表取締役/コモンズ投信株式会社 取締役会長・創業者
渋澤 健
渋澤氏

1961年、神奈川県生まれ。87年にUCLAでMBA取得。JPモルガン、ゴールドマン・サックス等を経て、米ヘッジファンド、ムーア・キャピタル・マネジメントの日本代表に就任。2001年に独立し、同年シブサワ・アンド・カンパニー株式会社を創業。2007年コモンズ株式会社を設立し、代表取締役に就任(2008年コモンズ投信へ改名し、会長に就任)。経済同友会幹事、UNDP(国連開発計画)SDG Impact Steering Committee Group 委員、金融庁サステナブルファイナンス有識者会議委員などを務める。『渋沢栄一 100の訓言』、『渋沢栄一 愛と勇気と資本主義』、『人生100年時代のらくちん投資』(以上、日本経済新聞出版)、『SDGs投資 資産運用しながら社会貢献』(朝日新聞出版)、『33歳の決断で有名企業500社を育てた渋沢栄一の折れない心をつくる 33の教え』(東洋経済新報社)、『超約版 論語と算盤」(ウェッジ)など著書多数。