不動産戦略を考える、4つの視点

企業が経営戦略の一環として、不動産をどのように取り扱うかを考える不動産戦略。CRE(Corporate Real Estate)戦略とも呼ばれますが、どのような視点で戦略を考えるかが重要です。

今回は、特に中小企業が不動産戦略を考えるにあたっての視点を整理してみます。

企業における不動産戦略のトレンド

企業経営における不動産の位置づけは、基本的に事業(本業)を軸に考えることができます。すなわち、本業に直接的、または間接的に欠かせない不動産と、本業とはあまり関係がない不動産です。前者は「コア」不動産、後者は「ノンコア」不動産と言えるでしょう。

また権利面に着目すると、「所有」と「賃借」に分けることができます。所有の場合は土地、建物の所有権を持ち、それを自社で使用するか、第三者に賃貸するかします。賃借の場合は基本的に、自社の本業などのために借りるケースです。

さらに重要なのは、その不動産がキャッシュを生むかどうかという点です。コア不動産にしろ、ノンコア不動産にしろ、また所有不動産にしろ、賃借不動産にしろ、キャッシュを生むケースと、キャッシュを生まないケースがあります。キャッシュを生む不動産は経営にとってプラスです。キャッシュを生まない不動産でも、本業にいろいろな形でメリットをもたらすことがあり、一概に不要とは言えません。

以上のように考えていくと、企業経営における不動産の位置づけは下記1~8に分けることができます。

  1. 「コア不動産」×「所有」×「キャッシュ発生」(例:自社ビル、自社工場、自社倉庫、など)
  2. 「コア不動産」×「所有」×「キャッシュなし」(例:社宅、寮、など)
  3. 「コア不動産」×「賃貸」×「キャッシュ発生」(例:賃借オフィス、レンタル工場、レンタル倉庫など)
  4. 「コア不動産」×「賃貸」×「キャッシュなし」(例:借り上げ社宅、借り上げ独身寮、など)
  5. 「ノンコア不動産」×「所有」×「キャッシュ発生」(例:アパート、賃貸マンション、貸しオフィス、など)
  6. 「ノンコア不動産」×「所有」×「キャッシュなし」(例:自社グラウンド、遊休不動産、など)
  7. 「ノンコア不動産」×「賃貸」×「キャッシュ発生」(例:サブリース、など)
  8. 「ノンコア不動産」×「賃貸」×「キャッシュなし」(例:撤退した事業用の賃借不動産、など)

こうした区別に応じ、「事業活動の視点」「財務会計の視点」「不動産活用の視点」「事業承継と相続の視点」の4つの視点で、自社における不動産の扱いを検討していきます。

事業活動の視点

「コア」不動産は本業との関係で考える視点です。具体的には、本社や支店の事務所、工場、倉庫などをどこに、どのように確保するかが問題になります。

創業期の企業の場合、「コア」不動産をすべて自社所有とするには相当な資金が必要となり、キャッシュフローが回らなくなります。そこで、事業の成長スピードに合わせて賃借するのが合理的でしょう。

一方、安定成長の企業で内部留保が厚いような場合は、本社ビルや工場、倉庫などの所有を検討していくことになるでしょう。ただ、支店や支社は移転・統廃合の可能性があるので、賃借するのが一般的です。

なお、新規事業として不動産賃貸業に取り組むような場合、基本的に自己所有で行うことになります。ただし、サブリースのようなビジネスモデルの場合は、不動産を賃借してさらにそれを第三者に転貸することもありえます。

財務会計の視点

所有する不動産はバランスシート上、資産に計上されます。資産に見合った収益が上がればいいのですが、バランスシートがあまり膨らむと通常、ROA(総資産利益率)が悪化しやすくなります。

上場企業では、株式市場での株式評価にROAなどの財務指標が影響します。しかし、非上場の中小企業であればROAはさほど気にする必要はありません。

中小企業では不動産を所有するにあたって、借入金とのバランスが重要です。借入金の利息分は経費計上し、元本分は利益から返済することになります。キャッシュフローとの兼ね合いをよく確認しなければなりません。

不動産活用の視点

自社が所有する不動産は、どれくらい効率よくキャッシュを生んでいるかが問題になります。

たとえば、本社ビルは本業の拠点であり、事業収益を生み出しているはずです。しかし敷地の容積率が余っているような場合、新たに建て替えて自社で使用するフロア以外を他社に貸せば、新たなキャッシュを生みだすことができます。

かなり以前に取得して簿価が低く、含み益のある不動産は信用力につながる一方、含み益が出ていることでそれ以上の活用は検討せず、その不動産が持つポテンシャルを十分、引き出せていないケースもあります。

工場や倉庫は周辺環境の変化に合わせて用途を変更(コンバージョン)することで、新たにキャッシュを生み出せる可能性があります。

活用の見込みが薄い遊休不動産は、財務戦略の観点から思い切って売却するのもひとつの手です。

事業承継と相続の視点

さらに中小企業の場合、不動産戦略においては事業承継と相続の視点が不可欠です。なぜなら、銀行から融資を受ける際に経営者個人が担保を提供したり個人保証をしたりと、経営者の資産と会社の資産の線引きが曖昧になることが多いからです。

創業当初はそれも仕方のないことですが、いつまでも曖昧なままでいいわけではありません。

たとえば将来、事業承継を検討するときに問題になります。事業承継のパターンは大きく、「親族内承継」「役員・従業員承継」「社外への引継ぎ」の3つに分けられます。「親族内承継」では会社と経営者の資産の線引きが曖昧でも構わないかもしれませんが、「役員・従業員承継」や「社外への引継ぎ」ではマイナス要因になりかねません。

さらに、経営者に相続が発生した場合、事業のために利用している土地の扱いが大きな問題になります。相続人に納税資金がない場合、その土地を処分せざるを得なくなったりすると、事業の継続に支障が生じかねません。また、相続人同士の資産分割において、事業のために利用している土地をどうするか、揉めた場合も同じです。

なお、事業のために利用している土地は、相続税評価額が減額される「特定事業用宅地等の特例」があります。これが適用されると土地の面積が400㎡までは相続税評価額が80%減額されます。

対象になるのは、亡くなった経営者が個人事業を営んでいたときの事業用の土地(「特定事業用宅地等」)、または自身がオーナーだった同族企業に貸し付けていた事業用の土地(「特定同族会社事業用宅地等」)です。ただし賃貸アパートや貸駐車場など貸付事業に使用していた土地はこれらに当たらず、「貸付事業用宅地等」として相続税評価額の減額割合等が少なくなります。

相続においてこうした特例が適用されるかどうかも、あらかじめ検討しておく必要があります。

まとめ

中小企業の不動産戦略には、以上のように事業活動、財務会計、不動産活用、事業承継と相続といったいくつもの視点が関係してきます。

自社の経営を安定させ、さらに発展させていくため、不動産をどのように扱うか、中長期的な視点で取り組んでいくことが大事です。

 
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著者

株式会社ボルテックス 100年企業戦略研究所

1社でも多くの100年企業を創出するために。
ボルテックスのシンクタンク『100年企業戦略研究所』は、長寿企業の事業継続性に関する
調査・分析をはじめ、「東京」の強みやその将来性について独自の研究を続けています。

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