不動産市場展望~生き残る都市
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生物は、チャールズ・ダーウィンの『種の起源』に始まる一連の議論のように、「最も強い者や最も賢い者ではなく、変化できる者が生き延びる」ということなのでしょうか。それとも、たまたま生き延びる特徴を持った者だけが生存していくのでしょうか。間違いなくいえることは、「生物が、生存確率が高くなるように、選択を行ってきた」ということでしょう。
このように考えると、私たちが住む場所を選択することも、企業が立地を選択することも、ほかの生物と大きな違いはありません。地震や津波、河川の氾濫など、一気に生命が奪われてしまうほどの自然災害を避けるように動物は経験的に学習し、集積する場所を選定してきました。餌場が市場であると考えれば、私たちはそことの近接性(近づきやすさ)を大切にしてきました。雄雌のペアリングを形成することで子孫を残していくという動機が強くなれば、少しでもその確率が高い、人が集積する都市へと移動していきました。都市が大きくなればなるほど、餌場としての機能が強く、雄雌が出会う確率が高いためです。最近は、コロナウイルス感染症という密に起因した危機を経験したことで「企業や家計が、都市からいなくなってしまうのではないか」ということが囁かれています。それでは、どこに行けば生き残る確率が高いのでしょうか。地方に行けば、企業や家計は、存続する確率が高くなるのでしょうか。その答えは、Noです。
私たちは、選択を誤ったとき、子孫を残すことができなかったり、生存することができなくなったりして淘汰されてきました。長寿企業は、その時々に生き残ることができるように変化し、正しい選択をしてきました。人間は、科学技術を手に入れたことで、自然の流れよりも速いスピードで人口を増加させ、そして山を切り崩し、海面を埋め立て住宅地を拡大し、気候変動にも対応できるように建物を強化して、地球全体で人口を拡大させてきています。そして、その増加速度はどんどんと速くなってきています。そのなかで、面の拡大だけでなく、(バベルの塔ではありませんが、)高さをも求め始めています。大都市だけでなく、地方都市までもが、競うように高層建物の建設を始めています。そのなかで企業や家計が生き残ることができる場所は、やはり変化が可能な、そして元々は生産や消費の拠点であった都市です。生き残るために、企業や家計はこれからも、東京への集積を続けていくでしょう。
著者
清水 千弘
一橋大学教授・麗澤大学国際総合研究機構副機構長
1967年岐阜県大垣市生まれ。東京工業大学大学院理工学研究科博士後期課程中退、東京大学大学院新領域創成科学研究科博士(環境学)。麗澤大学教授、日本大学教授、東京大学特任教授を経て現職。また、財団法人日本不動産研究所研究員、株式会社リクルート住宅総合研究所主任研究員、キャノングローバル戦略研究所主席研究員、金融庁金融研究センター特別研究官などの研究機関にも従事。専門は指数理論、ビッグデータ解析、不動産経済学。主な著書に『不動産市場分析』(単著)、『市場分析のための統計学入門』(単著)、『不動産市場の計量経済分析』(共著)、『不動産テック』(編著)、『Property Price Index』(共著)など。 マサチューセッツ工科大学不動産研究センター研究員、総務省統計委員会臨時委員を務める。米国不動産カウンセラー協会メンバー。