高齢化にチャンスあり!?「介護ビジネス」参入のポイント
~本業にプラスワンで売上アップ「会社の副業」ガイド[第2回]

知名度の高い企業のなかには、業種の異なる複数の事業を展開したうえで、それぞれを法人化していることがあります。グループの力をまとめることで勢力を増大させ、大企業としての存在感を確かなものにしているのです。

しかし、大企業でなくとも他業種で新規事業を検討する価値は十分にあります。リスク分散や節税に繋がることはもちろん、ビジネスチャンスの増大という相乗効果も期待できるからです。

本連載では、他業種で新規事業を検討する中小企業に向けて、様々な業界の概況や事業開始までのポイントを解説していきます。今回、ご紹介するのは「介護業界」です。

現在の「介護業界」を取り巻く状況は?

厚生労働省が行った「平成28年度 介護保険事業状況報告」によると、2016年の介護業界の市場規模は9.2兆円。成長率は前年に比べ1%増となっています。

また内閣府の「令和元年版高齢社会白書(全体版)」によると、日本の総人口は平成30年(2018年)10月1日現在で1億2,644万人。そのうち65歳以上の人口は3,558万人にも及び、高齢化率は28.1%になっています。

世界的な基準において、65歳以上の人口割合が全体の21%以上を占める社会を「超高齢社会」と呼びますが、日本は2007年に21%を突破しています。そして2025年には30%の大台に乗る見込みといわれています。

なお65歳以上の人口のピークは2042年と推測され、その後は減少に転じると推計されています。しかし総人口も減少していくので、高齢化率は上昇を続け、2065年には38.4%に達すると推計されています。

[図表1] 高齢化の推移と将来推計

高齢化の推移と将来推計

内閣府「令和元年版高齢社会白書(全体版)」4ページのデータを基に株式会社ボルテックス100年企業戦略研究所が作成

「介護業界は、数少ない成長産業である」という見方は、こうした国内の状況を背景に急速に浸透しました。2000年以降、大手企業が続々と介護業界へ参入し、上場したという事実もあります。

一方でここ数年、以下のような業界の状況から、「介護業界は儲からない」「想像以上に厳しい」という声が囁かれています。

・相次ぐ介護保険制度改正で、施設に支払われる介護報酬が減少している

・慢性的な人材不足に苦しんでいる

・利用者の健康や命を預かるという業務内容上、ひとつの不祥事が致命的な打撃となりかねない

・介護施設が増加した結果、空室問題を抱える施設が増えている

・法規制の厳しい業界で、新風を吹き込みにくい

介護業界は政策の影響を受けやすい業界です。介護施設は利用者の払う費用だけでなく、国から支払われる介護報酬も財源としています。過去の介護保険法改正では、分配される介護報酬の額が減少し、既存の施設は大きな打撃を受けました。介護保険法は3年ごとに改正されているため、今後、高齢化が進むにつれて、社会や政策の変化にも適応していかねばなりません。

また介護業界は、慢性的な人材不足に苦しんでいます。過酷な労働状況や内容に加え、介護施設の急増により、人材の流動が激化しています。

このように、介護業界は「成長産業だから」という思いだけで参入して成功できるほど、甘い業界ではないようです。

介護業界で成功するために押さえておくべき、3つのポイント

ではもし本気で介護業界への参入を検討するのであれば、どのようなことを留意すべきなのでしょうか。

1.蓄積したノウハウを介護業に活かす

介護施設にはいくつかの種類がありますが、「特別養護老人ホーム」「介護老人保健施設」といった形態は、そもそも民間企業の参入が許されていません。またいわゆる「サービス付き高齢者住宅(サ高住)」や「住宅型有料老人ホーム」は設備投資費用が高額で、介護報酬も不適用です。中小企業が業界参入を目指すなら「訪問介護」あるいは「通所介護」、「介護付き有料老人ホーム」といった業態に絞り込んでいくといいでしょう。

[図表2]公的・民間の介護施設と介護サービス

公的・民間の介護施設と介護サービス
そして、自社の本業をできるだけ活かす方法を考えると良いでしょう。たとえば介護業界に参入した外食産業は「おいしい食事」をセールスポイントに掲げました。またある建設会社は「高齢者が住みやすい施設」を強くアピールしています。こうしたアプローチであれば他施設と差別化ができ、運営にもプラスに働くでしょう。

2025年には団塊の世代が後期高齢者となり、介護職員がますます不足する恐れがあると指摘されています。2018年の介護保険法改正では、訪問介護による生活援助サービスをホームヘルパーでなくても提供できるよう資格要件を緩和して機能を分化し、人材を有効活用することや、センサーなどで見守りを行う介護ロボットの導入を介護報酬の加算対象とすることが規定されました。介護ビジネスへの進出は施設の運営だけではなく、自社のノウハウや技術を使って、新たな介護サービスを生み出すという方法もあります。

2.市場調査と営業力の強化は必須

他業種と同じく、開業にあたっては商圏分析と市場調査は必須です。「要介護認定者は、商圏内にどれくらいいるか」、「商圏内にライバルとなる施設はあるか」、「そもそも市場開拓の余地は残されているか」など、綿密な分析を欠かさないようにしましょう。

また専任の営業スタッフは、必ず確保しましょう。一般家庭への営業はもちろん、地域包括支援センターなどに在籍するケアマネージャーとの関係構築は重要です。一度だけでなく何度も訪問を重ねることで、ケアマネージャーに施設の特徴と利点を理解してもらい、信頼関係を得ることができれば、自社のサービスに合う利用者のへの紹介を望めるようになるでしょう。

3.待遇はもちろん採用にも適切な基準を

介護業界の最大の課題は「人材の定着率を上げること」といわれています。そのためにスタッフを大切にし、待遇をきちんと整えることが重要です。

対策としては「フルタイムだけでなくパートや派遣など、さまざまな就労形態を認め、各人の負担を軽減する」「中高年や外国人採用を積極的に検討する」「IT設備を活用し、スタッフの事務的な作業を減らす」などが挙げられます。

また面接の際は、応募者の人間性を見極める努力を怠ってはいけません。介護業界では人材不足のあまり、きちんと人柄を確認しないまま採用に至るケースが目立ちます。

たとえばハローワークの職業訓練を経てヘルパー資格を取得し、面接に応募してきたとします。こうした人材の採用には助成金が支給されるので、審査はつい甘くなりがちです。

応募書類を確認する際には、職歴などにもきちんと目を通すことが大切です。売り手市場の状況においても健全な採用活動を徹底することは、職場内の人間関係を良好に保ち、スタッフの定着率向上にも繋がります。

まとめ

介護事業は介護保険制度による報酬を受けるため、地方自治体の手続きが必要となります。その内容は提供するサービスにより異なり、また法改正による変更もあるため、かなり煩雑です。さらに、申請のためには法人格が必要となるなど、準備や手続きに時間がかかることもあります。そして利用者の健康や命を預かる仕事であるため、何よりもクリーンな経営が求められます。これらを踏まえたうえで、介護事業が自社の新規事業に適しているか、あらかじめシミュレートしておくことが大切です。

 

著者

株式会社ボルテックス 100年企業戦略研究所

1社でも多くの100年企業を創出するために。 ボルテックスのシンクタンク『100年企業戦略研究所』は、長寿企業の事業継続性に関する 調査・分析をはじめ、「東京」の強みやその将来性について独自の研究を続けています。

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