倒産原因の第1位「販売不振」はなぜ起きるのか?~20年で終わる会社と生き残る長寿企業[第1回]

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※過去の記事(2020/01/22公開)のデータをアップデートしたものです。

大手信用調査機関の調査によると、2021年に倒産した企業の数は6,000件あまりでした。業種別でみるとサービス業が最も多く、建設業、卸売業が後に続いています。また、倒産した企業の寿命ついては、最も長いのが製造業の36.3年、最も短いのが金融・保険業と情報通信業の15.7年でした。業種別にみるとその差が20年以上あるものの、平均寿命は23.8年という数値も導き出されています。

リーマンショックが起きた2008年(倒産企業数1万3,000件以上)以降、倒産企業数は13年連続で減少しています。しかし、2020年以降は、コロナ禍の厳しい状況を支えるための各種支援策による影響もあるとみられます。したがって回復傾向にあるものの、楽観はできない状況です。

同調査では業歴が判明した5,000件あまりについて、業歴10年未満の企業と業歴30年以上の企業の倒産件数を比較分析した結果も示されています。倒産件数に占める業歴10年未満の企業の構成比は26.5%であるのに対し、業歴30年以上の企業の構成比は33.8%と2年連続で上昇し、外部環境の変化に対応できていない状況がうかがえます。長寿企業といえども、これまでの成功体験にこだわっていては、今後は生き残ることが難しいといえるでしょう。

本連載では企業の倒産原因に注目し、企業が存続し続けるためのポイントを紹介していきます。今回は倒産の原因として最も多く挙げられる「販売不振」について、原因と対策を考えていきます。

技術革新による「産業構造の変化」で、衰退する業種も

まず、自社の属する業種について考えていきましょう。業種には今後の発展が期待できる「成長業種」と、縮小が懸念される「衰退業種」があります。

成長業種の代表のひとつが、IoTやビッグデータ、AIの技術革新で注目される情報サービス業です。ウェアラブル機器による健康管理、AIを使った自動運転、遊休資産(自動車、住居、衣服等)を活かしたシェアリング・エコノミーなど、新しい需要の創出が期待されています。

対して衰退業種の代表として挙げられるのは、出版業です。インターネットの普及やスマートフォンの浸透により、雑誌や書籍など、紙出版物の売上部数は大きく落ちています。そのため出版業界の市場規模は1997年をピークに右肩下がりで推移しています。

インターネットや通信機器の技術発展が生みだした産業構造の変化により、衰退傾向となった業種は、ほかにも数多くあります。フリマアプリや海外サイトの発達で大きな打撃を受けているアパレル(織物衣料小売業)や、ECサイトに押され気味の百貨店なども衰退傾向と言えるでしょう。

また一見すると成長性の高い業種に、衰退の萌芽が潜んでいることもあります。成長業種である自動車製造業は世界シェアこそ高いものの、国際的な競争が激化しています。また自動運転の技術などでIT企業の存在感が増しており、今後、業界のプレイヤー構造が代わる可能性も考えられます。

「産業構造の変化」によって生じる販売不振を逃れるためには?

「うちの会社は衰退業種だ。転職を考えるか……」と、社員であればそう言えるかもしれませんが、経営陣は打開策を講じなくてはなりません。現状に手をこまねいているようでは、年間に倒産する6,000社のひとつになってしまうかもしれません。

まず前向きに取り組みたいのが、自社商品の品質向上です。たとえ衰退業種であっても、業種自体がなくなることは稀なことです。業界有数の品質を実現することで、生き残りを図ることは十分に可能です。優秀な人材の採用や、設備やシステム刷新に資金を投入するなど、目的に沿うプランを実行していくことで、将来への展望が開けていくでしょう。

また自社がすでに確立している技術を活用して、成長業種へ参入していくという方法も考えられます。たとえば、写真フィルムは、デジタルカメラの普及により、90年代後半からの10年で国内売上は10分の1になりました。そのような中、写真フィルムで高いシェアを誇っていた富士フィルム株式会社は、蓄積されていたナノ技術を化粧品製造に転用し、独自の化粧品ブランド「アスタリフト」を誕生させ、新たな事業展開に成功しました。こうした新発想で既存技術を転用するという視点は、見習うべきところが多くあるでしょう。

また、営業力はどのような業種においても、販売の要です。優秀な人材に対しては正当な評価を与え、他社への移動を防ぐ慎重さが求められます。

景気の減退で「取引先との関係に変化」が起きる

ここまでは産業構造の変化が原因となる販売不振について考えてきました。しかし販売に対して直接的に影響を及ぼす「景気」に対しても、十分な対策を講じなくてはなりません。

内閣府の調査によると、2021年の日本の経済成長率はわずか2.5%でした。少子高齢化が進み、先行きへの不安が広がるなか、消費税は二桁の大台に乗り、国民の財布の紐は固くなる一方です。

そのような社会で低価格商品が人気を集めるのは、当然の成り行きだといえるでしょう。ファッション業界を例に挙げると、低価格帯が中心のブランドが人気を集めた結果、ハイブランドとファストファッションの中間にあったドメスティックブランドが大きな打撃を受けています。

もちろん消費者だけでなく、取引先企業に及ぶ不景気の影響についても考えておかなくてはなりません。取引の縮小や外注業務の内製化などにより、主要取引先との繋がりが断ち切られてしまう可能性は十分にあります。その取引先企業とのパイプが太ければ太いほど、打撃は致命的になるでしょう。

取引先の過度な集中は避け、ある程度意図的に分散を図っていくことは、経営リスクの軽減にも繋がっていくでしょう。

「不景気」から生まれる「販売不振」から逃れるためには

では「不景気」によって生じる販売不振に対して、どのような対策を講じていくべきなのでしょうか。ポイントの1つとして、適正価格と価格に見合う品質(サービス)の提供が挙げられます。

前述のファストファッションの事例を見てみましょう。先日、一世を風靡したファストファッションストアチェーンが、販売不振の末、日本から撤退しました。当初は低価格路線で人気を集めましたが、さらに低価格でバリュー感のある他のブランドに押されるようになりました。また「アジア諸国の劣悪な労働環境下にある工場で、商品を製造していた」という報道で社会的な批判を浴びたことも、利用者離れに拍車をかけました。このように低価格だけに固執してしまうと、最終的には商品(サービス)を販売する側、購入する側の双方を不幸にしてしまうのです。

企業は必要以上の利益とコストカットの追求をやめ、地に足の着いた商品・サービス開発に臨む――。こうした基本姿勢こそ、先行き不透明な世の中で求められている企業の姿といえるでしょう。

まとめ

これまで販売不振を生む原因として「産業構造の変化」と「不景気」のふたつを取り上げ、対策を考えてきました。以下、2つの取り組み方に内容を整理しました。

■迅速に取り組むべき対策…適正価格の実現と価格に見合う品質の維持。取引先の分散化
■時間をかけて取り組むべき対策…成長業種への参入。自社商品のさらなる品質向上

「迅速に取り組むべき対策」は、会社がこれまで築き上げてきた業績を維持するために必要となり、「時間をかけて取り組むべき課題」は、生き残りを賭けた新たな挑戦です。

創業から20年を経過した会社は、良きにつけ悪しきにつけ曲がり角に直面しているといえます。業務を拡大できるのか、それとも消えていくのか。未来を明るいものとするため、2本立ての対策で取り組んでいくタイミングだといえるのです。

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著者

株式会社ボルテックス 100年企業戦略研究所

1社でも多くの100年企業を創出するために。
ボルテックスのシンクタンク『100年企業戦略研究所』は、長寿企業の事業継続性に関する調査・分析をはじめ、「東京」の強みやその将来性について独自の研究を続けています。

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