『ソクラテスの弁明』~有罪になった哲学者の最後の演説~『読書大全』をひらく⑦

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『ソクラテスの弁明・クリトン』 岩波文庫書籍
プラトン(著)、久保 勉(翻訳)

ソクラテスが目指した「善く生きる」とは

「無知の知」で知られる紀元前5世紀の古代ギリシアの哲学者ソクラテスは、歴史上最も有名な哲学者の一人です。

ソクラテスが道を拓いた「道徳哲学(倫理学)」は、「自然哲学(自然学)」「論理哲学(論理学)」と並ぶ哲学の3領域のひとつです。道徳哲学といえば、「ハーバード白熱教室」のマイケル・サンデルが有名ですが、「人はどう生きるべきなのか」「正しい行いとはどのようなものか」という、あるべき生き方を問う学問だということができます。

ソクラテスは70歳の頃、「アテナイ(ギリシアの首都・アテネの古名)が信じる神々とは異なる神々を崇め、若者を堕落させた」という罪で告発され、有罪になります。そのため、友人であるクリトンから逃亡するよう勧められますが、それを拒否して、判決に従って自ら毒杯をあおりました。

ソクラテスがクリトンの提案を受け入れなかったのは、彼が「ただ生きるのではなく善く生きる」ことを目指していたからです。ソクラテスは、人間にとっての生の究極目的を「幸福」だと考えていました。そして、この世で最も価値があるのは、お金を稼ぐことでも身体を気遣うことでもなく、自分の魂をより優れたものにするための魂への気遣い(魂の世話)を通じて、「徳」が備わるような生き方をすることだと考えました。これこそが、彼にとっての「善く生きる」ことであり、「幸福」だったのです。

「ソクラテスの四福音書」のひとつ、『ソクラテスの弁明』

キリスト、釈迦、孔子と並び四聖人の一人に数えられるようになったソクラテスですが、意外なことに生涯で一冊も本を書きませんでした。にも関わらず、彼の名がこれほど知られるようになったのは、弟子の中に哲学者でありアカデメイアの創設者でもあったプラトンがいて、その著作の中でソクラテスについて多くの記述を残したからです。

プラトンの著作の中で、「ソクラテスの四福音書」と呼ばれるのが、法廷におけるソクラテスの弁論を書いた『ソクラテスの弁明』、牢獄に入れられたソクラテスについての『クリトン』、ソクラテスの最期についての『パイドン』、愛(エロス)についての『饗宴』です。この最初の3冊に、ソクラテスの裁判から最期に至るまでの経緯が綴られています。

『ソクラテスの弁明』


『ソクラテスの弁明』は、紀元前399年、アテナイの民衆裁判所の市民陪審員を前に、ソクラテスが弁論を始めるところから話は始まります。そして、無罪有罪決定投票と刑量確定投票を受けて、ソクラテスが聴衆に向かって最後の演説をする場面までが描かれています。

『クリトン』

この続編である『クリトン』では、裁判から約30日後、死刑執行を待つソクラテスが入れられた牢獄で、旧友のクリトンが彼に逃亡を勧めに来るところから話は始まり、その説得が失敗に終わる場面までが描かれています。

『パイドン』

最後の『パイドン』では、ソクラテスの仲間のパイドンが、哲学者のエケクラテスから、ソクラテスの最期について尋ねられるところから話は始まります。死刑執行当日、ソクラテスの弟子たちが朝一番で牢獄に出向き、そこでソクラテスが「魂の不滅」について説き、最後に毒杯をあおる場面までが描かれています。

2021年4月に、『読書大全』という本を出版しました。人類の歴史に残る名著300冊をピックアップして、その内の200冊について書評を書いたものです。この300冊を、「第1章 資本主義/経済/経営」「第2章 宗教/哲学/思想」「第3章 国家/政治/社会」「第4章 歴史/文明/人類」「第5章 自然/科学」「第6章 人生/教育/芸術」「第7章 日本論」の7つに分けています。

この連載では『読書大全』の中から、企業の持続可能性に関わるものをピックアップして解説していきます。

著者

堀内 勉

一般社団法人100年企業戦略研究所 所長/多摩大学大学院経営情報学研究科教授、多摩大学サステナビリティ経営研究所所長

多摩大学大学院経営情報学研究科教授、多摩大学サステナビリティ経営研究所所長。東京大学法学部卒業、ハーバード大学法律大学院修士課程修了、Institute for Strategic Leadership(ISL)修了、東京大学 Executive Management Program(EMP)修了。日本興業銀行、ゴールドマンサックス証券、森ビル・インベストメントマネジメント社長、森ビル取締役専務執行役員CFO、アクアイグニス取締役会長などを歴任。 現在、アジアソサエティ・ジャパンセンター理事・アート委員会共同委員長、川村文化芸術振興財団理事、田村学園理事・評議員、麻布学園評議員、社会変革推進財団評議員、READYFOR財団評議員、立命館大学稲盛経営哲学研究センター「人の資本主義」研究プロジェクト・ステアリングコミッティー委員、上智大学「知のエグゼクティブサロン」プログラムコーディネーター、日本CFO協会主任研究委員 他。 主たる研究テーマはソーシャルファイナンス、企業のサステナビリティ、資本主義。趣味は料理、ワイン、アート鑑賞、工芸品収集と読書。読書のジャンルは経済から哲学・思想、歴史、科学、芸術、料理まで多岐にわたり、プロの書評家でもある。著書に、『コーポレートファイナンス実践講座』(中央経済社)、『ファイナンスの哲学』(ダイヤモンド社)、『資本主義はどこに向かうのか』(日本評論社)、『読書大全 世界のビジネスリーダーが読んでいる経済・哲学・歴史・科学200冊』(日経BP)
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