不確実な未来に負けない生き残り戦略
〜多様な視点を集めて企業価値を高めよ〜

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ジェンダー後進国の日本。賃金をとっても管理職比率を見てもジェンダーギャップは著しく、遅々として改善は進んでいません。ジェンダー不平等がなぜ放置されているのか、なぜ企業はジェンダー平等を追求する必要があるのか。女性役員比率の向上を目指す「30% Club Japan」の創設者であり、Think Impacts代表取締役の只松観智子さんにお聞きしました。

中から変わる力と外圧の弱さが日本のジェンダー平等を妨げている

世界経済フォーラム(WEF)が毎年発表している「世界ジェンダー・ギャップ報告書」によれば、2022年の日本の順位は116位。前年の120位から4つ順位を上げたものの、過去ワースト3の順位にとどまりました。
男女間の賃金格差も芳しくありません。2022年のOECD(経済協力開発機構)の統計によると、男女間格差の平均が11.7%に対し、日本は22.1%でG7(主要7カ国)の中で最下位です。女性管理職比率もILO(国際労働機関)の2019年調査では先進7カ国中、最下位の14.7%。世界でも167位と極めて低い数字です。女性役員比率はどうでしょうか。東京商工リサーチの2021年度調査では上場企業で9%に過ぎません。ジェンダー平等に関する日本の統計にはおそまつな数字が並んでいます。

成長率の低さも看過できない深刻な問題です。Think Impactsの只松観智子氏はこう言います。

「厚生労働省の発表する2021年度の女性管理職割合は、部長相当職では前年の8.4%から7.8%に、課長相当職では10.8%から10.7%に低下しています。増えるのではなく、減っているんですね。これは女性管理職に向けてのパイプラインが脆弱で、しかも強化されていないということの表れ。海外と比較しての大きな問題点です」

問題点が指摘されながらも依然として改革が進まず、他の先進国と比較すると大幅に遅れを取っている日本。その理由はどこにあるのでしょうか。只松氏は2つの要因を挙げます。

「一つは、中から変わる力が弱いこと。多様な視点が意思決定に反映されていなければ正しい経営判断はできづらい。もう一つは外圧の弱さです。政策や制度といった外からの力が日本ではあまり機能していません。たとえば、ロンドン市場では『取締役の40%以上を女性にする』といったルールが設定されていますが、2022年に日本にオープンしたプライム市場では女性の役員比率は上場の条件として設けられませんでした。これは非常に残念な判断と言わざるをえません。踏み込んだルールが十分ではない。それが日本の現状です」

女活法の改正は日本にとって大きな前進

外圧の一つとしては、組織における女性比率を一定数指定する「クオータ制」の導入も考えられます。すでにノルウェーやスペイン、オランダなどの国では取締役会におけるクオータ制を導入していますが、現状を踏まえると民間の企業にクオータ制を導入することは現実的ではないと只松氏は語ります。

「ただし、政治の分野においては導入すべきだと考えています。国民の半分は女性ですから、女性の割合が反映されてしかるべきです。企業の場合の最大の外圧は投資家です。また、取引先や従業員、地域の住民、アクティビストなども外圧として機能しますが、政治にはそうした外圧をかけづらいですから、クオータ制を導入したほうがいいでしょう。それが間接的に企業に波及効果をもたらすと思います」

中から変わる力と外圧の弱さ。遅々として進まないジェンダー平等。しかし、日本にも変化の兆しが見えています。

2022年7月、女性の職業生活における活躍の推進に関する法律(以下、女活法)が改正され、男女間の賃金差の情報開示が企業に義務づけられました。

「罰則規定こそありませんが、開示内容は国際的な標準に準拠しています。海外の投資家も見られるようになり、グローバル企業とApple-to-Apple(同一条件)で比較することも可能になりました。投資家にとっては、環境対策同様、ジェンダー平等やダイバーシティへの取り組みは非常に有効な情報です。私は女活法改正の政策提言に携わってきましたが、当初は5年くらいかかるかもしれないと予想していたんですよ。ところが思いのほか早く実現に至った。これは日本にとっては本当に大きな一歩です」

女活法の改正で日本はようやくスタートラインに立ったといえるのかもしれません。スピーディーな前進が期待されます。

トップの意思が浸透しやすい中小企業の利点を生かせ

女活法が男女間の賃金差の開示を義務づけているのは、常時雇用する労働者が301人以上の事業主です。しかし、それよりも小さな規模の企業が「枠の外」に置かれているわけではありません。欧米諸国では取引先に対する情報開示を求める動きが顕著だからです。只松氏は言います。

「男女間の賃金格差は差別構造そのもの。人権に関わる問題です。EUなど人権に関する法制化が驚異的なスピードで進んでいる今、今後は企業の規模に関わらず、人権という文脈で取引先から対応を求められ、賃金格差の情報開示も求められるようになるはずです。そうなれば国内の取引先企業に対しても数字を確認する動きが予想されます。賃金格差の改善は容易ではないと思いますが、自分たちは関係ないと考えず、積極的に男女間賃金格差の解消に取り組んでほしいと思います。どうしてもフットワークが重くなる大企業と比べて、中小企業はトップの一存ですぐに状況を変えることも可能ですから、改革は行いやすいのではないでしょうか」

海外企業との取引がないという企業はあっても、国内の大企業と一切の関連がないという中小企業は少数でしょう。意思決定が早く、トップの考えがすぐに組織に浸透し、具体的な動きにつながりやすいのは中小企業の大いなる利点です。その利点を生かさない選択肢はありません。

「何よりもそれがイノベーションを生む源泉となり、企業の差別化につながるのです。男女間賃金格差は企業の中に横たわっているさまざまなジェンダー格差を可視化しています。ジェンダー格差を埋め、多様性を実現することは目的ではなく、不確実な世の中を生き抜くための手段です」

男性向けの商品しか扱っていない、男性がターゲットの市場でビジネスをしている、そんな企業であってもジェンダー平等の追求は必須だと只松氏は指摘します。その背景にあるのはバリューチェーンという考え方の台頭です。製品やサービスの販売、物流、それを支える開発や労務管理などのバックオフィス機能まで、すべての企業活動を価値の連鎖として捉えるバリューチェーンにおいても人権・ジェンダーの視点を持つことが重視されるようになりました。

「バリューチェーンには必ず女性の視点が介在しています。ジェンダー平等は、さまざまな経営課題に多様な視点を備え、イノベーションを創出し、企業価値を高めていくための戦略だと考えてください」

積極果敢に賃金格差の是正に努め、女性がキャリアを築くことのできる環境を整えること。これこそが中小企業の生き残りの決め手であり、命綱なのです。

「これから鍵になるのは『集合知』。つまり企業など集合体としてのインテリジェンスです。これを高めることで正しい経営判断ができるようになります。目的と手段を履き違えることなく、イノベーションを生み出すための合理的な判断として多様な視点を備え、企業価値の向上を追求してほしいと思います」

お話を聞いた方

只松 観智子 氏(ただまつ みちこ)

株式会社Think Impacts 代表取締役/CEO

内閣府男女共同参画推進連携会議 有識者議員。カリフォルニア州立大学モントレー校卒。外資系金融機関、外資系コンサルティングファームを経てThink Impactsを設立。経営戦略、コーポレートガバナンス、オペレーション改革、M&A等に関する豊富なコンサルティング経験を持つ。2018年より社会課題の解決に向けたコンサルティングを提供。ジェンダー問題では、2019年に企業の取締役会の多様性促進を目的とした30% Club Japanを創設。新聞・雑誌等の記事掲載や講演多数。

[編集] 一般社団法人100年企業戦略研究所
[企画・制作協力]東洋経済新報社ブランドスタジオ

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