金融危機と不動産市場 9-2.
金融危機(Global Financial Crisis)と不動産市場

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2008年9月15日、投資銀行のリーマン・ブラザーズ・ホールディングスの経営破綻で引き起こされた金融危機(Global Financial Crisis)、いわゆるリーマンショックがどのように起こったのか。それが不動産市場にどのような影響を及ぼしたのかを検証してみましょう。

リーマンショックの半年前、2008年3月23日のファイナンシャルタイムズ紙に、ベン・バーナンキ(Ben Bernanke)、ニューヨーク連邦準備銀行頭取兼最高経営責任者ティム・ガイトナー(Tim Geithner)、米国財務長官ハンク・ポールソン(Hank Paulson)、米国国内金融担当次官ロバート・スティール(Robert Steel)と、当時米国の金融界で非常に強い影響力を持っていた4人の顔写真が並んだ記事が掲載されました。

ベン・バーナンキは、米国のFED(連邦準備制度理事会, 日本ではFRBということが多い)の議長。日本で言えば「日本銀行総裁」に当たる方です。金融政策に重要な役割を果たした方々が登場する記事の見出しは「Mortgage rescue talks under, 住宅ローン救済交渉中」でした。

記事には「Seven days of shocks unnerve investors, 7日間続いた衝撃が投資家を不安にさせる」 という見出しも付けられ、この時には金融市場に非常に大きな影響が出ていました。さらに遡って、もっと早い段階から金融市場では変化の兆しが見えていました。

サブプライム・ショックとは何か

リーマンショックの前に、米国ではサブプライム・ショックが発生しました。2007年4月2日、サブプライムモーゲージ(住宅ローン)を手掛ける金融機関、ニュー・センチュリー・ファイナンシャル(New Century Financial)が、チャプター11という米連邦破産法を提出したのが始まりです。

金融機関の経営破綻は、最近でもテクノロジー業界に特化して金融サービスを提供してきた米シリコンバレーバンクが2023年3月10日に破綻したのを、私たちは目の当たりにしたところです。

2カ月後の2007年6月15日、格付け会社のムーディーズは、サブプライムのRMBS(Residential Mortgage Backed Securities, 住宅ローン債権担保証券)を31本、格下げします。さらに7月10日には、ムーディーズは399本の追加格下げを行い、格付け会社のS&Pは612本を格下げしました。

それから1ヶ月後の8月10日、欧州中央銀行が金融市場に対して950億円の資金供給を行い、米連邦準備理事会が240億ドル、日銀は1兆円を資金供給する事態に追い込まれました。リーマンショックの1年前に、こうしたことが起こっていたのです。

サブプライム問題が発生したメカニズム

RMBSの格下げがどのように影響を及ぼしたのか。ニュー・センチュリー・ファイナンシャルの破綻がどのように世界的な金融危機につながっていたのかを考えてみましょう。

サブプライム問題の発生には、米国のMMF(マネー・マネージメント・ファンド, 公社債投資信託)という金融商品が関わっています。MMFは制度上、格付けが最も高い商品に資産の大部分を投資しなければいけないルールとなっていました。当時、MMFは、ABCP(資産担保コマーシャルペーパー)というCDO(債務担保証券)を大量に買っていたのです。

このCDOに組み込まれていたRMBSの格下げが行われたことで、商品を持ち続けることができなくなり、金融機関は格下げされた商品を放出しました。ABCPの市場では1カ月物の商品が多かったので、MMFは借り替えに応じることが不可能になり、その結果、ABCP市場が機能停止に陥ってしまいました。この時に欧州のメガバンク、BNPパリバが2つのファンドを解約できなくなる事態が発生し、欧州でドルの需要が爆発し、欧州系銀行はABCPの流動性を支援する必要に迫られたのです。

2008年4月7日のファイナンシャルタイムズには、「IMF head calls for global help over crisis, 国際通貨基金の総裁が危機を乗り越えて世界的な支援を呼び掛ける」という見出しの記事が掲載されました。金融危機によって、どの商品にどれぐらいの損失が出るのか。リーマンショックが発生する5カ月前には報道されていたのです。

損失が見込まれる商品には、住宅ローンのほかに商業用不動産も入っており、証券化商品として商業用不動産担保ローンも含まれていました。ここから金融機関の経営破綻、そしてリーマンショックにつながっていったのです。

日本の金融・不動産市場への影響は?

日本でも、2008年から不動産建設関連企業の倒産が急増しました。2008年6月にスルガコーポレーション、7月に多田建設、8月はアーバンコーポレーションが倒産し、リーマンショック直後の10月にJ-REIT(上場不動産投資信託)のニューシティレジテンシャル投資法人も破綻しました。これらの企業は、利益が出なかったことで破綻したわけではありません。黒字であったに関わらず、運転資金が調達できずに倒産に追い込まれたのです。

アーバンコーポレーションは、負債を新たな負債に組み替えるリファイナンスに応じてもらえなかったのが原因でした。同社は不動産流動化事業を中核にビジネスを展開していましたが、投資ファンドが不動産投資を抑制するようになって売却先の目処が立たなくなったのです。

さらに、金融機関が融資を抑制するようになり、リファイナンスに応じてもらえませんでした。同社は負債が大きかったため資金がショートし、資金繰りの悪化で破綻に追い込まれたのです。直接のきっかけは、2008年8月末に借り替えに必要な100億円を調達できなかったことでした。同社が資金の調達先を分散させていたことで、救済する銀行が出てこなかったことが原因だったともいわれています。

ニューシティレジデンスも、アーバンコーポレーションと同様に、直近の決算では過去最高益を出していました。保有不動産の稼働率も高く、不動産事業は元気だったのですが、リファイナンスの資金がつかずに黒字倒産に追い込まれました。

破綻の直接のきっかけは、2008年10月の半ばに、リファイナンスに必要な45億円の協調融資を金融機関4行のうち3行は応じたものの、千葉銀行だけが応じなかったことでした。地方銀行は、事業リスクとともにスポンサーリスクを慎重に見ているために、不動産に対する融資に消極的だったといわれています。

バーゼル規制がメガバンクに及ぼした影響

メガバンクのほうが、地方銀行に比べて慎重に対応するケースもあります。その1つがバーゼル規制です。

バーゼル規制を策定しているバーゼル委員会はスイス・バーゼルに設置され、Bank for International Settlements(国際決済銀行)のBIS規制とも言われます。金融機関の健全性を担保するために金融機関の自己資本と貸出リスクの比率を決めており、このルールによって、自己資本が大きくなれば取れるリスクが増え、自己資本が圧縮すれば、取れるリスクが減ってしまいます。

自己資本は、Tier1、Tier2という階層に分かれ、金融機関が保有している有価証券などはTier2に含まれます。貸出リスクには、「オペレーションリスク」を略した「オペリスク」のほか、「市場リスク」「信用リスク」の計3つがあります。貸出金を融資案件ごとにチェックし評価するのが貸出審査です。信用リスクの評価では、貸出金のさまざまなリスクを1つ1つ評価しながらトータルにリスクを管理する必要があります。

金融危機の影響で、まず金融機関の貸出余力が低下します。不動産市況の悪化で、個別案件の審査も厳格化されます。公正価値の不在によって需給のギャップが発生します。これらの要因が重なって、不動産向け融資が縮小していったと考えられます。

アメリカの銀行に比べて、日本の銀行の自己資本の中で圧倒的に高いシェアを占めていたのが株式でした。最近では、企業の株式の持ち合いが解消されてきましたが、当時は高い比率で有価証券を保有していました。

リーマンショックのような金融危機が起こると、証券市場で株価が一気に下落し、自己資本が大きく低下しました。金融機関は自己資本比率を8%以上に保つために、貸出金の貸し剥がしを行い、リファイナンスにも応じられなかったのです。

リスク評価の精緻化を進めたバーゼルⅡ

2000年代に入って、バーゼルⅠからバーゼルⅡへと規制の枠組みが変化します。バーゼルⅠでは、自己資本比率を定義して共通の指標で各国の金融機関のリスクをそれぞれの金融当局がコントロールしていました。金融機関の自己資本とリスク資本を計測しながらルールを決めていたのです。バーゼルⅡでは、リスク計測の精緻化、正確化を求めるようになり、リスク計測指標の多様化や計測対象の広範化も行われました。こうしてバーゼルⅡへの移行期間が過ぎたところでリーマンショックが起こったのです。

バーゼルⅡで規定されるノンリコースローン(非遡及型融資, 住宅の価値を上限とする有限責任のローン)のリスク量を評価するのに、プロジェクトファイナンスなどでノンリコースローンの最低所要の自己資本の算定ルールが作られました。これをスロッティング・クライテリア(内部格付手法のリスク・アセット計測で特定貸付債権に対し金融庁が設定する5段階のリスク・ウェイトに格付けをマッピングする方法)に合わせてリスク・ウェイトを決めます。

不動産や建設は、リスクが高いところに位置付けられています。1件当たりの規模が非常に大きく、収益を長期間に渡ってコントロールしなければならないからです。「ボラティリティ」という言葉を聞いたことがあると思いますが、どれぐらい将来の見通しがブレるのかを統計の標準偏差を使って計算したものです。

不動産市場は一般的にはボラティリティが非常に大きいマーケットであると言われます。分散効果が効かないので、1つの資産の影響が大きく出てきてしまいます。ボラティリティの高い事業用の不動産向け貸付を除く特定貸付債権のPD(Probability of Default)を推計すると、リスク・ウェイトが高いところに設定されてしまうのです。

金融危機によって、保有する有価証券の含み益が減少すると、自己資本も低下していく。日本では株式市場の影響、欧州では債券市場が止まってしまい債券の価値が変化したことで、金融機関は貸出を厳しくしていきました。

近年、金融政策の影響について議論されるときに「金利が上がったら」という話題が出ますが、それ以上に「自己資本のリスクがどのように変化するのか」「リスクに対して社会全体の自己資本がどうなっているのか」は非常に重要なのです。自己資本の維持・向上による貸出資産の見直し・圧縮によって、銀行は全体の貸出残高を伸ばしつつも、不動産業向けの貸出残高を急速に減少させてしまったのがリーマンショックだったといえるでしょう。

個別審査で陥る鑑定評価のかさ上げ問題

もう1つ重要な問題に個別審査があります。不動産のノンリコースローンを利用した開発型プロジェクトの個別審査は、定性的に評価する側面が強いので、市況が悪化した場合に審査そのものが硬直化してしまうことが起こりました。

ノンリコースローンの事業性を評価するときには、「マーケットがどうなのか」「マーケットのシェアはどうなのか」「競争力や参入障壁はどうなのか」などといった、事業そのものを評価する定量的な評価手法が確立されていることはありません。「ファイナンスのスキームがどうなっているのか」「ローンとバリューとの対応関係、返済の条件、DSCR(元利金返済カバー率)、月々のキャッシュフロー(月々の返済額)をカバーすることができるのかどうか」なども、審査する側は見ています。

さらに「担保評価をどう見ているのか」も非常に重要になってきます。「1つ1つの担保評価やローンの評価を十分にできなかったのではないか」と、当時の金融当局は各銀行に強く指導したと聞きます。「不動産の鑑定評価、担保評価がいい加減過ぎたのではないか」「クライアントである鑑定評価書の発注者に求められるままに鑑定評価書を操作してしまったのではないか」とまで言ったようです。

これまでも鑑定評価のかさ上げで、様々な社会問題が発生していました。売却する側は高い価格で売却したいのですが、ファンドのスキームで買うなら安い価格で買わなければいけません。もちろん、最後は均衡価格で折り合いをつけて買うことになりますが、鑑定評価をコントロールして投資家に損失を与えるだけではなく、社会全体の金融リスクを高めてしまう行動がとられてきました。近年でも同じようなことが行われており、注意深く見ていく必要があります。

不動産を正しく評価するデューデリジェンス

保有する情報量やリスクの見方が異なる問題もあります。評価を行う、投資をする、ファンドを組成する、それぞれに立場によっても違います。

不動産の「デューデリジェンス」という審査では、物理的な調査、法的な調査、経済的な調査を行います。物理的な調査は、土地の状況、建物の状況、環境を見ていく。法的な調査は、権利関係、賃貸借契約、売買契約などを見る。経済的な調査は、マーケットの分析や、賃料の収入、運営、支出などを見ていく。

鑑定評価では、経済的な評価を見ます。物理的な調査は「エンジニアリングレポート」によって見ていきます。本来はエンジニアリングレポートを参考にしなければなりませんが、鑑定人が建物の物理的な調査を評価する能力を持っていない場合、レポートを鵜呑みにしてしまうケースもあるので、鑑定では厳しくチェックすることがポイントになります。

不動産の正しい評価によって、健全な不動産投資市場の成長を実現し、規模を拡大してきました。今後、一層の成長を目指すには、健全性を担保する制度を確立し、法的なルールや倫理を大切にしていく必要があります。

近年、環境に対する配慮が求められるようになりました。「環境に配慮すると、不動産の価値が高くなるだろう」とか「リノベーションをすれば価値が高くなるだろう」という思い込みで鑑定評価をかさ上げすると、それは「不当鑑定」になります。これまでにもリノベーションで耐用年数を長くするなど鑑定評価をかさ上げした金融機関は処分されています。環境認証や環境評価も慎重な対応を求められます。

金融危機は、細かな要素が積み重なって生じました。マーケットが健全な成長を実現していくには、過去に起きたような金融危機は二度と起こさないよう、投資家や金融商品の組成者など、プレイヤーとして関わる方々が倫理的な行動を取ることによって、投資市場をしっかりと育成し、成長させていくことが必要です。

スピーカー

清水 千弘

一橋大学教授・麗澤大学国際総合研究機構副機構長

1967年岐阜県大垣市生まれ。東京工業大学大学院理工学研究科博士後期課程中退、東京大学大学院新領域創成科学研究科博士(環境学)。麗澤大学教授、日本大学教授、東京大学特任教授を経て現職。また、財団法人日本不動産研究所研究員、株式会社リクルート住宅総合研究所主任研究員、キャノングローバル戦略研究所主席研究員、金融庁金融研究センター特別研究官などの研究機関にも従事。専門は指数理論、ビッグデータ解析、不動産経済学。主な著書に『不動産市場分析』(単著)、『市場分析のための統計学入門』(単著)、『不動産市場の計量経済分析』(共著)、『不動産テック』(編著)、『Property Price Index』(共著)など。 マサチューセッツ工科大学不動産研究センター研究員、総務省統計委員会臨時委員を務める。米国不動産カウンセラー協会メンバー。

【コラム制作協力】有限会社エフプランニング 取締役 千葉利宏

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