コロナ禍の中での住宅価格高騰

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コロナ禍の中、世界中で住宅市場が過熱しています。7月1日付けのブルームバーグの記事「世界の住宅市場が狂乱状態-入札合戦で遺棄された家が豪邸並み価格に」によると、不動産仲介会社ナイト・フランクの調査では、世界の住宅価格上昇率は年間2桁台と、2006年以来の速いペースになっています。

こうした傾向は、米国でも英国でも中国でも同様に見られます。その背景にあるのは、低金利の住宅ローン、新型コロナウイルスの蔓延で自宅滞在時間が長くなったことによるより広いスペースへの欲求、リモートワーカーの大都市から地方への移住といった要因です。

ブルームバーグの記事では、オーストラリアのシドニーの中心部から南へ約7キロの所にある空き家が、台所もトイレも電気もなく、床や壁はむき出しのままというような状態だったにも関わらず、入札合戦の末に470万オーストラリアドル(約4億円)で落札された例や、アメリカのコネティカット州のグリニッチで、155万ドル(約1億7,000万円)で売りに出されたばかりの物件を、内覧の予約ができないまま売り出し価格を上回る額の現金で購入した例などがあげられています。

こうした傾向について、同じくブルームバーグの6月15日付けの記事「世界の不動産価格がバブルに警鐘-最も過熱気味の住宅市場ランキング」は、ニュージーランドとカナダ、スウェーデンが最も過熱気味の市場にランクされ、英国と米国も最上位に近いリスク水準となったとして、2008年金融危機に至る期間より後には見られなかった種類のバブルの警告を発しています。

ブルームバーグ・エコノミクスのエコノミストのニラージ・シャー氏は、「幾つかの要因が世界各地で住宅価格をかつてない水準に押し上げている。記録的な低金利や前例のない財政出動、頭金に充当できる行動制限に伴う貯蓄、限定的な住宅在庫、世界経済の堅調な回復への期待が全て寄与している」と指摘しています。

それでは、日本の状況はどうでしょうか。6月11日・25日付けのダイヤモンド・オンラインの記事「マンション投資の黄金時代は終焉か、「渋々の価格上昇」で薄れる妙味コロナ不況下のマンション価格高騰の謎を解く(前編)」「日本を襲う米国住宅バブル「再来と崩壊」はあるかコロナ不況下のマンション価格高騰の謎を解く(後編)」では、日本でも東京都心部のマンション価格が高騰している状況が伝えられています。

この記事によれば、財政・金融政策を総動員した新型コロナ不況対策で、マンション価格が軟化したのは昨年4月だけで、株価の反騰にともない、現在に至るまで上昇基調をたどっているとしています。コロナ不況下にも関わらず、リーマンショック後の2009年やミニ景気後退期だった2012年のようなマンション価格の下落が起きていない理由として、①財政・金融政策総動員による失業率の抑制と改善、②中古マンション在庫率の低下、③代替・競合資産としての株価の上昇に支えられていることをあげています。

また、海外主要国の住宅価格と東京のマンション価格の動向は、2000年代後半から同調性(高い正の相関関係)が高まっているとしています。東京を中心とした大都市部のマンションは流動性が高く、賃貸に出せば空室リスクも低いため、安定的な投資運用資産として国内の個人・法人投資家ばかりでなく、海外投資家の投資対象にもなりやすいため、世界的な住宅市場の動向との同調性も高まっているのではないかと推測しています。

そして結論として、東京のマンション価格は、現状水準近辺ではバブル的な要素は乏しく、短期的中期的に急落する可能性は低いとしています。今後のアメリカの金融緩和の解除にともない、海外不動産市況の調整局面入りの影響を受けて、東京のマンション価格も軟化する可能性は十分にあるものの、2009年のリーマンショック後や2012年のミニ景気後退時ほどの市況の悪化が起こる可能性は低いと見ています。

【参考文献】
「世界の住宅市場が狂乱状態-入札合戦で遺棄された家が豪邸並み価格に」(2021/7/1), Bloomberg
https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2021-07-01/QVJKUKT0AFB801?srnd=cojp- v2&fbclid=IwAR3oWWpc53nxG-9kzl4V1s8C4d6GXKINAcNH6cbh9NEBoZ9-fh6IJCMkSyM
https://www.bloomberg.com/news/features/2021-07-01/world-s-fastest-property-price-surge-since-financial-crisis-sparks-bidding-wars(いずれも2021/7/3検索)

「世界の不動産価格がバブルに警鐘-最も過熱気味の住宅市場ランキング」(2021/6/15), Bloomberg
https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2021-06-15/QUPXN7T1UM1C01
https://www.bloomberg.com/news/articles/2021-06-15/world-s-most-bubbly-housing-markets-flash-2008-style-warnings (いずれも2021/7/3検索)

「マンション投資の黄金時代は終焉か、「渋々の価格上昇」で薄れる妙味 コロナ不況下のマンション価格高騰の謎を解く(前編)」(2021/6/11),ダイヤモンド・オンライン https://diamond.jp/articles/-/273498(2021/7/3/検索)

「日本を襲う米国住宅バブル「再来と崩壊」はあるか コロナ不況下のマンション価格高騰の謎を解く(後編)」(2021/6/25), ダイヤモンド・オンライン https://diamond.jp/articles/-/274796(2021/7/3検索)

著者

堀内 勉

一般社団法人100年企業戦略研究所 所長

多摩大学大学院経営情報学研究科教授、多摩大学社会的投資研究所所長。 東京大学法学部卒業、ハーバード大学法律大学院修士課程修了、Institute for Strategic Leadership(ISL)修了、東京大学 Executive Management Program(EMP)修了。日本興業銀行、ゴールドマンサックス証券、森ビル・インベストメントマネジメント社長、森ビル取締役専務執行役員CFO、アクアイグニス取締役会長などを歴任。 現在、アジアソサエティ・ジャパンセンター理事・アート委員会共同委員長、川村文化芸術振興財団理事、田村学園理事・評議員、麻布学園評議員、社会変革推進財団評議員、READYFOR財団評議員、立命館大学稲盛経営哲学研究センター「人の資本主義」研究プロジェクト・ステアリングコミッティー委員、上智大学「知のエグゼクティブサロン」プログラムコーディネーター、日本CFO協会主任研究委員 他。 主たる研究テーマはソーシャルファイナンス、企業のサステナビリティ、資本主義。趣味は料理、ワイン、アート鑑賞、工芸品収集と読書。読書のジャンルは経済から哲学・思想、歴史、科学、芸術、料理まで多岐にわたり、プロの書評家でもある。著書に、『コーポレートファイナンス実践講座』(中央経済社)、『ファイナンスの哲学』(ダイヤモンド社)、『資本主義はどこに向かうのか』(日本評論社)、『読書大全 世界のビジネスリーダーが読んでいる経済・哲学・歴史・科学200冊』(日経BP)
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