落合陽一氏に学ぶ、企業における“持続可能”のヒント
〜新陳代謝を恐れず、付加価値を磨く〜

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目次

企業を取り巻く経営課題は、エネルギー価格や物価の高騰、人材不足など実に多様化しています。企業はこの局面をどのように乗り切ればよいか、そして、100年企業のような「持続可能な」企業であるために持つべき視点とはどのようなものでしょうか。そのヒントを、筑波大学デジタルネイチャー開発研究センターのセンター長であり、メディアアーティストの落合陽一氏に伺いました。

変化に強い人材を増やす

近年のデジタルを中心としたテクノロジーの進歩は目覚ましいものがあります。小さなものも含めれば1~2週間ほどの短いスパンで変化が起きていると考えていいでしょう。この変化は実に急激で、歴史上類を見ないほどです。

テクノロジーの進歩のスピードは、学術の世界にも表れています。例えばサイエンスの論文ならば、ジャーナルに掲載されるまでには査読期間を含めると1年ほどかかるのが通常です。これに対して、コンピューターサイエンス分野は、1年も待っていたら論文の内容があっという間に古くなってしまいます。そのため、ジャーナルではなくカンファレンスにおいて発表することが主流になっていましたが最近ではその速度も追いつけなくなっています。査読システム自体も考え直さないといけない速度になっています。

企業経営も、こうした技術社会の変化のスピードと無縁ではいられません。生き残っていくためには企業の新陳代謝のスピードを上げることが求められますし、経営者の意思決定の早さもますます重要になってくるでしょう。

新陳代謝ができる組織になるには、人材の採用や育成についても従来とは異なる発想で取り組まなければなりません。変化に対する適応能力が高い、意思決定が早い、豊富なアイデアを持っている、といった人材を見極め、重用することも大事です。

新しいことに挑戦する土壌として、若い人材の“自由度”を高めることも重要です。自由な取り組みができるように、「どこまで権限委譲するか」を改めて考えてみてはどうでしょうか。ある程度の失敗があったとしても周囲がフォローする体制を整えておけば、若い人材の可能性はもっと広がるはずです。

加えて、そもそも人手が足りないという課題については、テクノロジーを積極的に自社に取り入れることで解決できる部分も大きいでしょう。ロボットやAIの開発などに投資し、業務の一部を自動化することもカギになると思います。

もう一つの社会の変化として、これまで日本のモノづくりはグローバルで高い評価を受けてきましたが、最近はより安いコストで性能も優れている新興国の製品の台頭で敗れてしまうことも増えてきました。

そこに対する戦略として今後、意識したいのは「囲い込み」と「付加価値」です。社会はネットバブル崩壊後の20年ほどのあいだにIT化と資本主義が合体し、ハードウェアを中心とした経済からソフトウェアを中心にユーザーを囲い込む経済へと大きな方針転換がなされています。

ソフトウェアを中心にユーザーエクスペリエンス(製品を使うことで得られるユーザー体験)を最大化し、ユーザーの離脱率を下げることを重視してビジネスを展開してきたのが米国式経済の特色です。今後はこうした囲い込み戦略と、高い技術力・品質を付加価値につなげる戦略の両面を実現することが必要でしょう。日本や自社ならではの付加価値を再発掘、発信していくことは、価格競争からの脱出という日本企業が抱える大きな課題の解決策にもなりうるはずです。

問題は、今あらゆるツールはローコストで実行可能になっているにもかかわらず、ほとんどの人は作り始めないところです。専門知識から来るのではなく、AIと二人三脚で高速に作り上げていくことは誰でも可能です。しかしながら、みんな作り出さない。このギャップが最大の問題だと私は考えます。

地域に投資しブランド化する

変化する社会で企業が生き残っていくためのヒントは、テクノロジーのような新しいものだけでなく、企業が積み重ねてきた過去の歴史にも見つけることができます。

日本には、100年、200年続いている企業が多数存在しています。企業の多くが平均50年程度で新陳代謝し入れ替わっていくことを考えると、世界を見渡しても日本は珍しいケースだと思います。つまり、日本は伝統的にサステナブルな企業を作るのが得意といえるでしょう。私は100年企業に非常に関心を持っていて、積極的に育てていきたいとも思っています。100年企業のような「持続可能性」がある企業に学ぶべきことは、たくさんあるはずです。

日本にこれだけ多くの長寿企業が存在する理由の一つに、同族経営が挙げられます。同族経営の場合、「いかにして家を守り続けるか」という家督相続に対する強い意識が、企業自体の存続につながってきたわけです。上場企業のように、資本主義の力に大きく左右される企業であれば、コンプライアンス意識やグローバル経済との関係性が大事になるでしょう。一方、長寿企業の多くは、ローカリティを活かしてグローバルの基準とは異なる価値の中で動いており、そこには企業や地域独自の面白さを感じられます。

こうした100年企業が、より長く経営を続けていくために必要なことは何か。よく、政治家が選挙で勝つための“選挙の3バン”として「地盤・看板・カバン」があると言われています。実はこの3つは、ある意味で100年企業にとっても欠かせない要素となっているのです。

選挙においては「地盤=組織力」、「看板=知名度」、「カバン=資金」ですが、企業にとっては「地盤=地域に投資し、地域の中で人材を育てる」、「看板=ブランド化」、「カバン=資本」と置き換えられるわけです。地域や人をブランド化するためには、可能性のある若い人材や地盤に対して積極的に投資することも必要になってきます。そして、100年以上続く企業であること自体も、一つのブランド価値といえるのではないでしょうか。地域に根差す企業だからこそ発掘できるローカルの魅力は、先ほど挙げたグローバル市場における付加価値にもつながっていくと言えます。

ゼロエミッションで高める持続可能な企業価値

私は、2017年に「朝日地球会議」という講演会で国連副事務総長のアミーナ・モハメッド氏に出会ったことを機にSDGsについて興味を持ち、著書『2030年の世界地図帳』では、SDGsを主軸に未来への展望を綴りました。

現在ではSDGsの概念は日本でも広く知られていますが、日本の多くの企業が、以前からグローバルサプライチェーンの中で率先して持続可能性を考え、行動してきたかというと、そうとも言い切れないでしょう。しかし、古くからある企業・産業の中にも、持続可能性に対して長年にわたり寄与してきた例は多くあります。

林業を例に考えてみましょう。
林業は企業経営上、一般的に寿命が長いと言われています。木を植えて育て、それを商品として出荷するまでに長い年月がかかるため、必然的に長く事業を続けるための工夫を考えてきたからです。

その過程で、環境への取り組みにも自ずと行きつき、たとえば廃材を発電に使うなど、ゼロエミッション(企業活動から出る廃棄物を削減、リサイクルして限りなくゼロに近づけること)を意識した取り組みを行う企業もあります。

林業に限らず、ローカルに根差している企業では、創業者から経営を引き継いだ二代目、三代目がゼロエミッションを目指すケースをさまざまなところで見聞きしています。昨今では、それが企業としてのブランド力につながるという価値観が根付いてきつつありますし、若い人たちが、そういったブランドに魅力を感じて入社することも今後増えていくのではないでしょうか。SDGsは、人手不足という経営課題にもヒントを与えるものなのです。

このように、SDGsへの意識を持ち、実行していくことは、企業の存続そのものにも大きく関わってくることだと考えています。変化する時代の中で見えない檻に囚われずにすぐに始めることが一番重要だと思います。

お話を聞いた方

落合 陽一 氏(おちあい よういち)

メディアアーティスト

1987年生まれ。東京大学大学院学際情報学府博士課程修了(学際情報学府初の早期修了)、博士(学際情報学)。筑波大学デジタルネイチャー開発研究センターセンター長、准教授・JSTCRESTxDiversityプロジェクト研究代表。IPA認定スーパークリエータ/天才プログラマー。ピクシーダスト テクノロジーズ代表取締役。
2017年〜2019年まで筑波大学学長補佐、2018年より内閣府知的財産戦略ビジョン専門調査会委員、内閣府「ムーンショット型研究開発制度」ビジョナリー会議委員及び内閣府ムーンショットアンバサダー、デジタル改革法案WG構成員、2020-2021年度文化庁文化交流使、大阪・関西万博テーマ事業プロデューサーなどを歴任。
2015年WorldTechnologyAward、2016年PrixArsElectronica、EUよりSTARTSPrizeを受賞、LavalVirtualAwardを2017年まで4年連続5回受賞など受賞多数。
個展として「ImageandMatter(マレーシア・2016)」、「質量への憧憬(東京・2019)」、「情念との反芻(ライカ銀座・2019)」など。著作として「魔法の世紀(2015)」、「デジタルネイチャー(2018)」など。

[編集] 一般社団法人100年企業戦略研究所
[企画・制作協力]東洋経済新報社ブランドスタジオ

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