100年経営のための「破壊」と「痛み」に立ち向かうリーダーの役割とは?

前編では、長らく続いてきた連続的な成長局面が大きく変化し、今後は非連続な変化が立て続けに起こり続けるであろうこと、それらに対応していくために、“事業環境の変化に先回りしながら事業・機能含めて俊敏に新陳代謝をかけていく能力”を備えた会社へのトランスフォーメーション、すなわちコーポレートトランスフォーメーション(CX)を地道にやっていくことが不可避であることを述べた。また、これらのトランスフォーメーションには相当のストレスが組織にかかり、「わかっちゃいるけど止められない」症候群の会社が多いことも述べた。
本編では、それらのストレス、換言すれば抵抗勢力に立ち向かい、CXを進めていくためのリーダーの役割について論じていく。

見たくない現実を見る

かのユリウス・カエサルは、「人は見たい現実しか見ない」と人間の本性を喝破した。企業経営においても、同様の事が必ず起こりうる。例えば事業の収益性が落ちてきている中、中期経営計画を立てるといったようなタイミングだ。中計を立てる上では、市場・競争環境の変化に鑑みながら自社の戦い方を組み立てていくわけだが、この“読み”にどうしても希望的観測が多々入ってしまう。

ある一般消費財メーカーの例だが、彼らの読みは、「コロナ禍はあと半年で終焉しその後緩やかに需要は戻る、コロナ前までとは言わずとも保守的に80%くらいには回復するはずだ」といったものだ。但しその消費財は、コロナによる人々の働き方の変化により大きく影響を受ける分野であり、場合によっては需要そのものが大きく消失する可能性もあるのだが、もし仮にそれらを前提としてしまうと事業の存続自体を問わなければいけないような状況になってしまう訳だ。

この例で言うと需要が大きく消失する、という事をこの段階で証明することは不可能であり、そんなネガティブサイドの不確実性に依拠した経営判断なんて到底できない、というのがマネジメント側の本音である。これは現時点での時間軸の話であり、この結果がどうなるかはまだわからない。

別の事例として3年前、とある会社で「リーマンショック級の市場停滞が起こると、この事業は持ちませんよ。早めに備えておくべきだ」と申し上げたが、経営陣は「そんなことある訳ないじゃない」と鼻で笑い、抜本的な備えを何もしなかった。結果、その後コロナショックが起こり、その事業は筆者が見越した通りの危機に陥った。これらの事例を通してわかることは、とにかく当事者としての思いや情といったものを一切排除し、どれだけ合理的かつ冷徹に事業の経済性を見極められるかが、CXリーダーの役割という事だ。中計策定の際、多くの会社で複数シナリオ(ベスト・中立・ワースト)を構築するが、それでもまだ情を織り込んだワーストシナリオになっているケースが多い。あくまで冷徹な目線でのワーストシナリオを見据え、それに対峙した打ち手を先回りできるかどうかが大事となる。

これを、規模の大きい企業に置き換えると、事業責任者と本社との二階層構造になるから問題はやや複雑になる。事業責任者としては強い現状維持バイアスがかかるため、見たくない現実から目をそらした楽観シナリオを作りたくなる。本社の社長としては、事業責任者によってしっかりと理論武装された楽観シナリオを推定有罪と何となく思いつつも、その熱意に負けて承認してしまうという事が起こる。

本来あるべきは、事業責任者が現実を見据えたワーストシナリオをなるべく早い段階でトップに打ち込むこと、この場合トップから「それはお前の頑張りが足りないからだろ」と押し返される可能性もあるが、ひるまずダメならダメと物申す勇気を持つことだ。一方トップとして、下から上がってきたやや怪しいシナリオに対して、経済合理性をもってダメ出しが出来るかどうか、そのためには自分が詳しくない領域においても、本質的な事業メカニズムについては常に勘を鈍らせないよう常日頃から第一線で戦う感覚を研ぎ澄ましておくことが大事だ。

非情の中の情を知る

複数事業を営むある会社で、収益性が低下している事業部の責任者が、「とにかくこの再生プランを3年でやり切って、必ず黒字化させてみせます」と社長に泣きを入れてきたケースがある。誰だってこれまで一緒に戦ってきた仲間は大切だしそんな簡単に見殺しには出来ない、そう思うのは当たり前だ。この社長は一定の猶予を与えたのだが、前述の通りこうした希望的観測に基づく再生プランが実現する可能性はほぼありえず、実際その事業もその後もっと悲惨な窮地に陥ったことは言うまでもない。

ここでリーダーはあるジレンマに直面する。3年前にその事業を売却すれば「なんでこのタイミングで?」「まだやれる可能性は高いのに」といった恨み節など、多くの敵を作らなければならないという事。一方、3年後に負けが確定した段階では、撤退戦に向かうという事の意思決定自体は抵抗を生まないが、その実行には多くの血を流す必要があるという事、要はかえって多くの人を不幸にしてしまうという事だ。非情とも思える意思決定が情に厚く、情に厚い判断はかえって人を傷つけてしまうというジレンマだ。このように書くと答えは自明なのだが、ことの本質は本当にこの非情な意思決定が正しいタイミングで出来るかどうかで、それはまさに上記の経済合理性を持った冷徹な“読み”が出来るかどうかだ。

2019年10月、オムロンは車載部品事業を日本電産に譲渡した。当時の車載部品事業はオムロンの主力事業の一つで、約1300億円の売上高で60億円を超える営業利益をたたき出していた黒字事業だ。

山田社長の判断は、「事業領域のエンドゲームを考えると、メガサプライヤーかスーパーTier2しか生き残れない。スーパーTier2になるためにも巨額の先行投資が必要。オムロンとしてその投資に耐えられないのなら、スーパーTier2になれる可能性の高い所と組むことがベストな選択だ」(※1)、というものだった。同時に、「思い入れのある事業を売るというのは、断腸の思い」という言葉も残している。

つまり山田社長は、冷徹な“読み”で業界のエンドゲームを見抜き、冷徹とも言える判断を下したことで、その事業を更なる成長局面へと導いたわけだ。今回のテーマである100年経営であるが、筆者はそれを事業単位でのサステナビリティ観点で判断することが重要だと考えている。オムロンのように、場合によっては自分達から出ていった方が、事業としてのサステナビリティが高まるというケースは多々ある。

その時に冷徹、無慈悲と言われようともスパッと決断できるかどうかなのだが、「今のままでは引き取り手がいないので、収益改善してから売却に着手する」「5年かけてソフトランディングしながら事業撤退していく」、こうしたロジックを色々な会社で聞く。果たしてそれが本当に事業のサステナビリティの理にかなっているのか、中途半端な情けをかけていないか、そうした局面ではぜひ自問自答してもらいたい。

視界不良での判断

これまでの連続延長線でなく、非連続な変化が次々起こるであろう未来へ向け、CXリーダーに求められるもう一つ重要な要素が“果敢なチャレンジ”である。リスクというのは将来へ向けて物事が起こりうることの不確実性である。国債の利回りをリスクフリーレートという言い方をするが、これは国が潰れない限り確実に利回りを保証してくれるからそういう言い方をする。連続的な世界観においては、リスク要素は出来るだけ排除して安全に運行していこうという考え方は間違っていない。長らくこうしたスタイルで事業運営を行ってきた多くの日本企業には、リスク回避型のDNAが横たわっている。

人事評価においても基本は減点主義、つまり何かをやって失敗するより今ある事をちゃんとやって失点しない方が偉くなる、という思想だ。これまでに新規事業立案のお手伝いをした際に、「うまく行かなかった場合の責任は誰がとるのか?」や「当社ではそのリスクは取れない」といった守りの発言で、何度もその芽を摘まれてしまった苦い経験がある。筆者は中国法人の董事長も兼務している。現地日系企業の拠点長は、だいたい3~5年周期で交代となるが、送別会の際のご挨拶は「前任を引き継ぎ、大過なく過ごせました」というのが多い。

しかしながら、これからの非連続な世界観においては、全てが不確実性の固まりと言ってよい。その中でその不確実性を全てつぶしてから判断しようとなると、時すでに遅しになるケースがほとんどだ。先ほどオムロンの車載事業の例を述べたが、自動車業界はCASE(※2)と言われる非連続な変化の真っただ中にあり、自分達だけでの生き残りは難しく様々な合従連衡が水面下で進んでいることはご承知の通りである。これを筆者は“霧の中の手つなぎ鬼”と呼んでいる。

将来どのような業界構造になり誰がリーダーになるかは皆目見当がつかない、但し今のまま漫然と進むわけには行かないことに気付いているプレーヤーは、必死になって霧の中で手をつなぐ努力をしている。きっとあと5年もすれば霧は晴れるだろう。しかしその段階で手をつなごうとしても、業界勢力図は出来上がっているはずだ。この例が示す通り、非連続な世界においては、リスクは積極的に取りに行くものであり、その不確実性が高ければ高いほど、将来の果実も大きくなる。ただし気を付けなければならないのは、不確実性があるという事は、多少外してしまうケースもあり得るということだ。

つまり外した場合の柔軟な軌道修正が出来る機動力を保ちながら積極果敢にチャレンジしていくこと、これこそが100年経営を行う上での戦闘能力といっても良い。よく聞く言い訳は、「情報がないから決められない」だ。上記手つなぎ鬼の通り、情報は60~70%揃っている状態で決める事こそ経営判断だ。仮に100%揃った霧が晴れた状態なら、誰でも正解はわかるが、それでは時すでに遅し、勝負は決しているのである。

以上、これからの100年経営に求められるリーダーとしての要諦を述べたが、戦後経済成長が連続的に続いていた時代とこれからの非連続な変化が次々と起こる100年、リーダーとしての能力は180度と言っていいほど違うものになってくる。100年経営を実践する上では、今のリーダーの能力だけでなく、未来にわたってこうした強いリーダーを作り世代継承していく組織能力も求められる。これまで連綿と続いてきた企業であればコーポレートトランスフォーメーションに直ちに着手して組織能力をアップデートすること、これから100年企業を目指すスタートアップであれば令和時代のOSとしてこうした組織能力をビルトインしていくことが肝要であろう。2122年、多くの100年企業が存続し、100年の軌跡の中で多くの社会変革を起こしてくれることを、心より期待している。

※1 ダイヤモンドオンライン
『オムロンはなぜ、営業利益60億円の車載部品事業を手放したのか』
(2021/4/1、https://diamond.jp/articles/-/266108

※2 CASE(Connected:コネクテッド、Autonomous:自動運転、Shared & Service:シェアリング・サービス、Electric:電動化)

著者

木村 尚敬氏 経営共創基盤(IGPI)共同経営者マネージングディレクター

慶應義塾大学経済学部卒、レスター大学経営大学院修士課程(MBA)、ランカスター大学経営大学院修士課程(MSc in Finance)、ハーバードビジネススクール修士課程(AMP)修了。ベンチャー企業を創業し経営に携わった後、日本NCR、タワーズペリン、ADLにおいて事業戦略策定や経営管理体制の構築等の案件に従事。IGPI参画後は、全社経営改革(事業再編・中長期戦略・経営管理体制整備・財務戦略等)や事業強化(成長戦略・新規事業開発・M&A等)など、様々なステージにおける戦略策定と実行支援を推進。IGPI上海董事長兼総経理、モルテン社外取締役、りらいあコミュニケーションズ社外取締役、グロービス経営大学院教授も務める。著書に『ダークサイド・スキル』(日本経済新聞出版)、近著に『修羅場のケーススタディ 令和を生き抜く中間管理職のための30問』 (PHPビジネス新書) がある。

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