経営者に落語好きが多い理由とは~古典芸能から学ぶ智恵

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記事公開日:2019/03/20  最終更新日:2024/05/28

※百計オンラインの過去記事(2019/03/20公開)をもとに加筆

経営者や高所得層には落語好きが多いといわれています。このコラムでは、古典芸能である落語から学べる経営の教訓について掘り下げます。落語の中に秘められた知恵が、人間関係の構築、効果的なストーリーテリング、そして優れた決断力の養成にどのように貢献しているのでしょうか。また、有名な落語やその魅力について触れながら、ビジネスと古典芸能の出会いさらにはその未来についても言及します。経営者だけでなく、リーダーシップスキルを向上させたい方にとって、新たな視点を発見できる内容です。

落語とは:概要とその魅力

落語は、日本の伝統的なストーリーテリングの形式で、一人の落語家(噺家)が複数の登場人物を演じ分け、一つの物語を語ります。その起源は江戸時代まで遡り、庶民の生活や人間関係、社会風刺をテーマにした話が多く描かれます。

落語の最大の魅力は、そのシンプルさと深みにあります。道具は扇子と手ぬぐいだけ、そして舞台は畳一畳分の空間。しかし、その限られた範囲内で、落語家は観客をさまざまな世界へと誘います。旅館の一室、寺の庭、商店街の一角など、具体的な場所や時間を超えて、観客は物語の世界に引き込まれます。

また、落語はユーモラスでありながら、人間の心情や社会の矛盾を鋭く描き出すことで知られています。一見、面白おかしいエピソードの中にも、生きることの喜びや苦しみ、人間関係の複雑さが織り込まれています。これらの要素が組み合わさることで、落語は単なるエンターテイメント以上の存在となり、人間の本質を映し出す鏡ともなっています。これこそが、落語の持つ真の魅力といえるでしょう

経営者に落語好きが多い理由とは:人間観察とコミュニケーションの重要性

2011年に実施された雑誌「プレジデント」の調査では、平均年収1,000万以上の調査対象者の43.4%が落語好きという結果が出ました。彼らの約7割が日ごろから話にオチをつけるように工夫しており、初対面でも笑いをとって相手の心をつかむ人は4人に3人に上ります。

落語家は、一人で数々の登場人物を演じ分け、その心情や動機を観客に伝えます。これらのスキルは、経営者がチームや組織の中の人々を理解し、動機づけるのに役立つ重要な能力です。プロの経営者ほど、笑いやユーモアのセンスを大切にしているといわれています。こうしたコミュニケーションスキルを磨くために、落語を役立てている人も多いようです。中には、落語を聞くだけでは飽き足らず、自ら芸を磨いて高座に上がる経営者までいるといいます。

観察力もまた、落語を通じて磨くことができます。物語の中の細かな動きや表情、言葉遣いなどから、登場人物の感情や考えを読み解く必要があります。経営コンサルティングのリンクアンドモチベーションの小笹芳央会長は、講演会でのアイスブレイキングのスキルを磨くために、落語の冒頭(いわゆるマクラ)を参考にしていると話します。

マクラでは世間話をしたり、本題と関係する小咄を挟んだりして観客の気持ちを解きほぐし、落語の世界に誘う役割を果たしています。また、落語の寄席では通常、その日の演題は事前に発表されません。噺家はマクラを通じてその日の客層や観客の反応を探り、場にふさわしい演題を選んでいるのです。これらのスキルは、経営者が従業員や顧客のニーズを把握し、適切な戦略を立てるために必要な能力と深く関連しています。

さらに、落語の中には、人間の心情や行動を理解するための洞察が数多く含まれています。経営者はこれらの洞察を活用し、より効果的なコミュニケーションや問題解決の方法を見つけることができます。こうした理由から、経営者には落語好きが多いのかもしれません。

有名な落語の演目とその構成:芝浜、寿限無、時そば

落語には数多くの物語があり、その中でも「芝浜」、「寿限無」、「時そば」は有名で、その構成や登場人物、物語の進行方法などには、聞き手を引き込むためのさまざまなテクニックが盛り込まれています。

芝浜

長屋に住む腕はいいが怠け者で酒好きな魚屋の勝五郎の話。ある朝、勝五郎は女房に叩き起こされ、数日ぶりに芝浜の魚河岸(魚市場)へと仕入れに向かう。魚河岸に着くも誰もおらず、鐘の音を聞いて女房に一刻(2時間)早くたたき起こされたと気づくも、やることもないので、浜辺で顔を洗うことにする。すると偶然、波打ち際でずっしりと重みのある革の財布を見つけて…

中を確認すると、小判がたくさん入っている、思わず懐にしまい、そのまま長屋へと舞い戻る。女房と財布を確認すると50両入っていて、自分の物にしようと考えた勝五郎は朝湯に出かけ、友人を自宅に招いてどんちゃん騒ぎをして酔いつぶれてしまう。

翌朝、また女房に起こされた勝五郎は、財布を拾ったのは夢だと諭されて、すっかり反省し好きな酒を断って商売に精をだすようになり、三年もすると自分のお店を構えるほどに。

その年の大晦日の晩、女房は件の財布を勝五郎の前に出し、夢ではなかったと詫びる。勝五郎はこうして自分のお店を持ち、気楽に正月を迎えられるのは女房のお陰だとお礼を言う。女房が三年ぶりにお酒を注ぎ、すすめるも勝五郎はこう言って断る。「やめておこう、また夢になるといけねぇ」

寿限無

男の子が生まれて7日目となるのに名前を決められずにいる熊さん夫婦。長生きするいい名前をつけてほしいと、お寺の和尚さんに依頼するが…

和尚の提案する経文にあるめでたい文字をあれもこれも熊さんは気に入ってしまい、すべて紙に書いてもらう。それは“寿限無寿限無、五劫のすり切れ、海砂利水魚の水行末、雲来末、風来末、食う寝るところに住むところ、やぶらこうじのぶらこうじ、パイポパイポ、パイポのシューリンガン、シューリンガンのグーリンダイ、グーリンダイのポンポコピーのポンポコナの長久命の長助”という長ったらしい名前。

あるとき、“寿限無…長助“にぶたれてこぶができたと亀坊が泣きながら苦情にくる。熊さんが“寿限無…長助“がぶってできたこぶを確認するも見当たらず、亀坊はひと言。「あまりに名前が長いから、こぶが引っ込んだ」

時そば

ある寒い日、夜鷹そば屋を呼び止めた男は、そばを堪能して、終わりに勘定を頼む。代金の16文を手渡しする際に、「1つ、2つ、3つ、4つ、5つ、6つ、7つ…今、何刻だい?」とそば屋に聞いた。「9つで」の返事に「10、11、12、13…」と残りの金額を支払い、去っていく。一部始終を見ていた別の男は…

彼が二文かすめ取ったことに気づき、翌晩、同じことを試みる。そばを食べ終わり、いよいよ代金を手渡しする。「1つ、2つ、3つ、4つ、5つ、6つ、7つ…今、何刻だい?」とそば屋に聞くと「4つで」の返事に続けて「5つ、6つ、7つ、8つ…」

異色の噺家:立川志の春落語との出会いと気づき

帰国子女で、アメリカの名門イェール大学から三井物産という輝かしいキャリアを経て、落語界に転じた異色のキャリアを持つのが、立川志の輔門下の立川志の春です。「ごく普通の会社員だった」という商社時代に突然落語と出会い、噺家を志すことを決めた同氏。2年半の会社員生活を捨てて志の輔門下に入門し、師匠の付き人兼運転手として走り回っていた時代に、「落語家とは、お客さんの空気を読みながらやる究極のサービス業だ」という気付きを得たとインタビューで話しています。前述したマクラから本題に入る流れなどは、まさに「空気を読むこと」そのものといえるでしょう。

立川志の春氏によると、立川流では真打に昇進する基準は寄席100席。さらに重要なのは、「世間とのつながり方」だといいます。どのくらい露出しているか、どのくらい集客力があるか、そういった「総合力」を師匠に向けてアピールし、昇進の許しをもらうのです。

一般の企業人にとっても、落語家が大切にする「空気の読み方」や自己演出スキルには学ぶものがあるのではないでしょうか。

ストーリーテリング:落語の語り口から学ぶ

ストーリーテリングは、情報を伝える上で非常に重要なスキルです。特に、落語の語り口から学べる多くの点が、効果的なストーリーテリングに活用できます。

落語は、聞き手を物語の世界に引き込むために必要となる鮮明な描写と、それぞれの登場人物の視点から話を進めるスキルを磨く絶好の機会を与えてくれます。

また、落語は一貫したストーリーラインを持つと同時に、笑いを誘うための要素も含んでいます。これは、聞き手の注意を引きつけ、物語に没頭させるための重要なテクニックです。話の途中でユーモラスな要素を挿入することで、聞き手は話を楽しみながら、情報を理解しやすくなります。

さらに、落語の結末は予測が難しく、驚きや新たな発見があります。これは、聞き手が話に引き込まれる要素の一つです。

これらの要素を組み合わせて使うことで、聞き手を引き込む、効果的なストーリーテリングを実現できます。落語の語り口から学べるこれらのテクニックは、ビジネスのプレゼンテーションや、日々のコミュニケーションにも役立つでしょう。

経営に活かす落語の知恵:リーダーシップと決断力

落語は、その知恵を経営に活かすことで、リーダーシップと決断力の強化につながります。

まず、異なる視点を理解し、それを考慮に入れる能力を学ぶことができます。これはリーダーシップにおいて重要な要素で、チーム内の多様な意見や視点を理解し、それらを統合する力を養います。

また、落語家は物語を進行させる中で、観客の反応を見て即座に話の流れを調整します。これは高い決断力と柔軟性を必要とし、経営者がビジネス環境の変化に対応するために必要なスキルと直接関連しています。

さらに、落語家が物語の結末を導く過程では、予想外の展開やサプライズを盛り込むことが多いです。これはリーダーがチームを想定外の状況に対応させ、解決策を見つけるための創造的な思考を刺激します。

落語家が観客とのコミュニケーションを重視する姿勢は、リーダーがチームとの良好なコミュニケーションを維持する上で参考になります。リーダーは、チームメンバーの意見を尊重し、フィードバックを適切に与え、効果的なコミュニケーションを通じてチーム全体を結束させることが求められます。

これらの要素を通じて、落語は経営者にリーダーシップと決断力を強化するための有用なツールとなります。落語の知恵を活用することで、経営者は組織をより効果的に運営し、ビジネスの成功に繋げることができるでしょう。

落語好きの議員が結成した「落語議員連盟」:落語の未来

「落語議員連盟」は、2018年に自民党の有志議員によって結成された団体で、その中心人物は落語好きとして知られる小泉進次郎氏です。この団体は、落語を通じて日本の伝統文化や人間の心理を理解し、それを政策に反映することを目指しています。

演説上手で知られる小泉氏も噺家の話芸に演説のスキルを学びに行っているのかと思いきや、寄席に通う理由は「落語を聴いた後はなんでも許せる気持ちになるから」だと話しています。

たしかに、落語にはずる賢かったり抜けていたりとさまざまなキャラクターが登場し、笑いあり人情ありのストーリーが展開されます。人情噺で人の心の機微を学んで涙し、思いっきり笑うことでストレスを解消すれば、日ごろの悩みも「まあいっか」と気楽になれるのかもしれません。

「落語議員連盟」の活動は、落語鑑賞会の開催や落語家からの講演の聴講などが中心です。これらの活動を通じて、議員たちは落語の中に織り込まれた人間の心理や社会状況を学び、それを自身の政策立案や活動に生かしています。

また、「落語議員連盟」の存在は、落語の価値を認識し、その保護と普及に努める政策の推進を示すものです。具体的には、伝統文化の保護や普及を図るための予算の確保、若手落語家の育成支援、落語を用いた教育プログラムの開発などがあげられます。

これらの活動を通じて、「落語議員連盟」は、落語の未来を守り、その発展を促す役割を担っています。これは、日本の伝統文化の継承と発展に対する真剣な取り組みであり、文化の力が政策にどのように反映されうるかを示す一例ともいえるでしょう。

著者

株式会社ボルテックス 100年企業戦略研究所

1社でも多くの100年企業を創出するために。
ボルテックスのシンクタンク『100年企業戦略研究所』は、長寿企業の事業継続性に関する調査・分析をはじめ、「東京」の強みやその将来性について独自の研究を続けています。

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