後継者問題の解決策とは。選び方や育成のポイントは何か
目次
記事公開日:2019/11/20 最終更新日:2023/02/16
近年、後継者不在により、廃業する企業が増えています。事業承継の成否を大きく左右するのは、いかに後継者問題を解決するかです。どのように後継者の資質を見極め、育成すればよいのか。そのポイントを整理していきましょう。
後継者問題の動向
中小企業庁によると、2019年の休廃業・解散件数は、43,348件(図表1)でした。中小企業白書では、休廃業・解散の理由のひとつとして、後継者不足をあげています。また民間企業の調査では、中小企業の2/3が後継者不在を経営課題にあげています。
[図表1]中小企業の休廃業・解散件数の推移
以前は一定の売り上げがある企業においては、事業継続を前提に、後継者として長男などの親族が選ばれるのが一般的でした。しかし人口減少が進んで後継者不足となる中でコロナ禍にも見舞われ、後継者問題はより厳しい局面を迎えています。
コンサルタントとして900社を超える事業承継を支援し、自身も事業譲渡の経験をもつ事業承継デザイナーの奥村聡氏は、事業承継の重要ポイントは、固定観念にとらわれずM&Aや廃業を含めた様々な選択肢から、経営者にとっての「ベストな着地点」を見つけることだとしています。
一方で、企業の継続を前提に事業承継を進める場合、後継者選びや育成は避けて通れない課題です。
前出の2020年版「中小企業白書」では、「同族承継」は年々減少傾向にあるのに対し、「内部昇格」による事業承継は増加傾向にあるとしています(図表2)。
[図表2]中小企業の事業承継「同族承継」と「内部昇格」の推移
同族承継とは
同族承継とは、経営者の親族に事業承継することを指します。2019年版の中小企業白書によると、「同族承継」の内訳の中で最も多いのは「男性の子供」、次いで「子供の配偶者」、「女性の子供」、「兄弟姉妹」などが続いています。中小企業の経営者にとって、事業承継の対象は親族であることが最も多いといえます。「自社の未来を明るいものとしていくため、いかに子息・子女を次世代幹部へと育て上げるか」を考えることは、重要な経営課題のひとつなのです。同族承継の場合、対象となる親族を早期に幹部の職に就けて育成していくのが一般的です。
内部昇格とは
内部昇格とは、経営者の親族以外の従業員に事業承継することを指します。内部昇格の場合、幹部候補を選んで育成するのが一般的です。幹部候補は、将来的に企業経営者や経営幹部などの重要なポジションに就くことを想定し、大きな成果を求められている人材です。どのポジションが幹部候補に含まれるのかは、企業によって規模や方針は異なるためケースバイケースです。まずは自社の方針を明確することが肝心です。
後継者問題における幹部・幹部候補育成の重要性
事業承継を同族承継・内部昇格のいずれで実施するかに関わらず、企業において幹部や幹部候補の育成が重要な理由は、経営者視点で考えられる人材が必要だからにほかなりません。企業経営は、経営者ひとりでは成り立たず、また経営者も判断に迷うときもあります。そのようなとき、経営者視点で意見を伝えられる幹部がいれば、企業の成長の可能性が高まります。
大企業から中小企業まで幅広く経営コンサルティング活動を行なう小宮一慶氏は、事業承継の重要施策として「マネジメントチーム」の構築をあげ、常日頃から組織内の知恵を結集するチームを形成していれば、その中から後継者を選ぶことができ、事業承継後も経営者を支えることができるとしています。 次世代の経営を担う後継者や後継者を支える人材・チームを育成することが、事業承継を見据える企業において、必須の取り組みになっているといえるのです。
おすすめコラム
後継者候補・幹部候補に必要な資質・能力とは?
企業経営では、当然ながら、血縁関係にあるというだけで実力の乏しい人に経営を任せることはできません。事業承継に向けて、後継者候補・幹部候補が資質を備えているかの見極めが重要です。求める要素は、企業によってさまざまで一概に「このような人がふさわしい」とはいえないでしょう。ただし、組織の上に立つ人として必要な資質・能力は、共通しているといえます。必要な資質・能力とは何かをみていきましょう。
必要な資質・能力① 柔軟性とスピード感覚
現在は、IT化やグローバル化の進展で、経営環境は目まぐるしく変化し、天災などによる経済的な危機も頻発しています。そのような時代に、企業の上層部が固定観点に縛られていては、今後の経営が立ち行かなくなることは目に見えています。業歴の長い老舗企業は、変化する時代に対応していく柔軟さがあります。常に時代のニーズを捉え、そのなかで確固たる価値を提供し続けてきたからこそ、企業が存続しているといえます。後継者候補・幹部候補には時代を読み、取り入れていく「柔軟性」と、変化に対応する「スピード感覚」が必要です。
おすすめコラム
必要な資質・能力② 忍耐力
企業の経営は苦難の連続です。日々、競合他社や他業種との競争にさらされ、順風満帆とはいきません。また社内では経営方針の違いによる対立など、多くの課題にさらされます。それでも幹部は社内を束ねていく必要があります。そのため後継者候補・幹部候補は、さまざまな逆境に耐えうる「忍耐力」を兼ね備えていることが望ましいでしょう。
必要な資質・能力③ コミュニケーション力
さらに必要となるのが、高い「コミュニケーション力」です。企業経営はひとりで推進できるものではありません。社内外の多くの人が関わり進めるものです。社内では、従業員と経営理念の共有を図り、自らが船頭となって進んでいかなければなりません。このように将来的に経営にも携わる後継者候補・幹部候補には、社内外で均衡を図る高い「コミュニケーション力」が必須といえます。
必要な資質・能力④ 洞察力
洞察力は、経営にあたって、業界や取引先の状況、そして自社スタッフの思いなどをいち早く汲み取り、適切な判断や対応に繋げる大切な力です。目に見えない周囲の状況に思いを巡らし把握する「洞察力」も必要な資質です。
必要な資質・能力⑤ 統率力
経営にあたり、リーダーシップは必要不可欠です。もちろん独善的になるのではなく、スタッフの意見を尊重しつつ能力を活用させる人間性が求められます。周囲の人々の意見をまとめ、率いていく「統率力」が必要です。
後継者の選び方。決め手になるのは?
では、実際に事業承継を決めた経営者は、後継者候補のどのような資質・能力を重視して選んだのでしょうか。あるアンケート調査では、「自社の事業に関する専門知識」と「自社の事業に関する実務経験」を挙げる割合が5割を超え、最も高くなっています。自社の事業をよく分かってくれている後継者でなければ、安心してバトンタッチできないのは当然でしょう。
しかし、知識や経験があれば十分かというと、そうではありません。“最も重視”した資質・能力に絞ると、「経営に対する意欲・覚悟」がトップになっています。知識や経験があるのは当然であり、それに加えて、経営者としてのマインドセットが求められているといえるでしょう。
こうした知識や経験、そして経営者としてのマインドセットは通常、一朝一夕で備わるものではありません。一定の時間をかけて、バランスよく身につけるようにすることは、事業承継を成功させるために欠かせません。
[図表3]後継者を決定する上で重視した資質・能力
後継者を決定する上で重視した資質・能力は、親族内承継、役員・従業員承継、社外への承継という事業承継のパターン(形態)によっても違いが見られます。
例えば、親族内承継では「血縁関係」によって後継者を選んだと思われがちですが、それよりむしろ「自社の事業に関する専門知識」や「自社の事業に関する実務経験」が重視されており、単に血縁関係があることを理由に選んでいるわけではないことが分かります。
他方で、「2019年版中小企業白書」によると、事業承継の形態別に「事業を引き継ぐ上での苦労」を質問したところ、「特になし」と回答したのが「親族内承継」で33.2%、「役員・従業員承継」で16.8%、「社外への承継」で19.3%でした。子息または子女が「幹部候補として、それなりの適性を持っている」と判断できた場合、親族の繋がりが強固な武器となり得ることを裏付けるような調査結果と言えそうです。
次に、役員・従業員への承継では、他と比べて「社内でのコミュニケーション能力」と回答した割合が高くなっています。社内から後継者を選ぶにあたって、専門知識や実務経験が重要なことはいうまでもありませんが、それと並んで他の従業員からの信頼やリーダーシップが重要なファクターになっているようです。
社外への承継では、M&Aなどの相手を探すことがメインであり、後継者の個人的な資質や能力の重要性はやや低いようです。他のパターンに比べて「経営に対する実務経験」が若干高いのも、少なくともそれくらいはクリアしたいという意向の表れかもしれません。
[図表4]事業承継の形態別、後継者を決定する上で重視した資質・能力
後継者選びの事例
実際の後継者選びにおいては、前述のような資質や能力を基準にすることは有効でしょう。しかし、やはり最後は経営者の判断に委ねられます。
事例をひとつご紹介しましょう。
北関東で貸しビル、貸店舗、駐車場などを経営している不動産会社(A社)では、10年ほど前に創業社長から二代目への承継が行われました。創業社長には息子が2人いましたが、長男は早くから入社して社長を補佐しており、後継者候補といわれていました。ただ、社長は次男も呼び寄せ、新規事業として飲食業やスポーツジム業を独立採算で展開させていました。
しかし、業績(特に本業)は人口減少と高齢化が進む地元経済と足並みをそろえるように低迷。逆転を狙って宅地開発に着手したものの、リーマンショックのあおりを受けてむしろ多額の負債を抱えることになってしまいました。
このタイミングで社長は、次男を後継者に指名したのです。本業しか知らない長男より、新規事業を立ち上げてきた次男のほうが、会社の立て直しに適任だという判断でした。性格的にも、明るくアグレッシブな長男より、寡黙ながら粘り強く問題解決に取り組む次男を評価したのです。
長男が継ぐものとばかり思っていた次男は当初、社長就任に難色を示しましたが、取引先やメインバンクなどからの説得もあり半年ほどして決断。社長は代表権を次男に移し、長男を関連会社に転籍させました。
A社はその後、負債の整理や健康関連の新規事業の立ち上げなどに取り組み、いまでは経営危機前より売上、利益ともに倍増を果たしています。
このケースでは、後継者を選ぶ基準として経営危機に陥った会社を立て直すという一点に絞ったことが成功のポイントだったといえるでしょう。基準が明確であれば、あとは関係者の説得や調整を行うことに集中できますし、事業承継のやり方も自ずと決まってきます。
また、A社では長男がもともと後継者候補でしたが、次男にも経営の経験を積ませ、もうひとつ選択肢を用意しておいたことが、結果的に奏功したといえるでしょう。
後継者選びでは候補者の意向確認が不可欠
前述したアンケート調査やA社のケースからもわかるように、後継者選びでは後継者のマインドセットが鍵を握ることは間違いありません。
いくら現経営者の指名や説得があっても、本人がその気にならないと話は前に進みません。むしろ、「断り切れず仕方なく後継者になった」というような受け身の姿勢やネガティブな側面があると、将来に大きな禍根を残すでしょう。
また、大企業ではよく後継者が社長室に呼ばれ、社長から「次は頼む」と伝えられて腹をくくったといった逸話がありますが、中小企業には当てはまらないでしょう。大企業では社長の任期が2期4年などと慣例的に決まっており、また社内での厳しい選抜を経て役員になれば、それなりの心の準備はできているはずです。
一方、中小企業では、事業承継のタイミングは基本的に経営者の考え次第です。後継者候補としても、覚悟を決めるタイミングを計るのは難しいのではないでしょうか。
「言わなくても分かるだろう」では通じません。経営者は早いうちから意中の後継者候補に会社の経営状況を伝えたり、相手の真意をそれとなく確認したりすべきです。事業を継ぐ意思がないといっていた子や親族が突然、「事業を継ぎたい」といい出すこともあり得ます。事業承継を成功させるには、経営者と後継者のコミュニケーションが重要です。
後継者を育成する7つの方法
事業承継を見据えたうえで、後継者候補や幹部候補を育成するには、大きく分けて社内育成と社外育成のふたつが考えられます。
社内育成においては、自社のやり方で利益を生む方法を身近に感じさせることが可能です。業務に伴う苦労やともに働く同僚たちの気持ちを理解するために、最もスムーズな方法と言えるでしょう。
一方、特に親族内承継については、既存の社員に理解を求める必要があります。「後継者や幹部候補になることが既定路線である」という視線に晒され、本人が強いプレッシャーを感じる可能性も高いのです。甘えを取り除き最前線で苦労を積ませることは大切ですが、厳しく接するだけでなく、フォローやケアも必要です。着実に実力を蓄え、実績が積み上げられる環境を整備することは、経営者にとって重要な仕事のひとつとなるでしょう。
社外で育成する場合、自社と同業種、あるいは関連業種の企業へ入社・出向させるのが一般的です。また同規模の企業を選ぶと、育成はスムーズになるでしょう。逆に異業種や大企業などへ入社させ、後継者・幹部候補としての広い視野や能力を獲得させるという考え方もあります。いずれを選ぶかは難しい判断とはなりますが、経営者自身の考えだけでなく、本人の意志も尊重したうえで修業先を決定することが大切です。
また社外で働く場合は、必ずしも修行先で自社の後継者・幹部候補にふさわしい教育や経験が得られるとは限りません。「これ以上社外に預けていても、リーダーとしての成長に繋がらない」と判断した場合は、自社教育に切り替えることも必要です。
後継者・幹部候補を育成し、その中から後継者にふさわしい人物を選出していくことは、中小企業の成長と事業継続のために必要なことです。その育成にはそれなりの時間と費用をかけなくてはなりません。また、意思を持つひとりの人間を後継者・幹部候補として育てていくために、経営者自身も細心の注意を払っていくこととなるでしょう。
では、社内・社外あわせて7つの育成方法の詳細を、具体的な事例をあげて見ていきましょう。
育成方法① 社内の部門ローテーション
最もよく行われる方法です。後継者(候補)を営業、財務、製造など社内の各部門を一定期間ずつローテーションさせます。これにより、会社の業務全般に必要な知識と経験を得ることができます。
また、各部門の社員と接することにより社内の雰囲気や風土を把握し、承継後の施策に生かすこともできるでしょう。
育成方法② 社内プロジェクトの担当
後継者を全社的な課題に取り組むプロジェクトのリーダーに抜擢するものです。経営的な視点で考えたり、取り組んだりするよい経験になるでしょう。各部門からメンバーを集め、一緒に課題解決にあたらせれば、信頼関係や社内ネットワークの構築にもつながります。
関西で建築関係の専門工事業を営むB社では、他の業種にいた娘婿が後継者候補として入社しました。最初は一社員として現場で専門工事の経験を積んだあと、3年ほどして役員に就任するとともに、経営改革プロジェクトのリーダーに抜擢されました。
プロジェクトでは、売上の安定化、業務の効率化、人手不足対策、技術力向上、経理の透明化などさまざまなテーマについて関係部門の社員を巻き込んで取り組みを進め、着実に成果を出すことに成功。社内業務のほとんどを経営視点から経験し、また経営改革の先頭に立って汗をかいている姿を見せることで、社内からの信頼も勝ち得ていきました。こうして役員になってから8年、社長交代もスムーズにいき、業績は順調に推移しています。
育成方法③ 他社での勤務
他社での勤務を経験させることも、広く行われている後継者の育成・教育法です。
これには2つのパターンがあり、ひとつは異業種の会社に勤務するものです。実際には、後継者候補になる前に他業種の会社で勤務しており、いざ後継者になったときにその経験が役に立ったというケースが多いでしょう。はっきりと後継者として決まってから、わざわざ他業種で修行することは多くありません。
もうひとつは、同じ業種の他社で勤務するものです。自社ではどうしても甘えが出ると考える経営者が、知り合いの同業他社や取引先などに頼んで修行させるというケースが一般的です。
後継者としても、経験を積むだけでなく、業界の動向を知ったり、人脈を広げたりするといったメリットが期待できます。
育成方法④ 社外のセミナーや勉強会への参加
経営に関する知識やスキルで不足している部分を、比較的短期間で身につけるには有効な方法です。具体的には、財務や会計職、経営戦略やマーケティングなどがあげられます。
日用品メーカーのC社では、社長が体調を崩し、営業のベテラン社員を後継者として指名しました。本人は自分が社長になるとは考えたこともありませんでしたが、会社の非常事態でもあり、急遽、事業承継の準備を始めました。
問題だったのは、営業についてはともかく、その他の業務の知識も経験もなかったことです。そこでまず、経営者としてどういう知識やスキルを強化すべきかを洗い出すため、外部の経営者向け研修を受講。そのなかで、金融・財務の知識が不足していることを認識し、重点的に勉強しました。そのおかげで、半年もすると金融機関の担当者との会話もスムーズにこなせるようになり、無事、後継社長に就任しました。
育成方法⑤ 資格の取得
C社のケースもそうですが、経営者として不足する知識やスキルを補うため、資格取得を目指すということもありえます。
また、業種によっては、特定の資格者がいないと事業が行えないケースがあります。後継者自らがそうした資格を取得する必要は必ずしもありませんが、場合によっては業務内容の理解を深めるため資格取得に取り組むのもよいでしょう。
育成方法⑥ 段階的な役職の付与
事業承継においては最終的に社長交代が行われます。しかし、後継者がいきなり社長に就任するのは社外への承継パターンならともかく、同族承継や内部昇格のパターンでは避けたほうがよいでしょう。
先ほど紹介したB社のケースでも、後継者候補の娘婿はまず一般社員として現場を経験し、それから役員としてプロジェクトリーダーを務めていました。
段階的に役職が上がることで、無理なく経営者としての視点や意識を身につけていくことができますし、各段階で成果を出すことが社内や取引先の理解と信頼を得ることにもつながります。
育成方法⑦ 子会社・関連会社の経営
段階的な役職の付与のバリエーションとして、後継者にある程度の実力が備わった段階で、子会社・関連会社等の経営を任せるのもよいでしょう。
小さい組織であってもトップとしてさまざまな決断を下すことは、経営者としてなによりのトレーニングになりますし、責任感を育むことになります。
まとめ
後継者候補・幹部候補をどう選ぶか、そしてどう育成していくかは、事業承継の結果を大きく左右します。成功の方程式があるわけではありませんが、他社の事例を含めさまざまな情報を参考に、自社に適したやり方を見つけることが肝要といえるでしょう。
著者
株式会社ボルテックス 100年企業戦略研究所
1社でも多くの100年企業を創出するために。
ボルテックスのシンクタンク『100年企業戦略研究所』は、長寿企業の事業継続性に関する調査・分析をはじめ、「東京」の強みやその将来性について独自の研究を続けています。