地域を思う力が、とてつもない再生劇を生む
〜起業家精神を重んじる商店街の地域創生〜

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目次

大半の店がシャッターを下ろし、活気を失った新潟市内の旧(ぬっ)(たり)市場通り。地元を思う人々の手により「沼垂テラス商店街」として生まれ変わった結果、起業家精神あふれる新規出店希望者が引きも切らない、人気スポットに変貌しました。この再生劇を導いた株式会社テラスオフィスの専務取締役・高岡はつえ氏にお話を伺いました。

街の魅力を確信してシャッター通りから復活に寄与

一度耳にすれば確実に記憶に残る地名、沼垂(ぬったり)。JR新潟駅から徒歩20分ほど。この場所でレトロな商店街、沼垂テラス商店街がいま大きく花開いています。
年季の入った昭和レトロな建物を活かしつつ、それぞれに個性を発揮したカフェや居酒屋、雑貨店など24の店が、約200メートルの市場通りに立ち並ぶ商店街。いまやイベント開催時には平均2,000人、多いときには4,000人もの客を集める新潟市内の人気エリアです。

しかし時計の針を10年ほど前に戻せば、営業している店はわずか6店という、全国各地で問題になっているシャッター通りの一つでした。その沼垂がなぜ再生を遂げたのか。きっかけは2010年でした。

「このままでは個人商店はやっていけなくなる」。もともと、この場所で大衆割烹店の二代目店主として活躍していた田村寛氏は、自分の住んでいる街が年々寂れていくのを目の当たりにし、危機感を覚えました。街に活気を取り戻すために新たな取り組みをしなければならないと決意した田村氏は、店の向かい側の長屋の一画を借りて、ソフトクリームと手づくりデリの小さな店を開きます。田村氏の実姉であり、商店街の店舗の管理・運営を行うテラスオフィス専務取締役の高岡はつえ氏は言います。

「デリの店がオープンした翌年には家具とコーヒーの店がオープンし、店に客として来ていた方がその翌年に陶芸工房を出店しました。3つの店が立て続けにオープンしたことでメディアに取り上げられる機会が一気に増えたんですね。すると、若い世代を中心に『この場所に店を出すことができるのか』という問い合わせが相次ぎました」

ここはただのシャッター通りではない。人が店を出したくなる魅力、人を呼び込む磁力がある。そう確信した田村氏でしたが、大きな壁に直面します。当時、市場通りの店を管理する市場組合は、組織の高齢化が著しく、事務管理能力が低下していました。さらに問題だったのが出店できるのは原則、組合員のみという規約でした。特例として、組合員以外が出店できる店舗に上限があり、先述の3店舗はその中でどうにか許されたぎりぎりの出店であり、いわば例外でした。このままでは今後、新規出店はかなわず、盛り上がってきた機運に水を差すことは確実です。

ではどうするか。田村氏は長屋の土地建物の一括買い上げを構想し、動き始めます。このとき実務面をサポートしたのが高岡氏でした。二人は金融機関から数千万円の融資を受けるべく事業計画を練り始めます。

「かなり高いハードルでしたが、田村が初代から受け継ぎ、延べ半世紀にわたって大衆割烹店をやってきていること、その店起点の街づくりであることが信用につながり、無事に融資がおりました。当時は、安倍政権下で地域創生の取り組みが進んでいたというタイミングもよかったですね」

こうして2014年3月に長屋は市場組合からすべて買い上げられ、商店街の管理と運営を担う株式会社テラスオフィスが誕生しました。

起業家精神を持つ各店主が個性を磨く、レトロモダン商店街

新たな運営母体が立ち上がり、新規出店を受け入れる土台が整ったところで、テラスオフィスは沼垂テラス商店街のコンセプトを明確に打ち出しました。
「ここでしか出会えないモノ・ヒト・空間」。このコンセプトに込められた思いを高岡氏はこう話します。

「新潟駅からも遠く、市街地の中心からはずれた沼垂にわざわざ行きたいと思ってもらうには、多少不便であってもここでしか出会えないモノ、それをつくり出す魅力的なヒト、そのヒトたちが演出するほかにはない独特の空間を提供することが不可欠だと考えました」

このコンセプトが慎重に守られていることは、店舗の顔ぶれからも明らかです。糸とビーズでつくるハンドメイドのアクセサリーや小物の店、手づくり家具や犬用おやつの店、とんぼ玉作りを体験できるガラス工房。業種が同じ店はあっても、それぞれが独自性に磨きをかけ、ファンを育てています。人と人との濃厚な接点であるカフェや居酒屋が24店中6店あるのも象徴的です。

店の規模もさまざまです。間口3メートル(おおよそ小さなシャッター2枚分)、奥行き3メートルの空間がこのテラスでもっとも基本的なサイズですが、シャッターを4枚分有している店舗もあれば、8枚分の広々とした空間で営業している店舗もあります。店によって外観や内装は異なるのに、全体としてレトロモダンな雰囲気が保たれているのはテラスオフィスの運営方針にブレがない証左でしょう。

出店の問い合わせが多い中、同社では業種のバランスだけではなく、出店希望者と面談を重ねる中で、現実的なビジネスプランや起業するエネルギーを持ち合わせているか否かも確認しています。

「店を継続していくのは大変なことです。沼垂テラスのブランドに依存するだけでは続きませんから、起業家精神でやっていただきたいんです」

店と店、店と人、店と土地が有機的につながっている沼垂テラス商店街には成長を後押しする気風も満ちているようです。

かつての旧沼垂市場(上)と現在の沼垂テラス商店街(下)の様子

空き物件のマッチングによって地域の魅力を加速させる

活性化の波及効果は周辺にも広がっています。出店が順調に続き、長屋の空き店舗がなくなった2015年末、商店街近くにお住まいのオーナーから寄せられた「うちの空き物件も活用してもらえないか」という相談を機に、サテライト店舗という位置づけの「沼垂テラス・エフ」が続々と誕生しています。

「サテライトといっても沼垂テラス商店街から歩いて3、4分の場所にある空き店舗や古民家(空き家)ですが、ゲストハウスや靴の修理店、焼き菓子の店、シャンプーとシェービングの店など、1年に1店舗のペースでオープンしています。オーナーさんと家賃交渉をした上で弊社が店舗を借り受け、それを店主にサブリースしている形です」

なかなか借り手が見つからなかった物件が、沼垂テラス商店街の実績や魅力を背景に新たな物件として生まれ変わる。テラスオフィスは埋もれがちな物件と店を始めたい人とをマッチングする役割も果たし、沼垂という土地に新たな魅力を付加しています。

毎月イベントを開催し、朝市の開催時には、新潟市内外から特別出店者を募ってイベントを盛り上げるなど、活気づいている沼垂テラス商店街。しかし、まだまだ課題は多いと高岡氏は言います。

「新潟は車社会なので本当は駐車場を設けたいところです。ただ、お客様は徒歩やシェアサイクル、バスなどを使って来ていただいていますし、近隣の駐車場を使われている方もいます。大きな駐車場を設けることが沼垂テラス商店街にふさわしいのかどうか。悩ましい問題ですね」

郊外のショッピングモールのような大型の駐車場がないからこそ、沼垂らしさが残り、沼垂らしい風景を感じられる。そんな街に魅力を感じて住みたいと思う人が増えれば駐車場問題は解決できるのかもしれません。絶対の正解がない中、これからもテラスオフィスは沼垂に一番しっくりくる形を追求していくはずです。

最後に地域創生に挑む中小企業経営者へのメッセージをお聞きしました。

「街づくりは自分ごと。自分が住んでいる場所を心地よくしていくことこそが、街の活性化に直結するのではないでしょうか」

自分が暮らす街の魅力は何か。欠点があっても余りある魅力をいかに強め、付与していくか。このアプローチの有効性を沼垂テラス商店街の再生の歴史は物語っています。

お話を聞いた方

高岡 はつえ 氏(たかおか はつえ)

株式会社テラスオフィス 統括マネージャー

銀行・貿易会社勤務を経て、実弟でありテラスオフィス代表の田村寛氏よりビジネスパートナーとしての誘いを受け、同社に入社。2015年4月、旧沼垂市場通りを再生し、「沼垂テラス商店街」を誕生させて以来、二人三脚で商店街運営や地域活性化に携わる。同商店街は2016年1月、地域活性化に挑む団体を支援する「地域再生大賞」の準大賞を、2017年10月には、「2017年度グッドデザイン賞」を受賞している。

[編集] 一般社団法人100年企業戦略研究所
[企画・制作協力]東洋経済新報社ブランドスタジオ

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