国際不動産投資市場
7-4. 国際不動産投資の課題

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目次

国際投資資金が活発に流れ込む都市とは?

日本の不動産市場では、2017年頃から投資資金の多様性を高めようと、国際不動産投資への関心が高まってきました。「ホーム・カントリー・バイアス」「ナショナリティ・バイアス」を分析する研究を進めていく過程で、国際不動産投資市場では買い手の国籍が100カ国ぐらいありました。そのうちロンドンには60カ国ぐらい、ニューヨークには50カ国ぐらいのお金が入ってきていました。しかし、日本には20数カ国しか入っていませんでした。

2008年のリーマンショックの時に何が起こったのか。日本から海外の資金が一気に出ていき、市場が崩れてしまった。その時にロンドンやニューヨークでは、出ていくお金もあったが、入ってくるお金もありました。

国際不動産投資市場7-1で、「シンガポールは国際都市であるため、国内の資金需要がなくなっても、海外からお金が入ってきて、不動産市場が崩れることはない」という見方を紹介しましたが、その効果がある国とない国があるのです。日本は、その効果が限定的な国です。

シンガポール国立大学で論文を発表した2015年当時、私たちの研究チームは批判を受けました。しかし、シンガポールも、アメリカ、ヨーロッパから物理的な距離が非常に遠いので、海外の資金は入ってきていると言っても限定的だったのです。私たちへの批判は間違いだったと言えます。

日本も海外からの投資資金が入ってくると考えるのは間違いでしょう。日本に入っている投資資金も限定的であり、国際投資資金が活発に動いている街は、ロンドン・パリ・ニューヨーク・ロサンゼルスといった、一部のスーパースターシティに限られるのです。

シンガポールの投資戦略とドバイの不動産市場

国際不動産投資を展開しているGIC(シンガポール政府投資公社)のポートフォリオを見てみましょう。2015年頃には、40カ国、350物件ぐらいの不動産に投資していました。この頃に、GICでは、投資先の見直しを行い、「Bottom-up value-investing approach」という考え方に変えつつありました。

従来は、鳥瞰的にアメリカにいくら、ヨーロッパにいくら、アジアにいくらというポートフォリオの組み方で投資していました。いわゆる有効フロンティアに基づくポートフォリオ理論で投資してきたわけですが、やはり1件1件の不動産を精査して良い物件に対して投資していく方針に変えたのです。2015年はGICにとって投資の転換期で、一旦保有物件を見直して、2016年から積極的な投資を再開しました。

2004年から2010年のポートフォリオの地域別構成を見ると、アメリカが9.9%、アジア・パシフィックが35.5%、そしてヨーロッパが54.7%でした。2015年の見直しで、結果的にアメリカのポートフォリオは大きくなり、アジア・パシフィック、ヨーロッパは少なくなりました。

私はアラブ首長国連邦の都市ドバイで、国土交通省に相当する役所の技術顧問を務めたことがあります。ドバイでも、リーマンショックの時に一気に海外資金が抜けてボラティリティが上昇し、不動産開発が止まって苦しんだ経験があります。それを克服するためにドバイでは、将来的にREIT(不動産投資信託)市場を作ろうと考え、インターネットの地図上に売り出し物件がプロットされ、取引価格も見られる環境を整えていました。

この地図を見ると、売り出し物件があるのは開発区域の一部で、この周辺では取引がありますが、旧市街地ではまったく取引がありません。一方で、賃貸物件の地図を見ると、ドバイ市内に広く物件が表示され、取引が行われている。自由に売買できる不動産は限られているが、賃貸物件は旧市街地も含めて全域にあります。

ドバイがあるアラブ首長国連邦では、友好国間での不動産取引は自由に認められていますが、それ以外の国に対して不動産の売買を禁じています。これを「フリーホールド(不動産所有権)」「リースホールド(不動産賃借権)」といいますが、その国の文化によって所有権がある場合とない場合があります。ドバイの場合、賃借権は存在するけど、自由に売買できないのです。

オイルマネーに依存したカタールの国際不動産投資戦略

同じアラブに位置するカタール投資庁も、アラブ首長国連邦のアブダビ投資庁と同様にグローバルに不動産投資を行い、年々取得額を増やしています。カタールのポートフォリオを見ると、オフィスが52%、ホテル23%、不動産開発10%、リテール(商業施設)10%、アパートメント5%となっています。

これまでの投資行動を見ると、当初はオフィスからスタートし、2013年にホテルを買収し、2014年からアパートメントを増やしていましたが、オフィスを安定的に買っていることも分かります。代表的な投資物件には、ロンドンのサボイホテル、シャード、ハロッズデパートメント、オリンピックビレッジ、HSBCタワーなどがあります。

彼らの投資行動を見る時には、原油価格が重要になります。原油の価格が上がって投資資金が潤沢になった時には投資しやすくなり、下がった時にはブレーキが掛かる傾向があるので、原油価格の動向はよく見ていく必要があります。

彼らは国家戦略として不動産投資を行っており、オイルマネーが潤沢であるうちに将来を見据えて投資を行っています。国内市場に投資対象として相応しい物件が見当たらなければ、海外の成熟した不動産市場へと投資対象を広げてきたいのです。

それは日本でも同じでしょう。地方都市で会社を経営して一定の資金を保有している経営者が、事業が先行きを考えた時にどう考えるか。市内では空き家がどんどん増えている。駅前の商店街も衰退し、再開発もなかなか進まない。やはり東京の不動産に投資しようと考えるでしょう。

国内に投資対象がないために国際的に不動産投資を展開しているのが、アラブ首長国連邦やカタールです。この先グローバル化が進み、国際間のハードルが低くなれば、これからますます国際不動産投資の市場規模が大きくなっていくことを期待できます。

スピーカー

清水 千弘

一橋大学教授・麗澤大学国際総合研究機構副機構長

1967年岐阜県大垣市生まれ。東京工業大学大学院理工学研究科博士後期課程中退、東京大学大学院新領域創成科学研究科博士(環境学)。麗澤大学教授、日本大学教授、東京大学特任教授を経て現職。また、財団法人日本不動産研究所研究員、株式会社リクルート住宅総合研究所主任研究員、キャノングローバル戦略研究所主席研究員、金融庁金融研究センター特別研究官などの研究機関にも従事。専門は指数理論、ビッグデータ解析、不動産経済学。主な著書に『不動産市場分析』(単著)、『市場分析のための統計学入門』(単著)、『不動産市場の計量経済分析』(共著)、『不動産テック』(編著)、『Property Price Index』(共著)など。 マサチューセッツ工科大学不動産研究センター研究員、総務省統計委員会臨時委員を務める。米国不動産カウンセラー協会メンバー。

【コラム制作協力】有限会社エフプランニング 取締役 千葉利宏

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