選ばれる企業だけが知っている事業活性化の条件
~まちビジネス事業家の地方創生論〔前編〕~

「選ばれる企業だけが知っている事業活性化の条件<br>~まちビジネス事業家の地方創生論〔前編〕~」のアイキャッチ画像

目次

地方創生が叫ばれているにもかかわらず、今も地方の過疎化は止まりません。若者の都市部流出を防ぎ、活性化させるにはどうすればよいのか。高校在学時から地域活性化事業に取り組む、まちビジネス事業家の木下斉氏に2回にわたりお聞きしました。

欧州には首都より所得が高い地域がある

2014年制定の地方創生戦略で、国は「2020年までに東京圏の転入超過数をゼロにする」という目標を掲げ、移住促進に取り組みました。しかし、結果的に地域の人口流出は止まらず、政策の見直しが行われる事態となりました。

その後、コロナ禍で東京を転出する人が増加したと話題になりましたが、転出といっても千葉、埼玉、神奈川など東京経済圏内への移住が多く、落ち着いてきた今は再び東京への流入者が増えているといいます。

この事態を打開するには、私は、もっと地域の産業が稼ぐ仕組みをつくることが必要だと考えます。

ヨーロッパには首都圏よりも一人当たりの所得が高い地域がたくさんあります。それも大企業ではなく、中小企業が地元を支えているのです。フランスのシャンパンの産地・エペルネはその典型。人口2万5,000人にも満たない小さな町ですが、国内で一、二を争う所得の高さで知られています。新型コロナウイルス感染拡大の最中でも売り上げを伸ばし、過去最高7,000億円を超える出荷額に達しています。わずか約2万5,000人の町に本社が立ち並び、それらの企業群でこれだけの輸出産業になるのですから、すごいことです。

なぜ、それほど高所得かというと「土地」が持つ付加価値を最大限に活用しているからです。シャンパンとはシャンパーニュ地方で栽培されたぶどうを、その土地で醸造し、ボトリングしたものしか呼称できないわけです。海外で生産委託などしたらシャンパンとは呼べないことになっています。国も法律で生産地呼称を保護しつつ、中小200社以上が品質競争をすることで、世界的に有名なブランドをつくり上げたのです。しかもすべての生産工程が地元で完結するため、付加価値のほとんどが地元に落ちます。これは国際分業が進んだ機械工業などでは不可能な地域の富の稼ぎ方といえます。

一方の日本は、安くたくさん売る方向へと舵を切ってしまった。長寿企業が多く、伝統や技術があるにもかかわらず、それらを活かして高い付加価値が担保されるような政策や取り組みがなされてこなかったのです。

たしかに、人口が増加し、ものが不足している時代は安くてたくさん売ることが重要であり、地方はその役目を担っていました。しかし、社会が成熟して文化や希少性が重視される時代に入っても、高度経済成長期のようなイメージのまま事業に取り組んでいたのでは時代遅れです。地方は価値が低く、淘汰されていくものだという固定観念に侵されて、子どもを東京の大学や企業に行かせる人が少なくないように思います。

時代に合わせた付加価値を打ち出す

「地方創生」という言葉が生まれる前から、地元の価値を見出し、地元産業の活性化に取り組んできた地域もあります。

福井県鯖江市もその一つ。眼鏡の産地として有名ですが、昨今は眼鏡部品の微細な加工技術を応用した医療関連機器の製造で注目を浴びています。

話を聞くと、鯖江にも人が流出する時代がありました。かつて学校では教師が「成績が悪いと眼鏡の仕事に就くしかないぞ」と言っていたそうです。まさに、地域産業は駄目だ、という「価値観の植え付け」です。そのような中で、地域のためにも、東京に出るより地場の会社を継がせるべきだと考えた先代たちは、そうした進路指導に反論。これをきっかけに技術がきちんと受け継がれるようになり、のちに鯖江の技術が研究者の目に留まり、新たな付加価値が生まれたのです。今ではその医療機器関連に大手企業が参画し、多様な人材が集まる地域として成長しました。

不況の中で業種を変えたり、新しい取り組みに挑戦したりすることは不安をともないます。かといって一貫して同じことだけを続けている長寿企業はほとんどありません。

逆に「先祖伝来」を大事にしすぎて屋号を失うケースが少なくないのです。私は高校1年生の頃に東京・早稲田の商店街活性化に取り組んで以来、各地の地域商業に関わってきましたが、それが原因で潰れた店をたくさん見てきました。

たとえば「不況のときはじっと我慢しろ」という家訓を守った店。景気にはサイクルがあり、どのような不況もいずれ落ち着くので、それまで我慢しろというものです。商売が地域の内需だけで成り立っていた時代は、それも有効だったのでしょう。しかし人口は減り、自動車で移動ができるようになり、インターネットでものが買えるなど競争は激しくなる中で、牧歌的な内需相手の商売は成り立たなくなりました。

企業を存続させるには、核となる強みを生かしながら、時代に合わせて新しいビジネスモデルを打ち出していくことが大切です。実際、いつまでも年寄り社長が居座り、子どもが万年専務を務めるような会社よりも、子どもが20〜30代のうちに事業承継し、「親父のやり方じゃ駄目だ」などと、時には親子の意見が対立する会社のほうが伸びます。

若い人たちが魅力を感じる職場づくりを

年の若い経営者ほど新しい取り組みに挑戦する傾向にあることは、中小企業庁のレポートでも報告されています。

ほとんどの人間は自分の寿命から逆算して物事を考えます。たとえば、寿命を80歳としたときに60歳で会社を継いだとします。そうすると、20年先の経営を想像するのが普通でしょう。しかし、30歳で継いだとしたらどうでしょう。おそらく50年後の未来まで考えるのではないでしょうか。

つまり、年齢が若いと長期的な視野で経営ができる傾向にあるのです。そして、それが組織の風土や士気の向上にもよい影響を与え、人を呼ぶ、という好循環を生みます。

熊本県上天草のシークルーズという中小企業はその好例です。今や、就職希望者が押し寄せる人気の企業となっています。それも地元だけではありません。東京や関西の大学生が就職を希望しているのです。

代表取締役の瀬崎公介さんは40代。シークルーズはもともと遊覧船やボートの免許取得といった事業を手がけてきましたが、瀬崎さんは30代で代表に就任する前からJR九州と提携して定期航路に参入するなど、革新的な事業に取り組んできました。私が参画しているグランピングサイト事業も話題です。

就労環境の整備にも力を入れていて、ラウンジがある魅力的な社宅を完備したことなどにより、先進的な社風を魅力に感じる若者が東京、関西などの有名大学の新卒組にとどまらず、大手企業からの転職組も続々と入ってきています。

今の若者はインターネットやSNSなど、さまざまな媒体とツールを駆使して就職先を選びます。業績はもちろん、社長のTwitterでの発言なども細かくチェックしています。若者たちは企業を審査しているのです。そのため瀬崎さんは自らnoteでの情報発信などを積極的に行い、採用している人材のほとんどはそれらを読み込んできています。

時代は明らかに変わりました。いまだに企業側が人を選べるという感覚でいる経営者は多く、「最近の若い者は働かないと」愚痴る人も少なくありません。しかしそれは、トップとしてよりよい人材を採用するために、必要な事業への投資、環境整備、情報発信をしているかどうか、反省したほうがよいでしょう。

宮崎の日南市にもよい例があります。一時期、日南市の地元企業は採用がうまくいかず、特に高卒の女性は福岡や東京に流出する状態が続いていました。その理由は明白で、企業が求める職場と若者たちが求める職場に乖離があったのです。若者たちは制服など着たくないし、お茶くみなんてしたくないし、ダサいスチールのデスクでは仕事をしたくないのです。そこで当時の市役所のマーケティング専門官が中心となり、東京の気鋭のスタートアップ企業のサテライトオフィスを、リノベーションした市内のビルに誘致しました。この会社は翌年には就職したい企業ランキング上位にランクイン。これによって、地元の経営者たちも自分たちのやり方の問題点に気づき、変革につながっていきました。

古い価値観を押し付けるのではなく、若い人たちがどのような仕事、職場を求めているのかを考える。商品をお客様に営業するのと同じように、採用もマーケットインで考えなくてはなりません。それが地方に人を呼ぶことになるのです。

令和に求められるリーダー企業の条件~まちビジネス事業家の地方創生論〔後編〕~

お話を聞いた方

木下 斉 氏(きのした ひとし)

まちビジネス事業家
一般社団法人 エリア・イノベーション・アライアンス 代表理事

1982年東京都生まれ。高校生時代からまちづくり事業に取り組み、2000年に全国商店街共同出資会社の社長就任。同年「IT革命」で新語流行語大賞を受賞。早稲田大学政治経済学部政治学科卒業、一橋大学大学院商学研究科修士課程修了。2009年一般社団法人エリア・イノベーション・アライアンスを設立。全国各地の地域再生会社への出資、役員を務める。『まちづくり幻想』(SBクリエイティブ)、『稼ぐまちが地方を変える』(NHK出版)、『凡人のための地域再生入門』(ダイヤモンド社)など著書多数。

[編集] 一般社団法人100年企業戦略研究所
[企画・制作協力]東洋経済新報社ブランドスタジオ

経営戦略から不動産マーケット展望まで 各分野の第一人者を招いたセミナーを開催中!

ボルテックス グループサイト

ボルテックス
東京オフィス検索
駐マップ
Vターンシップ
VRサポート
ボルテックス投資顧問
ボルテックスデジタル

登録料・年会費無料!経営に役立つ情報を配信
100年企業戦略
メンバーズ