経営者がいま読むべき本6冊 「経営のセオリー」編
目次
昨今のビジネスの現場では、つねに「イノベーション」が問われ続けています。どこに向かって、何をイノベートするべきか。みずからの思考で現場固有の課題を解決する力が求められます。ここでは、そのヒントとなる6冊をご紹介。目指すべき経営や組織、そのために必要な手法、それを支える理念など、それぞれの著者が最善とするアプローチと思考はさまざまです。課題と対峙する著者たちが導き出した答えを見ていきましょう。
①『経営は何をすべきか』
ゲイリー・ハメル著 ダイヤモンド社 2,420円(税込)
国際的に支持される経営学が導く課題解決のヒント
本書の著者は、『ウォール・ストリート・ジャーナル』において、世界ナンバーワンの経営思想家に選ばれたゲイリー・ハメル氏。シカゴに拠点をおく国際的な経営コンサルティング会社「ストラテゴス」(「将軍職」の意)の創設者であり、現在では「ロンドン・ビジネス スクール」で経営戦略論の客員教授として教鞭を執りながら、執筆活動を続けており、世界のビジネスパーソンから広い賛同を得ています。
本書では、「自分が属する組織の今後の運命を決定づける、根本的な課題」として5つの課題をあげ、それらを計5章にわたって解説しています。
第1部で、大企業は今や極めて信頼度の低い組織であるとした上で、これを正すには企業を律する「理念」が必要だと主張しています。過去の金融政策、サブプライム市場におけるCDO(債務担保証券)やCDS(クレジット・デフォルト・スワップ)、レバレッジにおける問題点などを列挙し、それら過去のトレンドを俯瞰した上で、ときには農民が持つ威厳に学び、慢心から抜け出し、高潔な精神でビジネスに臨む必要性を説きます。
また、第2部の課題には「イノベーション」をあげ、これを持続しない限り、成功したとしても束の間で終わる危険性があると説明。経済誌が選ぶ「革新的企業」のランキングや、アップル社などを分析し、「有用」なものが持つデザインに関しても言及。真のイノベーションを問います。
第3部の「適応力」では、現状維持派が、未来志向の変革よりも強大な力を持つという問題点を指摘した上で、同時に、繁栄を保つためには自己改革を持続する以外に道がないと解説。第4部では、イノベーションと変革は「情熱」から生まれるものであると定義し、続く第5部では、管理を絶対とするマネジメント・イデオロギーに警鐘を鳴らし、よりよい事業原則を実現する「イデオロギー」の必要性を説いています。
これらの課題は相互に補完し合いますが、各話題は独立しており、著者自身、1冊すべてを読破する必要はなく、気になるテーマを拾い読みするだけでも十分であると述べています。ハメル氏がつづる文章には、経済史、過去の企業活動、成功や失敗の事例などがふんだんに盛り込まれ、読者に寄り添いながら問題を提起しています。読んでいくうちに課題を解決するためのヒントが見つかるでしょう。
②『経営12カ条 経営者として貫くべきこと』
稲盛和夫著 日本経済新聞出版 1,870円(税込)
誰もが知る偉大な経営者に学ぶ、普遍的な経営思想
京セラ、第二電電(現KDDI)を創業し、その後は日本航空の再建に尽力するなど、日本経済に多大な貢献を果たした稲盛和夫氏。稲盛氏の経営理念が凝縮された本書は、氏が没した2022年8月24日の翌月に発行され、以後、ビジネスマンのみならず、多くの読者に支持されています。
「世の複雑に見える現象も、それを動かしている原理原則を解き明かすことができれば、実際には単純明快です。こうした考えの下、『どうすれば会社経営がうまくいくのか』という経営の原理原則を、私自身の経験をもとにわかりやすくまとめたのが、『経営12カ条』です」(同書「まえがき」より)
この12カ条は、稲盛氏が主宰した「盛和塾」の延べ2万6,000名におよぶ塾生に伝授され、また、日本航空の再建にあたり、その経営幹部に対しても最初に講義されたといいます。その言葉は「短く」「平易」であり、それゆえ「真」を感じます。稲盛氏は自身が理工系の出身であり、物事を本質に立ち返って考えていく習性があると鑑みた上で、「物事の本質に目を向けていくなら、むしろ経営はシンプルなものであり、その原理原則さえ会得できれば、誰もが舵取りできるものだと思うのです」と記されています。
本書の各章は「1カ条」で構成されています。第1条は「事業の目的・意義を明確にする」、第2条は「具体的な目標を立てる」、第3条は「強烈な願望を心に抱く」と続きますが、その後に続く条項には、「意志」「闘魂」「勇気」「創造」「誠実」「夢」「希望」などの語彙が込められています。
とくに第8条「燃える闘魂」では、「経営はいかなる格闘技にもまさる激しい闘争心が必要」であるとし、経営者たるもの「命を賭けて従業員と会社を守る」ため、毅然と奮い立つ姿勢を持たなければ、従業員の信頼を得ることはできないと語られています。
本書には各条項のポイントがわかる「要点」や、関連する稲盛氏の語録をまとめた「補講」も収録。12カ条を実践できているかを確認する「チェックリスト」として活用できます。また、その補講は、稲盛氏の言葉の理解を深める役割も果たします。
③『大学4年間の経営学が10時間でざっと学べる』
高橋伸夫著 KADOKAWA 660円(税込)
経営者なら知っておきたい、経営学入門の書
20年以上にわたって東京大学で教鞭を執る高橋伸夫氏。本書は講義をまとめたものにとどまらず、より幅広く高橋氏の知見が網羅され、最新のトピックスを総動員して、つづられています。その語り口調は軽く、ウィットに富み、本書タイトルのとおり、短時間で読み切ることが可能です。
すべての話題は見開きで完結し、片ページはグラフ、年表のほか、「30秒でわかるポイント!」と題したフローチャートなどの図解が記載され、ひと目で内容が把握できるよう工夫されています。
第1部は「経営組織論」からはじまります。経営学で扱われる「組織」に関する話題は、多岐にわたり、そこでは組織の構造や機能だけでなく、人間の合理性、意思決定、モチベーション、リーダーのあり方などが取り上げられます。また、組織を変革する際には、それらの要素も連動して変化することについて言及。それを意識せずに行動すると、一方がうまくいっても他方のコンディションが悪化するという危険性が示唆されています。
第2部の「経営戦略論」は、「経営戦略」「全社戦略」「競争戦略」「事業戦略」「アウトソーシング」「マーケティング」「カスタマー」「国際経営」の全8節からなります。ここでは正しい戦略を取るため、各テーマに沿って、ビジネスの現場で日常的に使用されている言葉の定義がていねいに解説され、概念、ほかの用語との違い、その言葉を用いた経済学者や、その言葉が生まれた歴史的バックグラウンドなどが明快に、興味深く説明されています。
第3部は「技術経営論」と題され、日常の仕事や作業を整理整頓するだけであっても、そこには経営や開発における成功や、イノベーションを実現するための「芽」が見つかる可能性があることに言及。日々の何気ない作業を再考する際に、着目すべきポイントが解説されています。
各節末には、それぞれの話題に関係する具体事例がコラムとして紹介されていて、各項目の理解が深まるよう構成されています。
④『両利きの経営(増補改訂版)—「二兎を追う」戦略が未来を切り拓く』
チャールズ・A・オライリーほか著 東洋経済新報社 3,080円(税込)
イノベーションで既存事業を強化しつつ、新規事業を開拓する攻めと守りの経営術。変化に適応する両利きの経営コンセプトや実践のポイントを解説。
⑤『企業価値創造を実現する 人的資本経営』
吉田寿、岩本隆著 日経BP 日本経済新聞出版 2,200円(税込)
「ヒトこそ価値の源泉」であるとし、価値創造に貢献する人財への投資の重要性を説く。SDGs、ESG時代の世界基準に対応すべく、人材マネジメントを経営に生かす一冊。
⑥『経営戦略全史』
三谷宏治著 ディスカヴァー・トゥエンティワン 3,080円(税込)
20世紀初頭から現在まで、約100年の間に登場した90余りの経営における戦略コンセプトを紹介。その数々のストーリーとともに描かれる経営戦略の書。
[編集] 一般社団法人100年企業戦略研究所
[企画・制作協力]東洋経済新報社ブランドスタジオ