企業はどのように不動産と向き合うべきか?
-企業価値を高める不動産との関わり方【セミナーレポート】

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目次

本記事は、不動産経済学の第一人者である日本大学教授・東京大学特任教授 清水千弘氏にご登壇いただいたセミナー(2021年12月17日開催)のレポートです。「取引費用」「ESG」「企業不動産戦略」など皆様の関心が高い話題を取り上げながら、「企業はどのように不動産と向き合うべきか?」というテーマで、最新の研究成果に基づいた解説を行っていただきました。

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不動産市場展望~生き残る都市

取引費用と都市への集積

あらゆる経済活動には、取引費用が発生します。
取引費用とは、取引を行う際にかかる費用で、商品を見定める労力や手間、値段交渉などの心理的な負担まで含まれます。
この取引費用を節約するためには、どうしたらよいのでしょうか。
実は、都心に住む、都心でオフィスを構えるということが1つの鍵になります。

人々が利便性の高いところで財やサービスを購入する、もしくは立地がよい企業へ就業するのは、取引費用が小さいためです。
世界的な傾向として、企業が都市の中心に集まってくる現象が見られるのも、取引費用を小さくすることによって、多種多様な人たちの集客や優れた人材の採用が可能となるからです。そして、色々な企業が集まることによる相乗効果で、集積の利益も期待できます。

企業が取引費用を節約しようとすると、都市中心部の立地を選ぶことになり、土地の値段、地代が高くなります。それでも、経営者が都市の中心を選択するのは、そこに人やモノを集積させる魅力があるからだといえます。

企業経営者は、さまざまな取引コストの最小化を目指し、また労働力を適正に調達していくことになります。

不動産は耐久性を有する

企業というのは永続的に成長していくことが前提になりますが、一方で不動産は耐久性を持つもの、つまり寿命があるものです。今は新築のビルでも時間が経つと徐々に劣化していきます。それを抑えるために長期修繕計画を作りしっかりメンテナンスをすれば、不動産は50年、60年、70年、私たちの寿命を超えて100年、150年と半永続的に存在することができます。つまり、利益を生み続けることができます。
一般の人にはこれらのメンテナンスは難しいので、プロとして物件の購入に関わるだけでなく、購入後のメンテナンスを繰り返しながら、不動産の収益を維持してくれる会社にこそ介在価値があります。

短期的な視野ではなく、長期的な視野で企業のライフサイクルと不動産のライフサイクルを見ながら最適な状態へと導いていくことこそが、重要であると考えます。

所有すべきか、借りるべきか

 企業として不動産を所有すべきなのか、借りるべきなのか、このこと1つとっても、単純に決めることはできません。不動産に関すること全部を自前でやろうとすると難しくなるので、どこを内製化し、どこをアウトソース化するのかについて考えていきましょう。
オフィスを持つことは、さまざまなコストを持つことでもあります。明確なコストとして初期の投資があり、借り入れをすれば利子費用もかかり、固定資産税も払う必要があります。また、もし価格が下がれば損失も出てしまいます。これらのコストを自分で持ち続けるのか、またはアウトソース化して借りる方にまわるのか、またそのハイブリットのような、ある拠点については借りて、価値が落ちないところについては所有しておこうという考えも出てくるかと思います。

企業不動産戦略と外部性

不動産担保があれば、企業融資が受けやすく、金融市場との距離が非常に近くなります。
一方、間違った不動産を持つと、その企業はさまざまなリスクに晒されます。景観に関する規制が強化された昨今、景観を損なうような不動産を持ってしまうと、そのコストを負担しなければならなくなります。「あんな酷い不動産を放置している企業なのか」といわれ、レピュテーションリスクに晒されることも考えられます。
また、正しい情報を得られずに購入した不動産に、アスベストや土壌汚染の問題が出てきてしまうと、企業のリスクとして経営にも影響を及ぼします。

逆に丸の内、大手町、または日本橋に不動産を持っているというだけで、企業のブランド価値が高まることもあるでしょう。
不動産をいかに持つのか、企業にとって不動産戦略は非常に重要であるものの、情報を持たない企業がリスクを回避することが難しいため、プロによって選別された安全な資産を持つことが重要になってきます。

環境への配慮とは何か

現在そして未来において、私たちが配慮しなければならない要素、そしてリスクにもなりうる「環境」についてお話ししたいと思います。
環境配慮と不動産投資を語るうえで欠かせない、ポール・マクナマラ氏をご存知でしょうか。彼は、元国連事務総長のコフィ・アナン氏が立ち上げた国連環境計画・金融イニシアチブ(UNEPFI)というプロジェクトで、持続可能性の高い社会をどう実現していくのか、そのときに不動産市場はどのように向き合っていくべきなのか、将来においても成長し続けることができる企業、国家、そして地球であるために何を考えなければいけないのか、という提言をまとめたときの共同議長を務めました。

その不動産ワーキング・グループによって推進されている「責任ある不動産投資(Responsible Property Investing)」に対して、世界中の金融機関が署名を始めています。
この署名によって、金融機関は融資や投資を行う際に、ESGに取り組んでいる企業を優先することになり、企業の行動変化が起こっています。

責任ある不動産投資

米国のスターバックスコーヒーは、環境に配慮した場所にしか店舗を出さないと宣言しました。彼らは消費者に向き合い、将来、人々が環境への配慮をしていない店舗では商品を買わない選択をすることを予見し、このような決断をしたのです。

これにより、環境に配慮した不動産とそうでない不動産で、家賃の変化が起こり始めます。
直近であれば、感染症対策を行っているビルとそうでないビルによって、家賃の変化が起こってきているのと同じです。

不動産価格の決まり方について、家賃と割引率を使って現在価値に割り戻すという手法があります。例えば家賃100万円のものを2%で割り戻すと現在価値が計算できます。

持続可能性と企業不動産戦略


これは分子が大きくなれば価格が上がる、つまり家賃が上がれば価格が上がるということで、分母が下がれば価格は上がるし、分母が上がれば価格が下がるということにもなります。環境に配慮していると、家賃を高く設定できることと、売りやすくなるということも分かってきました。売りやすいというのは、分母が下がるということを意味しています。

不動産は立地だけでなく、環境配慮がどこまでされているのかという要素も、投資先の選別において極めて重要になってきます。

グローバル・コンパクトという人権、労働、環境、腐敗防止の4分野にわたる原理原則があります。
これまでに世界約160カ国の1万3,000を超える団体が、この提言に署名をしてきました。
この事実をもって、経営者は何を考えなければならないのでしょうか。
環境への配慮を行うことによって、今持っている資産価値が上がるかもしれないし、または配慮を欠くと暴落してしまうことが予見されます。

最近、地方銀行は、金融庁または日本銀行から、気候変動へのリスクコントロールに関するレポート提出を要請されています。
例えば、インフラが脆弱な場所にあるローン付の不動産について、これまで金融機関は地震災害に対するリスクをメインに考えればよかったところが、気候変動によって災害が激化し、豪雨による洪水・浸水リスク、強風や竜巻などのリスクについても考える必要が出てきました。災害により価値が毀損すると、金融機関はリスクを持つことになるので、これらを全部洗いだして報告するように、という趣旨です。

皆様がお持ちの不動産がどういうところに立地しているのか、リスクに対する備えは大丈夫なのか、ぜひ考えてみていただきたいと思います。

これから都市がどうなっていくのか

東京はどのように集積していくのでしょうか。
東京には、丸の内や大手町または日本橋というような頂点があります、日本の頂点だと思ってもいいかもしれません。中心にオフィスがあって、中心から離れれば離れるほど、集積や生産性は下がっていき、その境界に住宅が生まれていきます。

人口減少や高齢化によって縮退が起きた場合、同じ形で縮退しいていくのかどうかを大型コンピューターとビッグデータを使って、シミュレーションしました。
その結果、ストロング・アグラメレイションと呼ばれる、各ターミナルの中心、都市であれば集積の中心が狭くなっていき、そして縦に高くなっていく、このような形になっていくということが分かってきました。

東京はどのように集積していくのか?

集積がある地方に行っても、郊外であっても同じようなモノの消費はできますが、特別な消費ができるところというのは、やはり東京の中心にしかありません。中心にしかないから、そこに集まるしかない。これは私たちが幸せに生活をしたいという気持ち、そして企業がより高い利潤を得たいというモチベーションがある限り、この集積を止めることはできません。

我々の見ている世界とは違う、データを通さないと見えない世界があります。このデータを通さないと見えない世界は何を意味しているのでしょうか。そこから潜在的な価値を見出すのが、ビッグデータの役割であると思っています。

今回の内容を参考にしていただき、皆様の企業が持続的に成長できる形で、正しく不動産と向き合っていただければと思います。

著者

清水 千弘

一橋大学教授・麗澤大学国際総合研究機構副機構長

1967年岐阜県大垣市生まれ。東京工業大学大学院理工学研究科博士後期課程中退、東京大学大学院新領域創成科学研究科博士(環境学)。麗澤大学教授、日本大学教授、東京大学特任教授を経て現職。また、財団法人日本不動産研究所研究員、株式会社リクルート住宅総合研究所主任研究員、キャノングローバル戦略研究所主席研究員、金融庁金融研究センター特別研究官などの研究機関にも従事。専門は指数理論、ビッグデータ解析、不動産経済学。主な著書に『不動産市場分析』(単著)、『市場分析のための統計学入門』(単著)、『不動産市場の計量経済分析』(共著)、『不動産テック』(編著)、『Property Price Index』(共著)など。 マサチューセッツ工科大学不動産研究センター研究員、総務省統計委員会臨時委員を務める。米国不動産カウンセラー協会メンバー。

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