アフターコロナを見据え いま見直したい中小企業の人材獲得戦略〜中小企業経営者のための注目の経営トピックス[第13回]

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アフターコロナの景気回復を見据え、慢性的な人手不足に悩まされてきた中小企業は、いまこそ人材採用を強化する必要があります。

メディアでも注目されている企業経営に関するトピックスを解説する本連載。今回は、コロナ禍によって「人余り」へと転じた人材市場において、中小企業が採るべき人材採用戦略を探ります。

コロナ禍が人材市場に与えた影響

帝国データバンクが2021年1月、全国2万3,695社を対象に実施した「人手不足に対する企業の動向調査」によると、「正社員が不足している企業の割合は全体の35.9%」という結果でした。

この数値は前年同月に比べると13.6ポイントも減少しており、過去3年間でももっとも少なくなりました。コロナ禍で、人材市場をめぐる状況が激変し、人手不足に悩む企業が減っているのです。

[図表1]正社員の過不足感

[図表1]正社員の過不足感
(出所)帝国データバンク「2021年1月『人手不足に対する企業の動向調査』」より株式会社ボルテックス100年企業戦略研究所が作成
※「不足」計は、「非常に不足」「不足」「やや不足」の合計
※「過剰」計は、「非常に過剰」「過剰」「やや過剰」の合計
※正社員の母数は「該当なし/無回答」を除く1万1,188社。2020年1月調査は1万217社。2019年1月調査は9,671社

■すべての業界が人余りというわけではない

コロナ禍で大打撃を受けた業界は、とくに「人余り」の傾向が顕著です。飲食業はその最たる例といえます。また、旅館・ホテル業にいたっては、正社員が不足している企業の割合はわずか5%。いずれも、コロナ禍の前は慢性的に人手不足だった業界ですから、その変化の大きさが分かります。

しかしすべての業界が「人余り」という訳ではありません。引き続き、人手不足を感じている業界は、放送業(56%)を筆頭に、建設業や情報サービス業も2社に1社以上が人手不足を実感しています。またコロナ禍で勢いが増した電気通信業は、全業種内で唯一、反対に人手不足感が増したようです(44%)。

とはいえ放送業は、前年同月の調査においては約77%が人手不足を感じていましたから、1年間で20ポイントも減少したことになります。この変化を見るだけでも、コロナ禍が日本の人材市場に及ぼした影響の大きさが分かります。

[図表2]従業員が「不足」している上位 10 業種

[図表2]従業員が「不足」している上位 10 業種
(出所)帝国データバンク「2021年1月『人手不足に対する企業の動向調査』」より株式会社ボルテックス100年企業戦略研究所が作成
※2021年1月の矢印は2021年1月と2020年1月との増減、2020年1月の矢印は2020年1月と2019年1月との増減を表す

中小企業が人材採用力を高めるには

こうした状況は、慢性的な人材不足に悩み続けている中小企業にとって、大きなチャンスといえます。コロナ禍であっても、新たな仕事を探している人材が一定数存在しているためです。

帝国データバンクの調査によれば、新型コロナウイルス関連倒産は、2021年3月29日時点で1,217件。倒産により失業してしまった人や、実質的な失業状態にある人が数多くいます。いまこそ、アフターコロナの景気回復を見据え、採用活動に力を入れるべきタイミングといえるのではないでしょうか。

では、中小企業が人材採用力を高めるために、どのような点に留意すべきなのかを見ていきましょう。

■テレワーク環境の整備

2020年は新型コロウイルスの感染拡大を防ぎつつ、事業継続性を確保するため、テレワークの導入が急速に進みました。テレワークは就業者の多様で柔軟な働き方を実現するほか、育児や介護、治療などとの両立、そして通勤時間の削減などさまざまなメリットをもたらします。

中小企業がその環境を整備することで、これまで採用が叶わなかった遠方在住の人材や、育児中の人材など、優秀なスタッフを獲得できる可能性が高まります。また企業にとっても、生産性の向上や離職率低下が見込めます。

ただテレワークを体験した人からは、マネジメント体制や情報セキュリティに対し、不安を感じる声も多くあがっています。こうした問題が生じないよう、あらかじめ対策を講じておくことが大切です。

■副業人材の活用

日本でも、副業に関する規制が緩和傾向にあります。中小企業にも、こうした世の流れへ柔軟に対応する姿勢が求められます。

副業人材の採用により、自社がこれまで持ち得なかった経験知識を持つ人材との接点が生まれ、新たなアイデアや事業創出の可能性は大きく膨らみます。国内では副業人材とのマッチングをサポートするサービスが増加していますので、まずはその概要をチェックしてみるといいかもしれません。

■オウンドメディアリクルーティングの強化

知名度のない中小企業の公式サイトは情報拡散力が弱いため、求人効果も低いと考えられてきました。しかし近年は「Indeed」や「Googleしごと検索」など、求人情報に特化した検索媒体が登場しています。

またSNSは、マーケティングだけでなく求人活動にも活用できます。とくにYouTubeなどの動画SNSは、内容次第で多くの注目を集めることができます。低コストの求人方法をブラッシュアップさせるべく、スタッフからアイデアを募るのもひとつの手です。

■既存スタッフの満足度を高める

既存スタッフの離職率を低下させることも人手不足の解消につながります。例えば「煩雑な手作業が離職理由の1つになっている企業」が、思い切ったDXを推進することで生産性を向上させれば、スタッフの定着率が高まるのではないでしょうか。

また、離職を考えているスタッフと話し合う際、テレワークや副業など、就労形態の選択肢を提案できれば、慰留しやすくなります。経営者は、一人ひとりの働きやすさを尊重する姿勢を持つようにしましょう。

コロナ禍でも採用が好調な中小企業の事例

最後に、コロナ禍でも好調な採用活動を実現している中小企業の事例を紹介します。

■女性採用を積極的に推進したA社

販売業を営むA社は、女性が活躍できる環境創造を経営課題の1つに据え、改善を推進しました。まず人事基準を明確化し、性別にかかわらず、対等に評価が受けられる職場環境を整備したのです。

その上で、子育て中の女性を積極的にパート採用。時短勤務を可能にし、家庭と仕事の両立をサポートしました。また子育てが落ち着き、フルタイムの勤務ができるようになった女性スタッフに対しては、正社員登用を提示しています。こうした努力の結果、A社には女性従業員が定着。人材不足の解消につながったそうです。

■高齢者に活躍の場を与えたB社

建設業を営むB社では、スタッフの高齢化が進み、ベテランの持つ高い技術力を若年層へスムーズに継承する仕組み作りが急務と考えられていました。

そこでB社は、いったん定年制を廃止。希望者はフルタイム勤務を続けられるほか、短時間や曜日選択勤務が可能な就労環境を整えました。また高齢者にとって働きやすい社屋づくりのため、事務所を移転。通勤に便利な駅近物件を選んだほか、空調の配慮や照明の調整などで、高齢スタッフの負担を軽減する努力を続けました。

その結果、ベテランと若手社員の「現場同行システム」が確立。人材確保と的確な技術継承が実現しつつあるほか、高齢者のやりがい創出にも貢献しています。

■障がい者雇用に根気よく取り組んだC社

サービス業を営むC社は、若手社員が定着せず、常に人材不足に悩まされていました。そこで、障がい者の採用を積極的に推進する方針を採りました。推進にあたっては労働時間/曜日や職務について、個々の特性や本人の希望をできるだけ反映し、フレキシブルな就労が可能となる環境を整備。また評価に値する社員に対してはインセンティブを与え、就労意欲を促進させました。

一時的に作業効率の低下も見受けられたようですが、やがて、長く働いてくれる人材を確保でき、稼働率やサービス品質の向上につながりました。新規顧客の開拓や、新事業の展開にも成功しているそうです。

従業員の働きがい・やりがいの創出がカギ

事例としてあげた3社では、正当な人事評価や働きやすい環境整備を推進した結果、働きがい・やりがいの創出に成功し、従業員の定着率が向上しました。ほかにも、本編で紹介した「テレワーク環境の整備」も、従業員の働きやすさ向上に大きく寄与する施策として注目したいところです。

求職者にとって、離職率の高い職場というのは魅力的には映りません。素早く意思決定できるという中小企業の強みを活かして早急に社内の環境を整備し、まずは既存従業員の満足度を高めることが、人材獲得戦略のカギとなるでしょう。

著者

株式会社ボルテックス 100年企業戦略研究所

1社でも多くの100年企業を創出するために。
ボルテックスのシンクタンク『100年企業戦略研究所』は、長寿企業の事業継続性に関する調査・分析をはじめ、「東京」の強みやその将来性について独自の研究を続けています。

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