長寿企業の秘訣は「三方よし」。社会や地域への貢献活動と企業存続の関係
〜中小企業経営者のための注目の経営トピックス[第18回]

長い命脈を保つ企業の多くは、“買い手よし・売り手よし・世間よし”の「三方よし」という考え方を大切にしています。自社や顧客の利益を追求するだけでなく、様々なアプローチで社会や地域に貢献しているのです。

メディアでも注目されている企業経営に関するトピックスを解説する本連載。今回は、「世間よし」のための貢献活動が企業の存続とどう関係しているのか、事例を交えながら紹介していきます。

「三方よし」の考え方とは

「三方よし」という考え方をご存じでしょうか。大阪商人、伊勢商人と並ぶ日本三大商人の一角・近江商人(現在の滋賀県にあたる近江国出身の商人)の経営哲学を表した言葉で、「売り手によし、買い手によし、世間によし」の三方を満たす商売こそ、理想であるという意味が込められています。

国内を代表する総合商社の1つ、伊藤忠商事の創業者・伊藤忠兵衛氏も「三方よし」の理念を大切にしていました。同氏は「商売道は、売り買いのいずれにも益があり、さらに世の不足をうずめ、御仏の心に叶うものであってこそ尊い」という趣旨の言葉を遺しています。

また近年は、企業活動に伴う環境破壊が地球全体に与える深刻なダメージについて、活発な議論が交わされるようになりました。各国が政治問題として取り上げるのはもちろん、国境を越えた話し合いの場でも重要トピックとして議題に挙がり、具体的な改善目標が掲げられるようになっています。

日本に古くから存在する「三方よし」の経営哲学は、上記のような社会問題解決の指針ともなり得る普遍性を湛えています。中小企業の経営者も、ぜひ理解を深めていきたいところです。

社会/地域貢献活動と企業存続との関係

「三方よし」には、現代社会の中で企業が存続していくために欠かせない、以下の2つの言葉にも通じる精神があります。

■CSR(Corporate Social Responsibility)…
「企業の社会的責任」を意味する言葉です。企業が社会の中で業務を営む以上、顧客や従業員、株主や投資家といったステークホルダーはもちろん、法律や道徳、そして環境配慮など幅広い対象に対し、適切な意思決定を行う責任があることを意味しています。

■CSV(Creating Shared Value)…
「共有価値の創造」を意味する言葉。自社の強みを用い、社会的課題の解決を目指す考え方を指しています。社会貢献と自社の収益を結び付けた事業や起業も、この言葉の中に含まれます。

CSRは「ビジネスの基盤を方向付ける考え方」で、CSVは「社会問題解決と自社の利益追求の両立を目指す考え方」であると言えます。CSVの方が、日々の企業活動へより具体的に関わる考え方となってきますが、CSRという基盤なしに「三方よし」の企業活動はありえませんので、いずれも重要ということになります。

戦後に高度経済成長期を迎えた日本では「三方よし」の経営哲学よりも、企業の利潤追求が優先されるようになりました。結果として日本は経済大国の仲間入りを果たしたものの、その過程で公害病や過労死などの社会問題が表面化しています。また近年は温暖化の原因となる企業活動が世界的に問題視されているほか、国内は少子高齢化社会に突入し、深刻な労働力不足に直面し始めています。

こうした社会の中では、自社の利益だけを追求する企業に、厳しい視線が向けられるようになります。いくら商品やサービスの売上が好調な大企業でも、CSRやCSVの欠如が露見すれば、一気に株主の信頼を失い、利用者離れが起きるかも知れません。

まして中小企業の場合は、企業の存続に関わる大ダメージへ発展してしまうでしょう。経営者は「ウチは小さいから、見逃してもらえるだろう」という考えを捨て、「三方よし」の実現を目指さなくてはなりません。一見回り道のように感じられる努力が、今後の社会で企業が存続していくための、重要な要因の1つとなることは明らかなのです。

100年企業による社会/地域貢献活動の事例

それでは以下に、企業の展開する社会/地域貢献活動の事例を見ていきましょう。紹介するのはいずれも、100年以上の歴史を持つ大企業ばかり。その活動の中に、長寿企業の秘訣が隠されているかも知れません。

サステナビリティ促進を目指す資生堂

1872年に創業し、信頼の化粧品メーカーとして定評のある資生堂は、スキンケアブランド「エリクシール」のつめかえ用パッケージ紹介活動を通じ、プラスチックごみの削減を目指す「グローバルサステナビリティキャンペーン」を、2021年4月にスタートさせています。

高い認知率と好感度を誇る「ドラえもん」をキャンペーンキャラクターに迎え、TVCMも放映。今後は日本のみならず、アジアの国・地域全体にキャンペーンを拡大していく予定だそうです。

「エリクシール」の化粧水・乳液つめかえ用パッケージは、約10年前から発売されており、同社のサステナビリティ活動の柱となっています。資生堂は環境負荷低減に向けた取り組みを加速し、2023年には年間約400トンのプラスチック使用量削減を目指すほか、2025年までに、プラスチック製容器包装について100%のサステナブルを目指し、環境への影響を最小限に抑えるとしています。

長い歴史の中で培った「水」についての啓発活動

1804年創業と、国内の酒造業の中でも長い歴史を持っているのが、ミツカン。同社は良質な醸造酢を作るために私設水道を敷設し、廻船で尾張半田から江戸、大阪まで食酢を運ぶなど、水と深く関わってきた歴史があります。そして1999年、東京都中央区に「水の文化センター」を設立。「水」をテーマとした社会貢献活動を開始するに至りました。

同センターでは水に関する企画展や専門家と連携したイベントなどの開催や機関誌・書籍の発行を行い、「人間の生活には欠かせない、水の大切さ」を啓発しています。

多様な人材の働きやすさを整備する任天堂

任天堂も1889年創業と長い歴史を持つ企業であり、同社が築いたネットワークは世界中に広がっています。このため同社は2018年9月に、国連の「ビジネスと人権に関する指導原則」を参考に「任天堂人権方針」を制定しました。一部を抜粋すると、「人種や宗教、出身や社会的身分、性別や年齢、性的指向や障害の有無などによる差別、または差別につながる言動をしない」などの行動規範が掲げられています。

また2019年9月には、すべての事業所を対象に「日々の出退勤時間を各自でコントロールできる制度」や「勤務間インターバル制度」を導入。さらに女性の活躍推進や高齢者の安定雇用にも、積極的に取り組んでいます。こうした任天堂の姿勢からは「人材を大切にすることで、社会に貢献する」というメッセージが伝わってきます。

中小企業の存続にも「三方よし」の視点が不可欠

100年の歴史を持つ大企業の事例を見ていると、CSRやCSVには様々なかたちがあることが分かります。

中小企業が同様の試みを実践するのは、なかなか難しいかも知れません。しかし自社の規模や事業体系、独自性などを鑑みて応用するための、ヒントが隠されているのではないでしょうか。

これからの社会で事業を継続していくためには、自社と顧客だけでなく、社会や地域への貢献が欠かせません。本記事で紹介した大企業の事例も参考に、改めて自社の存在意義に思いを巡らし、「三方よし」の経営を追求していきましょう。

著者

株式会社ボルテックス 100年企業戦略研究所

1社でも多くの100年企業を創出するために。
ボルテックスのシンクタンク『100年企業戦略研究所』は、長寿企業の事業継続性に関する
調査・分析をはじめ、「東京」の強みやその将来性について独自の研究を続けています。

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