都市と五輪-第9回 2020年東京での外的危機要因①

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都市政策の第一人者であり、明治大学名誉教授の市川 宏雄氏が執筆したコラムを定期的に掲載していきます。日本国内における「東京」の位置づけと役割、世界の主要都市との比較など、さまざまな角度から東京の魅力を発信していきます。
「都市と五輪」をコラム全体のメインテーマとしてとらえ、各回にてサブテーマを設定しています。全10回にわたりお届けします。

さて、オリンピックがあと半年後に行われたらどうなるかってことについて、世間ではさまざまなことが言われています。すでに公安関係、セキュリティ関係は多くのことを始めていて、すでに羽田空港では顔認証が始まっています。私たちのチェックは顔だけで行われているはずで、各種ブラックリストも作成されていて、危険な人物をチェックする作業に入っています。

そうした意味では、オリンピックに向けていろいろなことがあり、問題は入国審査だけではありません。まず開催時期が8月で、年間で最も暑い時です。前回の東京五輪の開催日は10月10日だったわけですが、今回はなぜ8月の第1週から始まるのか。これは有名な話ですが、アメリカのテレビ局の都合です。

野球とアメフトの間で、時間も向こうの時間に合わせていますから、東京にとって最悪な時期にオリンピックが行われます。この時期は、まず「台風」が非常に多い時です。最近特に悪化していますが、これから世紀末に向かって地球の気象現象はさらに悪化していくと言われています。台風が増えていくことが懸念されていて、特に洪水系、ゲリラ豪雨が増えてきます。オリンピックは半年後ですが、気象災害の発生する可能性は高いので、開催種目のいくつかは中止になる可能性があるかもしれません。

2つ目ですが「地震」です。これについて私たちは常に懸念していますが、いつ起こってもおかしくないと言われているわけで、いや明日起こるかもしれませんし、一番困るのがオリンピックの開催時に起こったらどうなるのかということです。地震被害では相当なことが起きることが予想されるわけですが、これは本当に神頼みですから何もすることはできません。

それから3つ目。これは最新のテーマで、特に今年は暑かったですが、「熱暑対策」をどうするのかということです。ところでサマータイムをやろうという話がありますが、別にサマータイムをやらなくても競技を早く始めれば良いわけですから、少し外れたことを言っていると感じますが、熱暑対策は必要不可欠です。

熱暑というのは私たちが知っておくべき重要なテーマで、私が子供の頃、私は東京生まれですが、東京はもっと過ごし易く、ここまで暑くはありませんでした。これは要するに地球全体が暑くなってきていて、ヨーロッパではすごい熱波が発生していますが、いま日本も含めてとにかく暑いわけです。だからこそ“危ない”のです。

危ないということがまだあまり認識されず、いまだに子供に炎天下で頑張れとか言っている、一言でいえばいわば知識のない人々が大勢います。この危険な気象条件のなかでオリンピックを行うということを、もっと真剣に認識すべきです。このことは最近海外で評判になっていて、イギリスなどでも“東京は大丈夫か”、“東京はどうなるか分からない”などと不安視されています。現にマラソンと競歩を札幌開催にするとの案も浮上しました。また、熱中症だけでなく、当然食中毒などの可能性もあり、これに付随していろいろなことが起こり得ます。これだけでもかなり悩ましいわけです。

そして4つ目ですが、最近はあまり言われませんが、夏の甲子園が始まるこの暑い時期には、東京電力はじめ各電力会社は電力が足りなくということで節電を呼び掛けていました。2018年は全く騒ぎになりませんでしたが、この話は生きていて「電力」を確保しなければなりません。実際に関西電力などは、中部電力から電力をもらったりしているわけです。東京電力にはさまざまなネットワークがあるので大丈夫かと思われますが、やはりオリンピック開催時はテレビを見るでしょうから、電力確保の問題は根本的には解決していません。そうした意味では、4つすべての発生可能性があるわけで、かなり悩ましいということが分かっています。

またさらに、海外からやってくる危ないモノが「新感染症」です。ただこれは幸か不幸か、真夏にオリンピックが開催されるため、発生する可能性は低いと言えます。だから⑤はそれほど心配する必要はないかもしれません。

あと2つあって、まずは「テロ」です。オリンピック開催時に何らかのテロが起きる可能性はほぼ必ずあって、全くなかったというケースは皆無です。どの規模で、何が起きるかは全く分かりませんが、テロは大変なレベルで要警戒でしょう。

それから「火山」は地震と同じ自然災害に属する非常に悩ましいテーマですが、だいたい火山は事前に予兆がありますから分かりますが、今言われているのは富士山の噴火が時間の問題と言われていて、宝永の大噴火のときには東京にも、いや江戸にも灰が降りました。厚いところで10cm位降ったと言われています。

いま東京で10cm降られると、自動車交通とかさまざまなものがほぼ全部アウトです。今でもちょっと雨が降ると新幹線が止まり、あっという間に交通網は機能不全に陥ります。ですからこの火山の問題も、今のところ緊急を要することは起きていませんが、起こり得るということを念頭に置いた方が良いわけです。

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著者

市川 宏雄いちかわ ひろお

明治大学名誉教授
帝京大学特任教授
一般社団法人 大都市政策研究機構・理事長
特定非営利活動法人 日本危機管理士機構・理事長

東京の本郷に1947年に生まれ育つ。都立小石川高校、早稲田大学理工学部建築学科、同大学院修士課程、博士課程(都市計画)を経て、カナダ政府留学生として、カナダ都市計画の権威であるウォータールー大学大学院博士課程(都市地域計画)を修了(Ph.D.)。一級建築士でもある。
ODAのシンクタンク(財)国際開発センターなどを経て、富士総合研究所(現、みずほリサーチ&テクノロジー)主席研究員の後、1997年に明治大学政治経済学部教授(都市政策)。都市工学出身でありながら、政治学科で都市政策の講座を担当するという、日本では数少ない学際分野の実践者。2004年から明治大学公共政策大学院ガバナンス研究科長、ならびにこの間に明治大学専門職大学院長、明治大学危機管理研究センター所長を歴任。
現在は、日本危機管理防災学会・会長、日本テレワーク学会・会長、大都市政策研究機構・理事長、日本危機管理士機構・理事長、森記念財団都市戦略研究所・業務理事、町田市・未来づくり研究所長、Steering Board Member of Future of Urban Development and Services Committee, World Economic Forum(ダボス会議)in Switzerlandなど、要職多数。
専門とする政策テーマ: 大都市政策(都心、都市圏)、次世代構想、災害と危機管理、世界都市ランキング、テレワーク、PFI
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